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 それは、それまで電話などで頻繁に話をするようになっていた日隅さんが、ある日、ふと漏らした言葉がずっと胸に引っかかっていたからだ。

 「上杉さん、私は、私がこの世に生きていたという証拠がひとつだけでもほしいんですよ。肉親も弟だけですし、元新聞記者だけど、新聞は私のことは絶対に書かないでしょう。でも、何か、存在したんだという証拠を残したいんです」

 当時、それは東電会見に通うことであった。だが、私はもっと具体的な形で「日隅一雄」というジャーナリストがこの世に存在したということを残したかった。そこで、改めて二人だけで会ったとき、日隅さんにこう「お願い」したのだ。

 「日隅さん、日隅さんにお世話になっている自由報道協会ですが、おかげさまで来月に1周年を迎えます。そこでアワードを行う予定なんですが、そのことでお願いがあります。その大賞に、日隅さんのお名前を冠としてつけさせてもらえませんでしょうか?」

 日隅さんはしばらく黙っていた。本当に不思議な沈黙だった。そして、俯いたままこう聞き返してきた。

 「無名の、まったく無名の私なんかでいいんですか?」

 私は頷き、そしてさらにもう一つのお願いをした。

 「ありがとうございます。受けてくれるんですね。もう、取り消せませんよ。ということで、来月末に受賞式がありますから、そのプレゼンテーターとして出席ください。代理出席は認めませんからね。絶対に出席してくださいよ」

 1月、自由報道協会賞の準備で徹夜続きの事務局に一本の電話が鳴った。外国人女性が英語で話す電話は奇妙なものだった。

 「ポストに封筒を入れました。すぐ見てください」

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上杉 隆 [(株)NO BORDER代表取締役]

株式会社NO BORDER代表取締役。社団法人自由報道協会代表。元ジャーナリスト。1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。テレビ局記者、衆議院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者、フリージャーナリストなどを経て現在に至る。著書に『石原慎太郎「5人の参謀」』 『田中真紀子の恩讐』 『議員秘書という仮面―彼らは何でも知っている』 『田中真紀子の正体』 『小泉の勝利 メディアの敗北』 『官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』 『ジャーナリズム崩壊』 『宰相不在―崩壊する政治とメディアを読み解く』 『世襲議員のからくり』 『民主党政権は日本をどう変えるのか』 『政権交代の内幕』 『記者クラブ崩壊 新聞・テレビとの200日戦争』 『暴走検察』 『なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるのか』 『上杉隆の40字で答えなさい~きわめて非教科書的な「政治と社会の教科書」~』 『結果を求めない生き方 上杉流脱力仕事術』 『小鳥と柴犬と小沢イチローと』 『永田町奇譚』(共著) 『ウィキリークス以後の日本 自由報道協会(仮)とメディア革命』 『この国の「問題点」続・上杉隆の40字で答えなさい』 『報道災害【原発編】 事実を伝えないメディアの大罪』(共著) 『放課後ゴルフ倶楽部』 『だからテレビに嫌われる』(堀江貴文との共著)  『有事対応コミュニケーション力』(共著) 『国家の恥 一億総洗脳化の真実』 『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』 『大手メディアが隠す ニュースにならなかったあぶない真実』


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