ロボットの少年アトム、無免許の医師ブラック・ジャック。手塚治虫(1928〜89)の漫画は、構想力豊かなストーリーとともに個性的なキャラクターが魅力だ。その作品世界へ若い世代をいざなう「地上最大の手塚治虫」展が東京の世田谷文学館で開かれている(7月1日まで)。
展示は原画など約350点。資料として展示された単行本や雑誌が、手塚作品の人気ぶりをうかがわせる。カッパ・コミクス版「鉄腕アトム」(個人蔵)は60年代に刊行されたシリーズで、当時、持ち主が兄弟6人で回し読みをしていたという。手塚のライフワーク「火の鳥」が連載された雑誌「COM」は、作家の故・北杜夫が愛読したものを展示している。
創作の舞台裏を明かすのが、作品に登場するキャラクターを網羅した肉筆本「スター名鑑」(50年ごろ)。手塚のキャラクターは、演劇や映画の俳優のように複数の作品に異なった役柄で登場する。例えば、原画が展示されている「ブラック・ジャック」の一話「二つの愛」(74年)では、50〜60年代の作品「リボンの騎士」のヒロイン、サファイアが若妻役で登場。往年の名子役が演技派女優として再デビューしたかのような趣だ。
手塚自身が「スター・システム」と名づけた、この手法によって、全集で400巻におよぶ多彩な作品世界が生み出されたことがわかる。(西岡一正)