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うなぎ 過去最高水準の高値に

6月13日 21時35分

河内康之記者

夏が近づきスタミナをつけるため、うなぎを食べたいと考えている方も多いと思います。
しかし、うなぎは、このところ大幅に値上がりしていて、ちょっと遠い存在になりつつあるのではないでしょうか。
特にことしは急激に値上がりしていて、築地市場の卸売りの平均価格は、去年の同じ時期と比べて7割近くも高騰し、過去最高水準の高値となっています。
今や“高級食材”とも言えるうなぎ、今後も食べられるのでしょうか。経済部で流通や食品業界を取材している河内康之記者が解説します。

高騰するウナギ

まず、私が最初に訪れたのが牛丼チェーン。
この時期になると牛丼チェーンもうな丼の販売を始めます。牛丼では激しい値下げ競争を繰り広げていますが、うな丼については様子が違っていました。

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今週から大手2社が、それぞれうな丼を650円と780円で販売を始めました。2年連続の値上げで、いずれも去年より100円値上げしました。
あまりの仕入れ値の高騰で値上げせざるを得ないということでしたが、この値上げ幅でも採算ギリギリだと話していました。
もっと影響が深刻なのは、うなぎの専門店です。
都内のある店では、1杯1200円だったうな丼を1600円に値上げしたところ、ランチの時間帯の客がほとんど来なくなり、店主は、お客さんの数が去年の同じ時期と比べて7割も減少したと嘆いていました。中には廃業するうなぎ店も出始めているのです。

アイディアで乗り切れ

こうした深刻な状況のなかで、あるアイディアでこの危機を乗り切ろうといううなぎ店も出てきました。
三重県津市の老舗うなぎ店が販売を始めたのが「豚丼」。
うなぎ店が豚丼?
ちょっとミスマッチですが、うなぎと同じように炭火で焼き、蒲焼きのタレを使って客に出したところ人気が出たというのです。
この豚丼を食べた客は「半分、うなぎを食べているような感じだ」と話していました。
いわば、苦肉の策とも言えますが、隠れたヒット商品になる予感がしました。

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一方、スーパーもウナギの売り上げが激減し、頭を悩ませています。
東京・足立区のスーパーでは、ことし、かば焼きを去年の1000円から1500円近くまで値上げしました。その結果、うなぎを敬遠する客が増え、先月のうなぎの売り上げは、去年の同じ時期と比べて半分近くにまで減少しました。
暑い季節に最も売り上げが伸びる商品なので、ここ最近のうなぎの高騰は、非常に痛手です。
そこで考えたのが、“似たものを探せ”でした。
うなぎのかば焼きの売り場に並べられたのが、なんと、「あなご」と「さんま」のかば焼きだったのです。

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店長の田代良徳さんは「うなぎの相場が上がっているので、工夫していかないといけない。子ども用にはさんまのかば焼きを買い、親が食べる分はうなぎのかば焼きを買うなど、懐具合に応じてうまく買い分けるお客さんが多い」と話していました。
あなごとさんまが、うなぎ高騰の救世主となるかもしれません。

ウナギ高騰の理由は

なぜ、うなぎは、こんなにも高騰しているのでしょうか。
最大の要因は、うなぎの稚魚=「シラスウナギ」が激減しているためです。ピーク時の昭和30年代には、全国で200トンを超えていたシラスウナギの漁獲量は、年々減少し、去年はわずか9.5トンまで激減しています。
これに伴って、シラスウナギの価格もまさに“うなぎ登り”で上昇。平成18年に1キロ当たり26万6000円だった価格が、去年は3倍以上の86万5000円まで高騰しました。

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シラスウナギの減少の理由ははっきりとは分かっていませんが、専門家は、エルニーニョ現象などによる海流の変化に加え、乱獲が原因ではないかとみています。
実は国内で消費されているうなぎの6割近くは、中国や台湾産です。しかし、その多くが国産と同じ海域で育ったシラスウナギのため、中国や台湾産も減っているのです。

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タスマニアのウナギに活路

こうしたなか、これまでとは別の海域で育ったうなぎに、今、注目が集まっています。
その1つが、オーストラリアのタスマニアのうなぎです。
うなぎの産地として知られる静岡県浜松市にある水産卸会社では、タスマニア産のうなぎを販売しています。
国産と比べ1.5倍近い大きさがあります。私も食べてみましたが、かば焼きにすると肉厚ですが、思ったよりも固くなくおいしかったです。国産うなぎと遜色ない品質だと感じました。
この会社では、5年前から細々とタスマニア産うなぎを扱ってきましたが、最近のうなぎの高騰で、輸送費などのコストを入れても、タスマニア産の方が割安感が出てきたのです。
このため、ことしに入って専門店や小売店などからの引き合いが増え、出荷量は去年の2倍にまで増加しています。

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日本のウナギはどうなる

しかし、オーストラリアなどから来るうなぎは、絶対量が少なく、国内の需要を満たすには十分ではありません。
また、卵から養殖する技術が完全には確立されていないため、シラスウナギの漁獲量を減らすしか有効な対策はないというのが実情だといわれています。
日本の伝統食でもあるうなぎを今後も食べ続けていくには、うなぎを有限な資源として守っていくことが不可欠だと専門家は指摘しています。

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東京海洋大学大学院の田中栄次教授は「日本近海では、うなぎは卵を産む前に捕獲されてかば焼きになり、卵を産む親がますます減っていくという悪循環に陥っている。うなぎの消費量を少し抑えて、資源の回復を図ることが必要な時期にきている。中国や台湾などと協力して資源管理に取り組まないと、うなぎの資源を持続的に利用できない状況まで来ている」と警鐘を鳴らしています。
田中教授が指摘している資源管理ですが、水産庁や業界団体の間では、シラスウナギの漁獲量を制限するといった対策を検討する動きが出始めています。
うなぎを今後も食べていくためには、私たちもうなぎを大量消費の食品として扱うのではなく、貴重な食材として守っていくという意識を持つことも必要なのかもしれません。

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