食を守る 放射性物質の食品汚染や検査 現状は
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20120312134037990#
2012年3月11日 中日新聞朝刊
東京電力福島第1原発事故で、大量に放出された放射性物質による食品汚染が続いている。この1年の汚染の状況や、内部被ばくを防ぐための食品規制の仕組み、自治体や民間による食品検査の現状を取材した。
○17都県に検査を要請
福島第1原発の事故を受け、国は放射性物質による汚染食品の流通を防ぐため、福島県や首都圏1都6県など計17都県に食品検査を要請している。自主的に実施している自治体を含めると、全国で食品に含まれる放射性セシウムなどの検査が行われている。結果はホームページなどで公表されている。
調査対象として国は、ホウレンソウやキャベツなどの野菜類、シラスなどの水産物、リンゴやブドウなど果実類、牛肉などの肉類、コメ、茶-などを列挙している。
検査は各自治体の施設か、自治体から依頼を受けた民間検査機関などで実施している。原則、出荷前の食品を抜き取って行う。食品の品目ごとに、週に1回ほど検査する。汚染食品が検査をすり抜けることも考えられ、小売店などに流通した食品を調べることもある。
日本人の主食であるコメは、ほかの食品に比べ厳しくチェックしている。17都県で昨年秋に収穫されたコメの場合、土壌が一定水準以上の放射性セシウムに汚染された地域などで収穫前の玄米を予備調査。収穫後にはそれ以外の地域も含め、玄米を抜き取って本調査をした。この際、予備調査で一定水準以上のセシウムがコメから検出された地域は、「重点調査区域」としてより細かく調べた。
肉牛は、食肉処理場で検体を取り出して検査する。検体には、枝肉のうちセシウムがたまりやすい部位の1つである首の肉をミンチにして測る。
肉牛が一時出荷停止となった栃木県や福島県など4県では、停止解除の条件として、セシウムに汚染された稲わらを与えた疑いがあるなどの農家で全頭を、それ以外の農家では3カ月ごとに1戸1頭以上を調べている。
野菜や果実は収穫直前のものを細切りにして、魚介類は漁港に水揚げされたものをミンチにして検査する。
○暫定規制値超え1%
全国の自治体が1月末までに実施した食品に含まれる放射性セシウムの検査10万738件のうち、暫定規制値を超えたのは約1%にあたる1087件だった。現在、暫定規制値を超えているのは、福島県など一部地域の食品で、品目もキノコ類や水産物などに限られている。
都道府県別では、福島が最多で626件。次いで埼玉(127件)、茨城(79件)、栃木(70件)、宮城(61件)など。青森以北と愛知・岐阜・富山以西での暫定規制値超えはなかった。
最初に食品汚染が明らかになったのは昨年3月19日。福島県で搾乳した牛の原乳から最大で暫定規制値の5倍となる1キログラムあたり1510ベクレルが、茨城県内で生産されたホウレンソウからも最大で規制値の7.5倍の1万5020ベクレルの放射性ヨウ素が検出された。野菜の汚染は栃木、群馬、千葉、東京の各都県に広がり、品目数も増えた。
水産物では4月初旬、茨城県沖で採取したコウナゴから暫定規制値を超える放射性セシウムが検出。その後、汚染は海水面付近の小魚から海底のカレイや岩場のウニや貝などに拡大している。
福島県などの原木シイタケやタケノコ、アユなどの淡水魚も暫定規制値を超えた。茶の汚染は神奈川や静岡までの8県に及び、汚染された肉牛が各地に流通する事態も起きた。
秋以降、暫定規制値を超える食品は減ったが、マツタケなどの自生キノコ、イノシシやシカなどの野生動物、福島、茨城県沖の水産物の一部で汚染が確認されている。
美作大大学院の山口英昌教授(食環境科学)は「水中や山中など除染が難しい環境で生息する魚介類と野生種には注意が必要だ。特に魚は、海にホットスポットができていたり、食物連鎖による生物濃縮があったりするため、当分は汚染が続くだろう」と話した。
○全国に広がる測定所
福島第1原発事故後、消費者や農家など市民が食品の放射能を測る動きが広がった。地元の農産物だけでなく、全国規模で流通する食品もあるため、関東や中部地方でも個人が持ち込める放射能測定所が増えている。
東北、関東地方で増えているのが、子どもの放射線被ばくを防ぐ活動をしている父母らによる市民団体の測定所。「全国市民放射能測定所ネットワーク(仮称)」の2月の会合には、立ち上げ準備中の測定所も含め約30カ所が参加した。
各団体が使用する検査機は、自治体の検査でも使われている1台数十万~数百万円の簡易型のシンチレーション式が主流だ。
中部地方では、脱原発を目指す市民グループ「未来につなげる・東海ネット」(名古屋市)が昨年9月、名古屋市西区に「市民放射能測定センターC-ラボ」を設立。国の暫定規制値の10分の1以下に当たる自主基準値を設定。わずかな放射性物質も見逃さないように、検出限界値を1キログラム当たり5ベクレルまで下げて詳細に調べている。
検査は有料で、1キログラムあたり5ベクレルまでの詳細検査は4千円、10ベクレルまでなら2千円。東北地方からの避難者を含む70人のボランティアがこれまでに米や小麦粉、田畑の土など600検体を測定し、結果をインターネットで公表。申し込みは関東地方からが最も多いという。
静岡市や長野県中信、南信地方でも市民測定所が活躍。医療系の公益法人や研究所が参入したり、岐阜県のように行政が個人の測定を受け付けている地域もある。
放射能の測定は機種の違いで数値にばらつきが出やすく、最低何ベクレルまで測れるかを示す検出限界値も異なる。測定に必要な検体の量や検査時間、料金なども違うため、ホームページや電話で確認する必要がある。
○生活考え新基準算出
呼吸や食事によって体内に取り込んだ放射性物質による「内部被ばく」。排せつなどで排出しきれない場合、放射性物質は蓄積され、体の内側から放射線を浴び続けることになる。
放射性物質のうちセシウムは筋肉、ストロンチウムは骨、プルトニウムは肺にたまりやすいとされる。放射線によって細胞の遺伝子が傷つけられ、遺伝子の修復が間に合わないとがんなどのリスクが高まるとされる。
リスクについて内閣府・食品安全委員会は、広島、長崎の原爆被爆者の長期にわたるデータから、健康に影響が出る可能性があるのは、生涯累積線量で約100ミリシーベルト以上との見解を示している。内部被ばくを防ぐため、4月から適用される食品の新基準値でも内部被ばく線量の上限を年1ミリシーベルトに設定。100ミリシーベルトに達するには100年かかる。
新基準値を決定する際、厚生労働省は放射線による健康への影響や平均的な食事の量などから、摂取しても許される値を年代や性別ごとに算出。そのうち1番厳しい数値をもとに新基準値を算出した。
新基準値(1キログラムあたり)は、水道水やペットボトルの水、飲用茶が10ベクレル、肉や魚、野菜、加工品など一般食品は100ベクレルとした。放射線の影響を受けやすい子どもに配慮し、乳児用食品や牛乳は一般食品の半分の50ベクレルとした。
昨年10~12月の各自治体による検査データで、一般食品の新基準値を超えている割合は、福島産では魚介類34.92%、キノコ類17.95%、果実類9.98%、コメは1%台、野菜や牛肉は1%未満。関東を含むその他の地域では、キノコ類28.13%、魚介類2.15%、果実0.43%-などだった。