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Release 2002/8/3 ~ 6 |
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巻頭言1183 「住基ネットのどこが問題なのか ─前編─」 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
一年ほど前からのリクエストに対して、ようやく回答が出せる時期がやってきた。表題にあるとおり、「住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)」についてである。ただ、最近になり、ようやく様々なメディアに露出して来たこともあって、基本的なことは多くの方がご存知だと思われるので、本稿としては、基本的考え方は簡単にふれるだけとし、私が微力ながら行政システム開発並びに構築に携わってきた経験等を踏まえて、一体何が問題で、何が変わるのかを私の見方として論じて行きたい。 それでは、今さらだが、住基ネットの基本について見ていこう。 なぜ、このようなものを構築するのか。国の趣旨は、「各種行政の基礎であり居住関係を公証する住民基本台帳のネットワーク化を図り、4情報〔氏名・住所・性別・生年月日〕と住民票コード等により、地方公共団体共同のシステムとして、全国共通の本人確認ができる仕組みを構築」するためのものだとしている。つまり、行政システムを運用して行く上で最も難儀なものの一つである、いわゆる「同一人判定」を決定的になくしてしまうことの実現であることが趣旨から読み取ることができる。この「同一人判定」は、システム開発や実装という面においては、「仕組み」さえ用意してしまえばいいので、それほど困難ではないが、行政が実際に運用する際、システムレベルでのマッチング処理において、アンマッチとなったデータに対し、それが本当に異なった人(別人)なのか、あるいは何らかの理由で異なったコードが付番され、実際には同一人物なのかという判断が、非常に困難なのである(最後の頼みは人海戦術だから)。 私もこの件については、介護保険システム構築の際、行政側ではなくシステム開発側でありながら、大きな困難として経験したことがある。それは、社会保険庁からの年金情報を取得し、地方自治体が持つ住民情報(介護保険第一号被保険者=65歳以上の人)とマッチングさせた際、3割以上ものアンマッチ情報を出力してしまったからである。 そもそも、社会保険庁側からの年金情報は、当該地方自治体に含まれる年金受給者として精査されたものなのだが、この年金情報の個別内容があまりに杜撰なデータであり、地方自治体が持つ、より正しい住民情報との不整合が多かったのである。私もすべてを吟味したわけではなかったが、いくつか見た中でも、氏名の間違い(漢字が異なる、旧姓のまま、等など)、性別の間違い(男であるのに女となっている等)、生年月日の間違いが多く目立った。社会保険庁が統括する年金情報は、多くの年金保険者(年金を支給する対象)の情報を寄せ集めたものであり、個々の年金保険者は年金受給者に対してきちんと年金が支払われればいいのだから、それが正しい個人情報でなくても業務上何ら支障を来たさないのである。 当該業務で支障を来たさないデータベースであっても、データベースに搭載された項目だけを見て、当該業務の実態を省みず、他業務でそのデータベースの項目を流用してしまうと、期待した成果が得られないことはシステム開発・運用面での常識と思うのだが、介護保険業務構築の際、こういったことはまったく考慮されていないかのような社会保険庁との年金情報交換が行われ、同一人判定に苦慮したものである(これが人口1000人規模の地方自治体ならともかく、政令都市以上の規模となれば、とんでもない業務量となることは推して知るべしだろう)。 なお、余談だが、これに関連していえることとして、今年度から国は国民年金業務のほとんどを地方自治体から引き上げ、国が直接年金事務に関与することとなったが、これを合理的に管理する目的で、住基ネットの構築を急いでいる(というか遅延できない)と思われる。というのは、地方自治体が行っていたときでさえ、国民年金情報は、年金受給者だけでなく年金保険料支払者も含めた情報管理は困難を極めたものだったからである。国民年金は国の制度なので、地方自治体間の転出入があったとしても国民年金資格が変わるものではない。だが、実務上は国民年金事務の管掌が変わるため、地方自治体間で転出届・転入届を経て、情報交換を行わなければならないのである。さらに、国民年金資格は他の年金制度に変わることで資格がなくなる(就職することで社会保険等に加入すれば、その時点で国民年金資格は喪失する)ので、このような情報とも連携しなくてはならない。もっとも、制度(法令)上は国民に届出義務を課せられているのだが、実際にはあまり守られておらず、事後連絡があればまだいい方で、そうでないものが多いのである。 こういった現状を打破するだけでも困難なのに、さらにそれが国に一元化されたことで、国民年金も含めた年金の資格管理事務は困難どころの騒ぎではなくなる。それを統一番号として一元管理するためのものとして期待されるのが、住基ネット構築により誕生する住民票コードというわけである。住民票コード情報そのものは大した情報量でなくとも、それを付番することによる他情報とのリンケージによって、膨大な情報のインデックス(固有ID)として利用されるわけである。 以上は年金事務についてふれておいたが、これ以外の事務についても情報のインデックスとなるとなるのは自明であろう。国民向けには「全国共通の本人確認ができる仕組み」と抽象的なことを言っているが、システムレベルにおいては「多種多様に管理されたデータベースを一括串刺し管理できる固有ID」という役割を持ち、広い意味では本人確認には違いないが、本質的には個人を特定する重要なキーということができるだろう。 と、ここまで簡単に住基ネットの基本と、住民票コードの本質について見てきたが、次回は住基ネットが導入される以前、つまり現時点においての地方自治体の個人情報管理の一断面について語って行きたい。いうまでもないが、運用を行う主体は国ではなく地方自治体なのだから、ここの部分を明らかにしておくことは、今後の住基ネットの議論の一助になると考えるからである。というわけで次回に続きます。(2002/8/3) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
巻頭言1184 「住基ネットのどこが問題なのか ─中編─」 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
と、ここまで簡単に住基ネットの基本と、住民票コードの本質について見てきたが、次回は住基ネットが導入される以前、つまり現時点においての地方自治体の個人情報管理の一断面について語って行きたい。いうまでもないが、運用を行う主体は国ではなく地方自治体なのだから、ここの部分を明らかにしておくことは、今後の住基ネットの議論の一助になると考えるからである。 (前回までの続き) という議論の前に、ご質問をMailで頂戴したので、先にそれについてお答えさせていただく。ご質問の趣旨は、「住民票コード11桁の内訳は何か?」というものだが、回答としては「10桁+1桁のチェックディジット」となる。が、興味深いのは、10桁の数字というのが完全なアットランダムな数字であるということだろう。 よくありがちな付番方法として、最初の2桁を都道府県コード、続く3桁を…などといった桁毎に意味を持たせた方法があるが、今回の住基ネットの根幹となる住民票コードは、10桁の数字がまとまって意味を持つのみとなっている。近いうちに、多くの方々が自身の住民票コードを見ることとなるはずだが、同一世帯に属していたり、あるいは親子関係等もまったく考慮に入っていないランダムな付番に驚かされるだろう。つまり、この住民票コードというのは、国という大枠の中のみで利用される前提となっていることが、コードの定義からわかるというわけである。 しかし、完全なアットランダムだと言い難い要素もある。というのは、まず、地方自治体単位で既存の住民基本台帳に付番しなければならないのだから、これらを全国ルールで重複したコードを選択させないようにする必要があるからである。このため、本来は住基ネットワークの事務の委託先に過ぎない全国センター(財団法人地方自治情報センター。法令上の定義では指定情報機関)が、地方自治体毎にどの番号エリアを使用していいかを定義し、その範囲内で付番していくわけである。そして、地方自治体は、指定された範囲内において、個々の住民基本台帳に含まれる個人単位で付番するのだが、この裁量は各地方自治体が持っているので、全国レベルではアットランダムだとなるが、地方自治体毎にはそうでない場合もあることがある。 さて、以上で住民票コードについての説明は終え、前回予告どおり、現時点においての地方自治体の個人情報管理の一断面について語って行くことにする。 はじめに、私の経験等という非常に狭い範囲の話から入るのでなく、ある程度客観性をもった情報から示しておこう。日本弁護士連合会が行った「住基ネット施行に関する第2回日弁連アンケート」の結果のもとに、ポイントになりそうな部分のみ列挙してみると、
というように、何とも寒い状況を見ることができるが、地方自治体のシステム運用現場を多少でも知っている方であれば、だいたいこんなものだろうと感ずるに違いない(ま、所詮はアンケート調査なので、実際にアンケートに記入した担当者がどれだけ実態を把握しているかによって回答結果は大幅に異なることも珍しくない。なので、あくまで参考程度と見るべきだろう)。なので、いくら国が「個人情報保護措置」を声高に言ったところで、肝心の運用主体がこの体たらくでは、何をかいわんやというものである。 特に、問題となりそうなのは、意図した悪意の下に不正利用する面々よりも、いわゆるコンピュータ音痴というべき、そういった方面に無定見な面々である。とある地方自治体で、いわゆるVDT規制により長時間の使用を制限するため、一定時間同じIDで利用が続いた場合、そのIDでのアクセスを制限するという考え方が示され、そのシステム改造を依頼されたことがある。表面上だけを見れば、これはおかしな依頼ではないので、指示どおりにそれを実装したところ、システムを利用していた現場からクレームが殺到したという。 このクレームは、「仕事でシステムを利用中に、いちいち初期画面に戻ってログインし直さなければならないのは不便である」というものだった。察しのいい方はお気付きのとおり、この現場ではシステム起動後、一つのIDでログインした後、業務終了までずっとログインしたままだったのである。なので、一つの業務フェイズが完結し、そのタイミングでID単位での利用時間が一定時間を越えていれば強制的に初期画面に戻る(ログアウトさせる)という仕様では、現場のいうように一定時間毎に初期画面に戻ってしまい、不便でどうしようもないという苦情が出るのは当然ともいえるわけである。 だが、これでは何のための個人単位でのIDであり、またログイン、ログアウトを義務付けているかが有名無実化しているのは明らかだろう。この現場では、業務多忙でありながら導入端末が少なく、頻繁にある問い合わせに対して、わざわざログイン・ログアウトするほどの時間が惜しいという理由(これが建前上のものであり、実際には多くの業務担当者が、コンピュータライクなID、パスワード入力を嫌っている)からであったが、この例からもわかるように、どれだけ優れたシステムを導入しようとも、それをどう運用するかで変わってくるものである。セキュリティとはシステムでなく人であるにもかかわらず、多くの場合、地方自治体では専門家を置かず、人事異動でたまたまその担当になった人によって、すべてが決してしまうのだ。 すべてがそうだというものではないが、これは住基ネットだけの問題ではない。地方自治体が保有する個人情報とは、住基ネットの議論の中で出てきているようなセキュリティ面での不備は、日常よく見られるものなのである。国が一括管理できる云々という問題は別にして、個人情報が不正利用(目的外利用)されているという現実は、どれだけ法や条例で守られていると主張したところで、その実態を把握しないところでの主張は空文に過ぎない。 つまり、住基ネットの問題は、個人情報の不正利用(目的外利用)と、国が一元管理する危険性というものとは分けて議論すべきであるということである。というわけで次回は、もう一方の危険性が指摘される住基ネットによる情報の一元管理についてふれていくことにしたい。(2002/8/4) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
巻頭言1185 「住基ネットのどこが問題なのか ─後編─」 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
これまで、住基ネットの基本、住民票コード、地方自治体の個人情報不正利用(目的外利用)について見てきたが、もう一つ簡単に付け加えることとして、合理化の名の下に、次々と個人情報の利用が拡大されている現状を指摘しておこう。無論、国レベルではなく、地方自治体レベルでの話である。 地方自治体には、多かれ少なかれ、個人情報についての扱いが条例や規則等で定義されているが、実際にどういった個人情報を目的外利用とするか否かは、条例そのものでは個別に定義されることはない。というのは、条例とは国でいう法律そのものなので、具体的に何を指すかやどういった運用を行うかという細かい規定は、別に定めるものとするという格好で、規則等で別途定義されているのである。そして、そこで定義されていないものを判断する場として、例えば個人情報審議会のような機関を設置し、これにはかることで同じような扱いをするか否かが決定されるが、大変残念なことにこの審議会があまり機能しておらず(行政側からすれば免罪符のような扱い)、合理化や経費節減という大義名分の下に、ほとんどなし崩し的に個人情報の相互乗り入れが行われているのである。 例えば、住民税情報と介護保険情報とでは、あまり関連性がないように思えるが、介護保険料の賦課計算に必要な情報として、被保険者の同一世帯における世帯員の住民税情報がある。これは、一般的に介護保険料に関連する40歳以上の人だけが対象と思われがちだが、40歳未満でも65歳以上の人と同一世帯に属していれば、介護保険情報のうちに住民税情報が取り込まれていることを意味するものである。国の言い分では、この部分は地方自治体(介護保険者)が、介護保険料賦課計算情報として、当該者に自己申告をさせるような形としているが、多くの地方自治体では当該者に連絡を取ることなく、住民税課税当局からの情報を流用しているわけである。もちろん、これは不正利用などではなく、規則で定義されていたり、先の個人情報審議会のようなものを突破しているので、法令上はまったく問題がない(形となっている。ただし、違法立法審査のようなもので完全に問題はないといいきれないが、手続き上は問題がない)。 つまり、個人情報の自己コントロール権(+監視する権利)が個人に与えられない限り、こういった動きは止めようがないのである。修正権だけで、どうなるものでもないのだ。 (仮に、とある個人情報を自らが提供する際、この情報は目的外使用をしませんとあっても、何を以って目的外使用というのかは意見のわかれるところである。また、具体的に目的が書かれていたとしても、収集された個人情報はそういった経過とは関係なく蓄積され、提供元情報は5年程度で破棄されてしまうことから、担当者が異動などで経過を忘れてしまえばそれっきりの世界である。個人情報管理の杜撰さは、枚挙に暇がないのが地方自治体の実態とも言えよう。) さて、住基ネットである。住民票コードは、ほとんどの地方自治体が運用する住民システムが付番する個人番号の全国版といえるのだから、これを利用してこれまで地方自治体が行ってきたような個人情報の相互乗り入れは絶対的に避けられないものとなる。地方自治体の中には、住基ネットに接続しないと意気軒昂なところもあるが、自らの個人情報管理は大丈夫なのだろうか。まさか、住基ネットに接続しなければ個人情報が守られると思っていたなら、疑問を呈さざるを得ない。あるいは自らの杜撰さをわかっているからこそ、他まで進む個人情報漏洩を懼れているのかもしれない。 それはともかくとして、住基ネット導入による住民票コードによって、全国レベルでのインデックスデータが手に入れば、これまで市区町村といった地方自治体が分散して行ってきた事務が、広域地方自治体である都道府県やそれより広域の都道府県連合、あるいは国というレベルで行うことができるようにもなる。地方分権でありながら、このような動きが出てきている理由としては、地方自治体では新規事務に満足に対応できず、相変わらず国からの指示待ちが続いている(もっとも、国の方でも制限をかけているふしが見受けられるが、中小の多くは指示待ち同然である)からである。また、地方財政危機という理由もあるだろう。合理化の進むところは、とどのつまり統合への道なのだから、建前論として、個人情報保護の危機がいわれてはいるが、本音の部分としては余計な財政支出が今後抑えられるなら止むを得ないという判断も働いていると思うわけだ。 (それが証拠に、個人情報保護法が成立すれば、住基ネットそのものには反対でないという意見が多いことからも明らかだろう。これまでにもふれてきたように、セキュリティとは人がどう運用するかなのだから、どんなに優れたシステムを入れようとも、またどれほど素晴らしい穴のない規則を作ったところで、実態が伴わなければ意味はない。それを確認するには、一過性でなく継続的な監視が必須なのである。つまり、法令の成立で満足するだけでは、かなりの地方自治体が制定している個人情報保護条例と何の違いもないのである。) 最後になるが、このような全国レベルでのデータ交換の元締めとなる「財団法人地方自治情報センター」だが、見かけ上は都道府県側によった位置付けとなっているが、これが国の所管またはそれに類するものとなった場合、巷でいわれる懸念は現実のものと化すだろう。しかし、どういう形であれ、データベースのオンライン利用に強力なインデックスキーが作られれば、合法だろうが不法だろうが、あるいは違法だろうが、必ずデータの相互乗り入れは行われる。いくら、それを行われないような規約や規則を作っても、反故にされるか、適法化されるもの。地方自治体の例を見れば、自ずとそれは見えるものなのだ。(2002/8/5) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
巻頭言1186 「住基ネットのどこが問題なのか ─終編─」 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
前回で、一応終える予定でいたが、Mailでご質問をいただいたので、あと一回この話題を続けさせていただく。その疑義としては、今後どういうことが考えられるのか?というものだったが、あいにく私はそういった立場に居ないので、あくまで予測として議論を展開させていただく。 住基ネットに反対の立場をとる方が、危惧することとして例示されるものの中に、住基ネットの情報が民間業者に使用されるという話があるが、この危惧についてはかなり疑問がある。確かに、宛名情報としては4情報(氏名・住所・性別・生年月日)だけでもありがたいものだが、このような情報は住民基本台帳の閲覧という方法によって、既に公開されたものであり、それが入力の手間がなくなるか否かの違いでしかない(それでも大きな違いだが、個人情報の公開レベルにおいては等価である)。それでは、住民票コードについてはというと、この番号だけ持っているだけでは無価値であり、住民票コードをインデックスキーとして利用できるデータベースを相互利用できなければ、単に顧客番号との違いはない。 要するに、住基ネットに登録される情報を得ただけでは、それは住民基本台帳の閲覧を簡易に行ったに過ぎないのである。肝心なのは、データベースを相互参照する際、住民票コードで芋づる式に複数データベースから当該個人情報を引っぱり出してくるような仕掛けが必要であり、そのためには従来の顧客情報と住民票コードをマッチングさせなければならない。 しかも、住民票コードとは、唯一絶対ではなく、住民の希望により変更可能とされている(電話番号のように、規定ではできても容易に変更させない仕組みが用意される可能性はある)。このことは、一度住民票コードを得ただけでは、インデックスデータとしては役に立たず、常時更新可能なようにしておかなければならないことを意味する。これでは、データベースの基幹に住民票コードを利用しようなどとは思わないだろう。 (例えば、とある高利貸しが住民票コードを利用して、多重債務管理を行おうとしても、当該者が住民票コードを変更してしまったなら、その価値は半減、いやそれ以下となってしまうに違いない。国や地方自治体のように、住基ネットに常時接続されてなければこういう同一人判定のような業務に馴染まず、リスク(法令違反)を冒してまで行う民間業者はいないか、ほとんどないと思われる。) 民間業者の住民票コード利用(違法)や、住基ネット搭載情報の漏洩などよりも、より現実的な危惧は住民票コードと戸籍情報とのリンク(戸籍に住民票コードを添付)である。現時点においては、住基ネットの情報利用は、戸籍事務への利用は行われていない。そのことが、パスポートや運転免許証、住民票への戸籍情報記載といった本籍に関する情報を搭載する事務に応用できない理由であるが、国民の利便性向上のようなお題目(だいたい、住基ネットワークによってどこでも住民票が取れるなどといった馬鹿げた論法が通るのだから…)によって、いつ本籍情報とリンクされるとも限らない。そして戸籍にリンクされた暁には、住民票コードでなく、戸籍コード=完全な国民総背番号へと変貌する。 ご存知の方には自明だが、住民基本台帳に載っていない住民というのは数多い。転出届を出さずに転居し、そのまま他地方自治体(別に他でなくともいいのだが)に住み着いてしまった後、転出元で新たに居住者が入れば、その前の住人の住民票は抹消される。つまり、住民基本台帳から抹消されたままという存在になることが可能であり、これは新たに転入届等を出さない限り、永久に抹消されたままとなる。転入届等を出せば、本籍地を明らかにせねばならず、本籍地では、戸籍の附票を作り、現住所地の存在を明らかにした後、転出元にも転入先の情報を送り、前後関係を明らかにしていくのである──、と横道に逸れそうなので戻ると、要は住民基本台帳に載っていない者ですら、戸籍をベースにしてしまえば、さらに網羅性が高くなるだけでなく、唯一絶対の戸籍情報と住民票コードという唯一無二のものが結びつけば、完全なる個人の同定が可能となり、国民総背番号制が完成する、というわけである。 (このほかに、住民記録に関するシステムを構築したり、あるいは地方公務員でこういった業務に携わったことのある方なら、いわゆる住登外=住民登録されていない者 の存在もご存知だろう。住民票コードが戸籍と結びついた暁には、こういった存在もかなり減少すると思われる。これが意味するところは、様々なものがあるが、いわゆる国家による国民管理が間接的に強化されることだけは確かだろう。) 目に見えるところ(いや、頻繁に利用されるというべきか)で、住民票コードが活躍するのは、おそらくは税務調査(課税調査)という場であると思われる。源泉徴収されている我々には無関係だが、そうでない人たちにとって、国家による個人情報の収集による収入把握は自己申告の大敵である。税制の不公平さの解消も大切だが、収入の把握方法も古くからいわれているように、不公平の温床となっている。これを少しでも解消する必要悪という見方も、立場によってはあり、物事を一面だけで捉えるのが問題であることは、この住民票コード(住基ネット)にも言えるものではあろう。 と、ちょっと散文的になってしまったが、今回はこれまで。(2002/8/6) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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