特集ワイド:留飲を下げたい人たち 「バカヤロー」アプリ人気、他者への攻撃同調も
毎日新聞 2012年06月15日 東京夕刊
近著「自分を支える心の技法」(医学書院)で、「怒りに甘い日本文化」を論じているのが、精神科医の名越康文さんだ。人間は赤ん坊の頃、泣き叫び、怒りをぶつけることで不快を除去してもらうコミュニケーションのパターンをすり込まれた−−というのが名越さんの考えだ。「辺境にある日本は、長く大国の影響下で、主体性を持たずに未熟なまま来てしまった。そのため、過剰な怒りがその場の空気や議論を支配する環境が残ったんでしょう」。相手をののしるだけの国会もしかり。「相手の欠点を突くのが最も賢い人の議論なんだという、あしき文化が定着したのです」
相手を軽蔑、罵倒して留飲を下げたところで、外交などの交渉がプラスに働くことはあり得ない、と名越さんは言う。「成熟した議論とは、共感を基にした場を作り、より良い結論を出すもの。一定の敬意がないところに議論はない。妥協とは違うんです」
それでも、名越さんは「留飲を下げる」風潮の根源を政治に帰するような考えを否定する。「自分たちはどうなのか、ということです。子どもの話、部下の話を冷静に聞いているか。相手のよいところを見ずに、重箱の隅をつついていないか。そういう点でおのおのが自己変革していく。皆がやればこの国の精神年齢は上がり、結果として政治も変わりますよ」
名越さんは「メディアだって」とは言わなかった。だが、もう一度、自らを省みた。
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