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「みんなが納得できる仕組みを考えていく必要がある」と話す久慈直昭医師 |
■ドナーを守る
精子提供者の身元は、提供を受ける夫婦にも生まれてくる子供にも一切明かされない。一九四八年に日本で初めて実施した慶応大病院(東京)で、現在診療に当たる久慈直昭医師が説明する。「提供から何年もたって突然『あなたの精子で生まれた』と子供が会いに来たらどうなるか。それが原因で一つの家庭が壊れることもあるかもしれない。AIDを続けるには、ドナーの将来を守らなければならない」
共同通信の調査によると、ドナーのなり手はAID実施施設とつながりがある大学の学生やOBが中心。多くの施設では、アルバイト代や食事代などの名目で提供一回につき一万五千~三万円が支払われていた。ほかにも「薬や検査などで取引がある会社の社員に頼む」「自施設でほかの不妊治療を受け子供ができた夫婦に依頼、妻の同意を得て夫に提供してもらう。自分たちが苦労したので協力したいと言ってくれる」などがあった。
中には、夫の父親や兄弟の精子による人工授精を希望する夫婦も。ドナーを匿名とする日本産科婦人科学会の会告(指針)には抵触する可能性があるが「頼まれれば目をつぶってすることもある」と話す関係者もいる。
■取りやめも
AIDは他の治療では子供をつくる望みがない夫婦の「最後の選択肢」とされ、第三者の協力が必要な点は、子宮がない女性が別の女性に子供を産んでもらう代理出産と同じ。ただ、精子提供には身体的負担がなく、国民的議論が不十分なまま「既成事実」として受け入れられてきた。
しかし二〇〇三年ごろから、AIDで生まれた人たちが「遺伝上の父親を知りたい」と声を上げ始めた。医師の受け止め方はさまざまだ。「ドナー開示の法律ができたらAIDはやめる。提供がなくなり事実上できなくなる」「自分の出自として知りたいという人がいる以上、ドアは開けておくべきだ」
ある関係者は「出自を知る権利の大切さはよく分かる。今まで悩みながら続けてきたが、身元を開示してよいというドナーが現れるまで実施しないことにした」とAIDからの撤退を明かした。
久慈医師は言う。
「提供者を知りたいと思うのは自然で、いつまでも『駄目』と言うのは通らない。情報をどの程度開示し、どんな制限をつけるのか。みんなが納得できる仕組みを考える必要がある」
■抱き締め話して
子供にどう伝えるかも難しい問題だ。血がつながらない夫への配慮や、子供にショックを与えたくないとの理由から秘密にするケースが多いのが現状。だが両親の離婚や病気など、悲しい出来事をきっかけに事実を知らされた人たちは、それまで隠されていたことに二重に傷ついたという。
昨年十二月、AIDで生まれた当事者の会が東京都内で開いた講演会で、四十代の女性はこう訴えた。「親子の間にうそがないことが大切。小さいうちから子供をぎゅっと抱き締めて『お父さんと血はつながっていないけど私たちはおまえを愛している、ずっと親子だよ』と話してあげて」
(熊本日日新聞2008年6月14日付朝刊)
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