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首相は消費増税の実現へひるむな

2012/6/16付
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 社会保障と税の一体改革の関連法案の修正を巡り、民主、自民、公明3党が基本合意した。財政の健全化へ踏み出す第一歩として歓迎したい。あとは野田佳彦首相が民主党内の反対にひるむことなく採決へ突き進む気概があるかどうかだ。

 民主党の輿石東幹事長は党内融和を最優先し、3党合意をすぐに履行することに後ろ向きだ。21日までの今国会の会期を延長せず、法案審議を丸ごと秋以降に先送りすることもあるという。

社会保障は効率化を

 首相は今国会での法案成立に政治生命をかけると断言した。意に沿わない執行部ならば党分裂も覚悟で入れ替えるしかない。

 国が抱える借金は1000兆円規模に膨らんだ。国内総生産(GDP)の約2倍である。歳入の確保と歳出の抑制をともに実施しなければ、本格的な財政再建はおぼつかない。

 3党は現行5%の消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%まで引き上げることで一致した。日本経済にかかる負荷を和らげるため、2段階で税率を引き上げるのは妥当である。

 景気への配慮は必要だが、経済が大きく落ち込まない限り、安易に消費増税を先送りすべきではない。景気情勢を見極めながら増税の是非を判断する弾力条項を、増税回避の口実に利用されないよう注意しなければならない。

 残る課題は消費増税の負担が相対的に重くなる低所得者への対策である。3党は税率を8%に引き上げる14年4月に、一定額の現金を配る「簡素な給付」を実施する方針だ。

 現金給付と税額控除を組み合わせた「給付付き税額控除」を導入するか、食料品などの「軽減税率」を採用するかについては、結論を先送りした。低所得者への対応策は、ばらまきに陥らないように設計する必要がある。

 一方、年金の持続性の向上や医療保険財政の立て直しに向けた社会保障改革は一部の手直しで済ませ、根幹の部分は棚上げした。

 幼稚園と保育所を一体化する「総合こども園」を撤回し、低所得者への年金加算を修正した。民主党が公約した最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止に関しては、今後1年かけて結論を出すという。

 各党は早急に政策協議の場をつくり、将来を見据えた年金・医療の抜本的な改革案を示したうえで、それを実行する責任を共有すべきである。そうでなければ一体改革の名に値しない。

 社会保障の給付費が膨らむのを抑えるには、高齢者に応分の負担を求める必要がある。だが3党は給付抑制や制度の効率化を避けている。年金は、改革の全体像を示さないまま低所得者への大幅な加算を認めるなど、ばらまき色が濃くなった。これでは穴の開いたバケツに水を注ぐようなものだ。

 厚生年金と公務員などの共済年金との一元化は、それぞれが抱える積立金の統合方法について、厚生年金の会社員側に不利なしくみになっている。一元化は急ぐべきだが官優遇の温存は許されない。

 医療保険の財政立て直しは先送りされた。高齢者が使う医療費をどの世代がどう分担するのか、基本的な考え方がいまだに曖昧だ。病気やケガをする可能性が高く、保険制度になじみにくい後期高齢者の医療費には税の投入を増やし、現役世代や経済界を苦しめている支援金などを減らすべきだ。

成長の促進も不可欠

 70代前半の人の窓口負担を本則の20%にしたり、外来受診時に定額の負担を上乗せしたりする案をもう一度、議論の俎上(そじょう)に載せてほしい。

 増税の使途もみえにくくなった。政府・与党は5%の税率引き上げのうち4%を現在の社会保障費の赤字補填に、1%を給付の充実にあてるとしてきた。総合こども園の撤回などで使途を修正するなら、説明責任を果たすべきだ。

 一体改革法案が成立しても、財政再建は一歩を踏み出すにすぎない。内閣府によると、消費税率を10%に引き上げても、20年度には基礎的な財政収支の赤字が残る。黒字に転換するという野田政権の目標達成には、16%まで上げなければならない計算だ。

 消費増税だけで財政再建はできない。行政府と立法府の支出を見直し、独立行政法人<を含め無駄な歳出を徹底して削る必要がある。社会保障費も例外ではない。さもなければ、増税だけが際限なく膨らむ恐れがある。法人減税や自由貿易を通じて経済成長を促し、税収を底上げする工夫も不可欠だ。

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