小林昭人の徒然ブログ

時事関連のコメントを中心としたブログです

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Saturday, June 16, 2012

車両紹介6

7.CB1100

 青少年の減少によるバイク販売の低迷に危機感を感じたホンダがリターンライダーやさらに上の年齢である熟年ライダー向けに開発した大型ネイキッドでこれだけの大排気量にも関わらず空冷エンジンを搭載している特徴がある。そういえば昔のバイクは全部空冷エンジンだった。当たり前だが日本以外では販売しておらず、完全な国内専用車である。そんなクルマが1100ccもある理由はクラッチ操作を省略したいという団塊老人の腐った根性に合わせたからに他ならない。そういうわけでこのバイクは仕様としてアイドリングでも発進でき、1速〜5速のどのギアでもスロットルを上げればノッキングせずに加速するという恐るべきエンジン性能を持つ。しかも、最新の騒音規制に合わせたエンジンは恐ろしいほど静かである。

 バイクに乗って眠くなるという体験は筆者はそれまでにはなかったが、このCBは本当に眠かった。何せライダーがやることが何もないのである。どのギアからでも加速するし、エンストしないし、メーターは一応240キロまで切られているがギアが5速しかないので、そんなに出す気はハナから起きないのだ。エンジン音は全くせず、まるでレクサスのようだが、レクサスに乗る人間はバイクなんかには乗らないだろう。車高が低く、シートも低いので極めて運転しやすいクルマで、加えて見切りが良いので初めてでもカブのようにUターンできる。結構重い車のはずだが、その重さを感じる場面は降車時くらいのものである。サスペンションも落ち着いており、NC700よりはよほど高級なタッチのクルマだが、こういうタッチを演出するのに反社会的とも言える1100ccの排気量は本当に必要なのかと思わせた。

 外見こそ60年代のどこかのバイクだが、最新テクノロジーで作られたこのクルマはありとあらゆる所にメーカーの無くても良い「気遣い」を感じさせる。最近目立つ介護終身型老人ホームとはこういう環境なのだろうとハンドルを握りつつ思った。CB1100のハンドルはモデルとなったCB750FOURより広く、まるでハーレーみたいにライダーがバンザイしたような格好になるので、遮るもののないネイキッドのこのクルマではスピードを出すとライダーの胴体が揚力で浮き上がってしまう。これは「スピードを出すと危ないよ」という他社に類のないホンダの「気配り」である。

 さらに昔カミナリ族だったご老人に現代の環境政策を啓蒙するという目的か、恐ろしく静かなクルマだが、排気音は停車時と加速時で異なっている。停車しているCB1100のアイドリング音はまるで故障したかのようなボボボと詰まった音質なのだ。「あまり長く乗っていると(脳卒中とかで)危ないよ」とバイクに説教されているみたいで閉口するが、睡魔と苛立ちと闘いつつ、筆者が空いた道でスロットルを思い切り開くとそれなりの音と加速はする。しかし、手の込んだことにブォーンという加速音には僅かなバラつきがあるのだ。たぶん昔のザッパーとかドリーム号とかがそうだったように、製造精度の悪い昔のクルマはシリンダーが均等には爆発しない。その辺まで再現されており、そこでノスタルジーに浸れる工夫もしてあるのである。いわば介護ホームに併設された温泉みたいなものである。

 「こういうクルマを作るならいっそ500ccとか750ccといった、人(や地球)に迷惑にならない排気量でやってくれないか」と思った筆者だが、団塊老人は見栄もあるが金もあるのである。あらゆる点で間違った彼らは地球環境保全のためにあえて排気量を縮小するということには考えが及ばない。そこが筆者がこのクルマのいちばん嫌いなところである。筆者に言わせれば地球の敵のようなクルマだが、思いやり深くもホンダのエンジニアは説得ではなくECUで馬力をわずか80馬力に抑え、聞き分けのない老人が地球を汚さないように配慮している。これを作ったエンジニアはきっと苦労人に違いない。

 というわけで、実は見た目ほど環境破壊なクルマではない。しかし、介護老人にクラッチ操作をさせないためだけにトルクを厚くして有限な地球資源をムダに使うくらいなら、いっそ電気モーターかCVTにすべきだ。試乗車なのでクラッチを切らずにシフトは筆者はしなかったが、やれば多分できるだろう。そしてそんな場合でも、このクルマは何事もなかったかのように走行するに違いない。

 先のNC700もそうだが、今のホンダのラインアップには「迷い」を感じさせる。これの元になったCB750FOURは彗星のごとく現れ、そのパワーでBMWやトライアンフを制し、時代を切り拓いたバイクであった。経済の低迷とともに人間までもが劣化してしまったのか、CB1100は悪い車ではないが、これに乗って人生をイグニッションできるかといえば、「そんなわけないだろ」と言いたくなるクルマではある。

作成者 小林 昭人

車両紹介5

6.インテグラ

 実はスクーター派の筆者がいちばん期待していたモデルである。が、写真を見て嫌な予感もしていた。実際に乗車してみるとその予感は的中するのだが、NCシリーズのスクーター版のこれを見て不吉さが相増すのは、ホンダ社にはすでに大型スクーター・シルバーウィングが存在することである。シルバー自体はロクな車ではないが、インテグラより20万円高いこのクルマの存在は新型車の立ち位置を微妙なものにしている。CB750の時代のホンダなら、同じ会社でも性能で劣るのは劣る方が悪いんだ、もっといい車を作って何が悪いであるが、このインテグラを含むNC700シリーズは社内の和を重んじる財務部門と総務課主導の製品である。そういうわけで、より新しいコンポーネンツを手にしつつもエンジニアたちは「どこでシルバーより劣質に作るか」に腐心したように見える。典型的なのがシールドである。雨風をほぼ完璧に防護するシルバーウィングのシールドに比べ、インテグラのそれはいかにも「ちゃちい」、シールド自体の作りもしょぼく、これでは時速150キロではブレーキ板以外の役割を果たさないだろう。もちろん雨風は防げない。スカイウェイブの方が百倍マシである。

 DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)の変速の仕方は悪くない。ほとんど瞬時にギアを入れ替えるこれはほとんどトルクの断続がなく、筆者がスクーターを支持する理由、低μ路でのトルク変動はこのクルマではほとんど問題にしなくて良いだろう。重量もわずか15キロ増に抑えられている。が、ここでも安さの風が、これだけ優秀なミッションを備えているのに、このクルマの燃料噴射システムはシングルポイントなのである。燃料噴射の細かいタイミングを制御できないこれにより、インテグラの発進はややギクシャクしている。エレガントな外見のスクーターには微速から立ち上がるような滑らかな加速が望ましいが、そんな走り方はこの仕組みではできないものである。雪道発進モードを別に作るべきだ。この点でインテグラは普通のCVT(シルバーウィング)に劣る。

 メカ的なその他の点は700Xで書いたので割愛するが、一応シルバーよりは走りに振った車種なのでスクーターでもある程度ニーグリップでき、大径ホイールの安定性はそれなり(高速域では有効だろう)である。しかし、この程度の性能はシルバーでも慣れればできる。発進加速はDCTのインテグラよりシルバーの方が強力ではないかと思える節もある。確実に言えることは筆者は長距離クルーズ用ではこのクルマは選ばず、シルバーウィングを選ぶだろうということである。こちらの方が快適である。

 もう一つ閉口するのはこれはNC700シリーズ全車種の特徴であるが、低重心レイアウトの影響でラジエターの位置まで下がってしまい、水冷式のこれのファンの風がちょうど足元付近に吹き上げるということである。スクーター型のインテグラも例外ではなく、乗車中温風ドライヤーの熱気を吹きつけられるのは結構しんどい。元にしたKシリーズは確かラジエターを二分割しており、熱気はともかく温風を直接ライダーの足に吹きつけることはなかったはずである。積載量もラージホイールとスクータースタイルのため実用的な容量はなく、バニアの装着が必須になるが、どうせ荷物入れが必要ならスカラベオみたいに最初から付けるべきである。

 スクーターの文法も踏み外している。女性も乗ることを前提に開発されるスクーターはいついかなる場合でも足元に泥やエンジンの熱を及ぼしてはならないのだ。ベスパ以来のこれは鉄則で、上半身についてはシールドは好みの問題だが、下半身についてはこの文法を踏み外したスクーターは無いこともある。つまりこれがこの車種が走行性の悪さにも関わらず支持される理由で、その辺に考えが及ばなかったホンダのエンジニアは考えが浅いと言わざるを得ない。


7.NC700シリーズ総評

 久しぶりの新規開発車であるが、実を言うとかなり難しい車である。価格の安さと燃費の良さは魅力である。しかし、その燃費もアウトバーン張りの連続走行を長時間やって維持できるかというと疑問だし、もっと気になるのは乗車するとホンダが研究のため過去に買い付けた他社の車の怨霊亡霊が揺らぎ出てくることである。NC700は乗車するとBMWやハーレーを彷彿とさせる車であるが、それ自体のアイデンティティが希薄なクルマなのだ。つまり、アイディアがパクリのレベルでとどまっていて、自家薬籠中の物として昇華していないのである。これはオートバイにこだわりを持たない人が実用車として使い倒す分には良いかもしれないが、日本製としても所有してプライドは持てないクルマづくりである。それでも売れているという話だが、これをオートバイと思ってもらっては困る車である。

作成者 小林 昭人

車両紹介4

5.NC700X

 マニュアル車であるが、AT免許の筆者がなぜ大型二輪のマニュアルを平然と乗りこなしているかについては説明が面倒なので割愛する。今年一番のホンダの注目株である。セールスポイントはリッター41キロ(60キロ定地、バイクの世界はいつになったら普通の燃費表示をするのだろう?)という驚異的な(250ccクラス並み)低燃費だが、実際に乗車するとこれはホンダのエンジニアが意識した世界の名車のハイブリッドと分かる。700Xはクロスオーバー車で外見だけはBMWのG650GSに酷似している。GSより20キロ重いがそれは安い材料を使っているからではなく、単気筒のGSに対して二気筒のエンジンを採用しているからである。外見だけで見ると結構騙される。

 フレーム構造はGSよりもむしろ古い同社のKシリーズに似ている。ダブルクレードルではなく、エンジンを吊り下げて強度部材の一部とするダイヤモンドタイプで、横置きと縦置きの違いはあれ、ほとんど水平に近く前傾されたエンジンとステアリング、リアサスの位置関係はほとんど和製Kシリーズである。このバイクを買う人に若い人は少ないと思うので、主要ターゲットであるリターンライダー層にはこのレイアウトはアピール度が高いといえ、Kに類似したNCはこれら中年層(買いたくても買えない)に他の国産バイクにはないある種メカニカルな印象を与えている。このレイアウトは低重心というメリットがあり、その優位性は先代Kシリーズが20年余の長きに渡り有用性を実証してきたものである。が、このバイクの面妖さはこれにとどまらない。

 走り出すと低重心化による安定性はともかくとして、比較的ギア比が大きく最高回転数が低いエンジンにまた既視感を感じることになる。NCの外見は超未来的な洗練されたものだが、トルク型で低回転、そしてノッキング付近でヒャクヒャクと搖動するエンジンには見覚えがある。ハーレーダビッドソンのXL883である。実際のNCの発進トルクは190cc大きな883ほどには無く、750ccクラスと比べても薄い印象だが、クラッチが軽いので発進に戸惑うことはない。1速は発進専用であまり伸びないので、このクルマでの低速走行は2速が主になる。ギアは6段あるが、6速はオーバードライブでほとんど使わない。ロボットATのインテグラも市街地・郊外走行で使うのはせいぜい5速までである。やや広めのハンドルと270度クランクの醸しだすエンジンのフィールはほとんどハーレーである。なお、ハーレーと同じくピックアップの良いエンジンではないので、廻したつもりでも速度計は大した値を示していない。外見BMW、走りはハーレーと良いとこ取りをしたのがコンセプトで、NC700は一粒で二粒美味しいバイクだが、実は二粒どころか三粒も四粒もあるのだった。

 ポジションはこの種の車だから仕方ないと思うが、やや幅広である。感心したのはカウルの形状が工夫されていて、初心者ライダーでも勝手にニーグリップができてしまうことである。低重心と相まって独特の人車一体感があり、初めてのライダーでもヒラヒラと振り回すことができるが、ここでもまた既視感を感じることになる。これはBMWのFシリーズである。やはり軽量設計の優秀なスポーツマシンで、低重心であっても下半身の重さを感じさせることなく、むしろスポーツマシン類似のライダーの高さを利用した倒しこみができるのはこれである。GS調外見にKシリーズのメカ、ハーレーのエンジンに加え四粒目の美味しさがあるわけで、これらを知っていると乗車して実に自己満足に浸ることができる。そしてNCはこれでは終わらない。

 五粒目の美味しさは今ぞときめくエンデューロマシン、KTM類似の液晶パネルである。視認性に優れ、情報量も多く、視線移動もほとんど不要なこのパネルはダカールラリーやサーキットで勝つためにこのメーカーが編み出したギミックである。KTMはBMWを押しのけてドイツ陸軍の標準バイクに採用されたほどのメーカーで、同社のマシンは保安部品を外せばレースにも使えるほどの過激なスペックを誇っている。筆者がBMW以上と評価するメーカー直伝のフル液晶パネルの使い勝手は実に良い。それがたった五〇万円足らずで買える日本は何と幸せな国だろうと幸福感に浸りつつインプレッションを終えることができる。そして最後の六粒目は燃費と経済性、これだけ色々装備していながらNCは今挙げたどのバイクよりも安く、どのバイクよりも燃費が良いのだ。

 気になる足つき性については、筆者は車高は高いと思ったものの、気になるほどのアラとは感じなかった。他に言いたいこともあるが、それは次稿のインテグラに譲りたい。今この車にいちばん乗せたいのはBMWとハーレーのディーラーの人である。乗れば多分いつか見た光景がそこにあるはずである。

作成者 小林 昭人