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新たな原子力規制法案をめぐる民主、自民、公明3党の修正協議で、原発を稼働から40年で廃炉にする条文に、見直し規定が盛り込まれた。「40年廃炉」は、原発を減らしていくうえ[記事全文]
ヤマ場を迎えた社会保障と税の一体改革とは別に、各党がただちに答えを出すべき課題がもうひとつある。衆院の「一票の格差」をどう是正するかだ。与野党にあらためて求める。[記事全文]
新たな原子力規制法案をめぐる民主、自民、公明3党の修正協議で、原発を稼働から40年で廃炉にする条文に、見直し規定が盛り込まれた。
「40年廃炉」は、原発を減らしていくうえで最低限の基準である。老朽化した原発の運転延長がなし崩しに進む余地をつくる与野党合意には、到底、納得できない。
見直し規定は自民党が要求した。40年廃炉の条文は残すものの、9月にも発足する原子力規制委員会が「速やかに」再検討することを付則で明記する。
野田政権は、脱原発依存を具体的にどのように進めるか、今もって示していない。そのなかで唯一、明らかになっていたのが40年ルールだ。
40年で閉めていけば、新増設がない限り、原発の比率は2030年に15%に下がり、50年にはゼロになる。もっとも緩やかな減らし方ともいえる。
「40年には科学的な根拠がない」との指摘が出たというが、どんな設備でも古くなれば故障リスクは高くなる。原発に一定の寿命枠をはめるのは、トラブルの種を徹底的に排除し、二度と福島のような事故を起こさせないという国民の意思に基づく政策だ。純粋に技術的な安全規制とは、性質を異にする。
修正協議に成果がなかったわけではない。規制組織に強い独立性が与えられた。5年後からは、事務局となる原子力規制庁の全職員に出身官庁への復帰が禁じられる。
だが、肝心の部分が骨抜きになっては、原発を推進してきた官庁から規制機関を切り離し、独立性を強化するのは何のためか、という法改正の根幹が揺らぎかねない。新たな安全規制体制そのものが、国民に信頼されなくなる。
自民党内の議論では、40年規定に肯定的な意見や「30年に短縮すべきだ」との声もあったという。にもかかわらず、見直し規定が通ったことは、自民党の変わらなさを象徴する。「政権に復帰したら原発を推進するつもりだ」と有権者に思わせるに十分だ。
情けないのは、あっさりと修正に応じた民主党である。大飯原発の再稼働をめぐる野田首相の記者会見といい、これでは国民には原発維持路線を歩んでいるとしか見えない。
法案は今国会で成立する見通しだ。40年規定の見直しは規制委員会に委ねられるが、委員5人は国会同意人事である。国民を守る側から原子力を規制していく組織になるか。政治の意志が問われる。
ヤマ場を迎えた社会保障と税の一体改革とは別に、各党がただちに答えを出すべき課題がもうひとつある。衆院の「一票の格差」をどう是正するかだ。
与野党にあらためて求める。
格差是正と定数削減、制度改革の三つを同時に決着させるのは、やはり無理だ。
ここは、格差是正を最優先し、小選挙区の「0増5減」を今国会で実現させるべきだ。
きのうの与野党幹事長らの会談で、民主党の輿石東幹事長が示した「3点セット」の提案は説得力がまるでなかった。
「0増5減」に加え、比例区を40減らし、定数を計45削る。140となる比例区は11ブロックから全国比例にあらため、うち35議席は小政党に有利になる連用制にする。そんな内容だ。
2カ月前に樽床伸二幹事長代行が示し、各党の猛反発を受けた案は比例区の削減幅が75議席だったが、輿石案はこれを40議席に減らしただけ。制度の理念のなさ、複雑さはなんら改善されていない。
最高裁が違憲状態を指摘してから1年3カ月。政治の怠慢、不作為がもはや許されないのは明らかである。
与野党がいま、なすべきことははっきりしている。
違憲状態のまま次の総選挙をしないことを最優先し、やむを得ない緊急措置として「0増5減」を先行実施することだ。2月の野田首相と谷垣禎一・自民党総裁との党首討論でも、そう一致したのではなかったか。
制度改革と定数削減はこれと切り離し、じっくり取り組む。
選挙制度のあり方は各党の消長に直結する。2大政党の合意だけで決めていい話ではない。それに、そもそも選挙制度は政党や国会議員の利害だけで論じるべきものではない。
首相の諮問機関の選挙制度審議会を立ち上げる。衆参両院がどう役割分担すべきかという大きな枠組みの議論をふまえ、両院を一体的に改革するのだ。
「身を切る」改革である定数削減も、拙速は禁物だ。
とくに大政党に抵抗感が薄く削りやすい比例区を大きく減らすのは乱暴すぎる。
政権交代が起きやすくなるが死票の多い小選挙区。多党化しがちだが多様な民意を反映しやすい比例区。そのバランスをうまく生かそうというのが現行制度だ。なのに片方ばかりを安易に削っていけば、制度の根幹が揺らぐことになる。
政治家が「身を切る」姿勢を示すというなら、政党交付金のカットや議員特権の返上などやり方は他にいくらでもある。