ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
香山リカの「こころの復興」で大切なこと
【第12回】 2011年7月1日
著者・コラム紹介バックナンバー
香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

小出裕章氏が反原発のヒーローとなった
もう一つの理由

previous page
2
nextpage

自分の信念を曲げずに主張を貫く姿に
理想と希望のイメージを重ね合わせる人々

 京都大学原子炉実験所助教の小出さんは、原発を研究しながらも反原発を唱え、そのことが原因で大学から教授や准教授といったポストを与えられてきませんでした。当然のことながら「原子力ムラ」からも排斥されています。小出さんは、それでも信念を曲げずに正しいと思うことを言い続けてきました。

 原発事故が発生すると、相変わらず原子力ムラからは徹底的に無視されますが、期せずして世間からは「それが真理だった」と評価されます。

 「妥協や打算でなく自分の信念を曲げずに正しいと思うことを信じていれば、いつか自分が正しかったことが証明される」

 原発事故を喜ばしいと思う人は誰もいません。ただ、これまで大学の中で「冷や飯を食わされていた」小出さんが脚光を浴び、時代のヒーローになっていく姿は、彼らにとって理想のイメージ、希望の星、自分の願いを投影する存在になっているのでしょう。

 厳しい言い方になるかもしれませんが、彼らには自分が抱えてきたルサンチマンが一気に晴らされたという感覚があるのかもしれません。もうすぐ定年を迎えようとする年齢まで屈辱的な地位にいた人が、いまや日本中で最重要人物の一人になるという姿に、彼らはおとぎ話のようなイメージを抱いているのではないでしょうか。

彼らはこころを患っているわけではない
現実社会への猜疑心が強いだけ

 彼らは、こころの病を患っているわけではありません。

 仮に彼らが精神科を訪れて、病名をつけなければならないとしたら、現実社会にうまく適応できないということで「適応障害」と診断することになるでしょうか。あるいは、世の中に対して恨みごとを言い連ねるタイプの人には「パーソナリティー障害」という病名を伝えるかもしれません。

 しかし、彼らはそれなりにやる気もあり、優秀で学習意欲も高く、知的好奇心も強い人たちです。それなのに、どこか歯車が咬み合わず、社会にうまく溶け込めない。自分でも社会が受け入れてくれないと思い込んでいるのです。

previous page
2
nextpage
Special topics
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
この世で一番おもしろいマクロ経済学

この世で一番おもしろいマクロ経済学

ヨラム・バウマン/グレディ・クライン:著 山形浩生:訳

定価(税込):1,575円   発行年月:2012年5月

<内容紹介>
とっつきやすい構成と、過激な合いの手で一部で大好評を博したシリーズ第2弾! 今度のターゲットは、マクロ経済学だ!! 経済危機だけじゃなく、貧困・高齢化・環境破壊・・・なかなかよくならない世界の大問題を考えるための“武器”、それがマクロ経済学! あのマンキューも大絶賛&大爆笑の経済学講座【マクロ編】。

本を購入する

DOLSpecial



underline
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、6/3~6/9)



昨日のランキング
直近1時間のランキング

 

香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書に『しがみつかない生き方』『親子という病』など多数。


香山リカの「こころの復興」で大切なこと

震災によって多くの人が衝撃的な体験をし、その傷はいまだ癒されていない。いまなお不安感に苛まれている人。余震や原発事故処理の経過などに神経を尖らせている人。無気力感が続いている人。また、普段以上に張り切っている人。その反応はまちまちだが、現実をはるかに超えた経験をしたことで、多く人が異常事態への反応を示しているのではないだろうか。この連載では、精神科医の香山リカさんが、「こころの異変」にどのように対応し「こころの復興」の上で大切なことは何かについて語る。

「香山リカの「こころの復興」で大切なこと」

⇒バックナンバー一覧