タイトル未定





      R18予定




何かが普段と違っていた。

なんだ?ハジはゆっくりと耳を澄まし、神経を研ぎすます。
しん、とした静かな午後――そうだ、とハジは気付いた。



もう戦争は終わったのだ。

ありとあらゆる攻撃の音が止んでいた。
砲弾が着弾する、あの破裂音も。ぱらぱらと響く重機関銃の音も。空襲も。サイレンも。
あの、昼も夜も、絶え間なく聞こえていた破壊の音が、すべて止んでいたのだ。

しん、と静まり返ったベルリンの街。
聞こえるのは時折走る軍用車の音と、武装解除を呼びかけるマイクの声のみ。
連合軍が、声高に武器を棄てて戦闘を止めるよう繰り返していた。

崩壊しかかったアパートに、でたらめに掘った防空壕。地下室の中などに、まだたくさんのベルリン市民が身を潜めて
いるはずだった。なのに……それなのにひとの気配がちらとも聞こえない。
抵抗するでもなく、白旗を掲げ投降するわけでもなく。

ただ音が消えた。





ことり、と物音ひとつない静けさの中、ハジはサヤを見下ろした。
白いシーツの上に広がった黒髪、赤い瞳。
その目は何を考えている?ハジは顏を歪ませた。
たかが従者でしかないのに、こうしてどうしようもなくあるじを求めてしまう、
あさましいこの身を……サヤは嗤っているのだろうか。

「……拒んで下さい。嫌ならば」
「……?」

怪訝そうにサヤはハジの目を見上げた。拒めと口では言いながら、ハジの指は次々と
サヤの服のボタンを外していく。
サイズの会わない男もののシャツ。乱暴に前を広げると、そこにあらわれたのはまぎれもない女の身体だった。
まぶしいほど白く透き通った肌。細いのに、やわらかな曲線が上半身からくびれた腰へと続き、胸のまるい隆起の先は淡く
うっすらと色づき、カクテルに添えられたチェリーのように光っていた。

サヤの目には見えていなかった乳房。女のあかし。
ハジはその張りのある乳房に口付けた。
「……サヤ」
つよく吸う。所有印を刻むように。
「あっ……ハ、ジ」
「痛いですか…?」
戸惑った顔でサヤはハジを見つめた。そこには拒絶の表情はない。
ただ記憶を探るように、少しだけ眉をひそめ、ハジの愛撫に身を任せている。
サヤは小声でたずねた。
「……ひょっとして、ハジと……前にも……?」


――ええ、そうですよ、サヤ
ハジは顔を上げ、サヤの唇に口付けた。舌でこじあけ貪るようにサヤを求める。
ひくり、と驚き口腔の奥に引っ込んだサヤの舌を引き出し、からめ、思うままに舐った。
「……っ、んっ」
呼吸が苦しいのかサヤが大きく喘ぐ。ひゅう、とひと息空気を吸わせ、またすぐにハジはサヤの唇を塞いだ。
荒々しくキスを繰り返す。
「――っ……ん、んっ」
ようやくハジは唇を解放した。サヤの頬は上気し、


サヤ。こうして私はあなたを何度も抱いたのですよ。動物園で。あのはじまりの地で。
あのエデンにも似た楽園の中で、私たちは男と女だった。森の奥で、人目を忍んで、抱きあい
キスをして、そうして私の腕の中であなたは女になったのですよ。

「……ん、あっ……ん、ん」
ハジが胸や細い腰、なめらかな肌に口付けの雨を降らせると、少しずつサヤの声が艶を帯びてきた。
下着もすべて取り去りサヤの足を開かせる。その場所に手を滑り込ませると、ハジはふ、とわずかな吐息をついた。
彼の愛撫にサヤが応えてくれている。指の先にたしかにその存在を感じ、くちゅ、という
小さな音を確認する。サヤの耳元でハジは囁いた。
「……聞こえますか?」
「…………な、に…?」
「……あなたは女なのですよ」

ほら。ゆっくりと指を増やし、わざと音を立てた。淫靡な、粘度の高い水音を響かせる。
「……っ、……あ、やあっ……ハ……ジ」
サヤは顏を真っ赤に染め首を振った。
サヤの嫌がることはハジはしない。すぐにすっと指を引き抜く。するとサヤはそれも嫌、とばかりに
切なそうな目でハジを睨んだ。
「……なんて目で見るのですか」
ハジは胸だけでなく、サヤの身体じゅうに赤い、所有の印を散らせた。その痕は赤く残り、
ハジにいやがおうでも、あるじの休眠が近いことを知らせる。もう残された時間はあまりなかった。

「サヤ」
激情に煽られてサヤの両膝をぐいと割った。その膝を抱え、片方の足を肩に担ぎ、からだを繋ぐための体勢を取らせた。
「……やっ……あ、ハジ……!」
サヤが一瞬恥じらうように首を振った。女らしい悲鳴を上げ脚を閉じようとする。紅潮する頬、潤んだ瞳をハジに向け、その顏は
たまらなく扇情的で、女だった。
「……お許しください」
昂りのままにサヤの中に押し入った。
「――ああっ!」

サヤは高くひと声上げて仰け反り、「ハジ」と叫んだ。
かたく手を握りあう。――それは結ばれるときにいつもする、約束ごとだった――

痛いのだろうか。ハジは喘ぐ息をこらえ、サヤの耳元で尋ねた。
痛いですか、と。答えの代わりにサヤの両の手がハジの首に回された。ぎゅ、と精一杯
ハジの背中を抱きしめようとするサヤに、ハジはいとしさでたまらなくなる。
大丈夫だから。かつて動物園で、あの森の奥で。ハジに抱かれるたびいつもサヤはけなげにそう言ってくれた。
ハジ、大丈夫だよ。動いていいよ。
「サヤ…!」

ぎしぎしとベッドのスプリングの音が規則的に鳴った。
「……はっ、……サ、ヤ…!」
はあはあと互いの息は上がっていた。
何度押し入ってもサヤのそこは狭い。充分に解しても、しどとに濡れていてもいつもそうだった。
「……あ、あっ……う」
懸命に痛みに耐えるサヤがいじらしい。それでももう止めることなど出来なかった。
ハジはやさしく、けれど確実にサヤの奥へと腰を進めた。
「サヤ……!」
ぐ、とサヤの内側を擦るように突き上げる。サヤがまた声を上げた。上気した顔を振り、切なげに
ハジの背中にしがみつくように爪を立てる。何度目かの突きの後にぎり、と爪が皮膚に食い込んだ。
「……あ、ごめ……」
「謝らないで」
シュヴァリエの身に傷など残りはしない。今こうしている間にも、傷は消えているだろう。
残して欲しかった。たしかな愛の行為の証しを。


「サヤ……!サヤ!」
楔を打ち込むように、サヤを求めた。何度も名を呼び、抽送を繰り返す。
ぱん、ぱんと肉のぶつかる音。汗と、互いの体液が混じりあう、男と女が交わる音。
サヤが

「ーーああっ…!あ、ああ、ハジっ……ハジっ…!」
「サヤっ……!」
ハジは心で叫んだ。



ーーーどんなに愛しても。
何度肌を重ね、どれほど高みにふたりで上り詰めても。

あなたは私を忘れてしまう。

この指も。この舌も。この悦びも。

最初から何もなかったように、すべて忘れ、
私との情事など、シャワーで汚れを洗い流すように何もかも洗い清められて、
そうしてあなたは純白の繭の中から生まれ直す。

無垢なままで。


「サヤっ……!」
奥の奥まで突き入れ、ハジは深く喘いだ。ぶる、とサヤのからだが大きく震え、ハジは
その細い身体をひしと抱きしめた。同時にありったけの想いをサヤの中に吐き出す。


恍惚の中、見つめあった。
サヤの髪をそっと撫で、ハジはその腕のなかにいとしい人をすっぽりと抱いた。
静かなとき、しあわせでたまらなかった。
ハジはサヤにどう言おうかと迷った。

サヤ、戦争はようやく終わりました。

もう止めにしませんか。
ディーヴァを追うのも。戦いも。
あなたがディーヴァを解き放っても、またしていなくても、人間たちは互いに相争い、暇さえあれば
戦争ばかり繰り返しているのですよ。

人間はこんなにも愚かなんです。
ジョエルだって、ディーヴァをずっと閉じ込めていた。ひどいことを彼はあなたの妹にしていた。
あなたにも。

ハジはその言葉を言おうと口を開いた。

サヤ。もう戦いを棄てて私とーーー

「!」
その瞬間、ふたりの耳に「歌」が轟いた。

張りのある、澄んだソプラノ。天上から聞こえてくるような、まさにそれはーー


「……ディーヴァ!」

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