法科大学院修了者による新司法試験が始まって今年で6回目。初回48.3%だった合格率は23.5%と年々低下が続く。大学院存立の意味と現状、課題などを静岡大学法科大学院の田中克志院長(63)に聞いた。
――新試験になってすでに6年。問題点は
大学院修了者が増えるに従い受験者も増えているのに合格者が2回目以降ほとんど変わらず2千人ほど。この制度ができる際、2010年度には合格者を3千人ほどにする設計だったはず。当初の計画通りやっていくべきだと思います。
――あまり増やすと「質の問題」が出てくるともいわれますが
それは増やしてみてから検証すべきだと思います。当初の計画通りやってみて、その上で多いとか、少ないとか、質の問題とか考えるならいいですが、やってもみないで質がどうこう言うのは違うと思います。
――法科大学院への志願者が減り続けているそうですが、原因は
やはり合格率の低さです。当初の計画では「合格率7、8割」との考えだったはず。様々な問題が絡んでのことですが、合格率は毎年下がり今年度は23.5%。先ほどの合格者数との絡みもありますが、これではリスクが高すぎて、特に社会人は挑戦しようという気にならないでしょう。
合格者数も合格率も当初の理念に沿うよう改善していくべきです。
――静大法科大学院の今年度の司法試験合格率は14.89%。なかなか平均値には達しませんが、対策は
要因はいくつかあると思いますが、そもそも大学院の教育は司法試験そのものを目的にしているわけではない。法曹としての能力をどうつけていくか、様々な観点からカリキュラムを組んでいます。
とはいえ、合格率は数字で表れるわかりやすい指標。はじめは試行錯誤でやってきたが、ここに来て案配が見えてきた。全国74校のうち合格者10人未満のところが37あったのですが、昨年度より増やしたのはうちを含め8校。様々な改革や教員の指導が実を結びつつあると思います。
――法科大学院の意義は
大学という正規の教育機関が法曹養成に責任をもってタッチすることはいいことだと思います。また、法学部出身者以外のそれぞれの専門知識や経験を生かした人間的に幅広い法曹を育てるという理想はすばらしいと思います。
今は弁護士になるにも「就職難」などといわれますが、法曹はいつの時代も社会から必要とされ、やりがいのあるおもしろい仕事。院生にはそのことも伝えていきたいですね。
――静大法科大学院の存在意義は
うちを修了した司法試験合格者の多くは県内で弁護士になっています。地域の特性をよく知る法律家を育てる意味は大きい。また教育環境整備や人材育成という点から見ても地元に法科大学院があるというのは重要だと思っています。(菅尾保)
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広島県出身。神戸大大学院法学研究科博士課程修了。富山大学で教鞭(きょうべん)を執った後、助教授として静岡大学に赴任。1990年教授、2009年から法科大学院院長(大学院法務研究科長)。専門は民法(担保法)。
〈法科大学院〉 以前の司法試験では解答技術ばかりに目が奪われ、豊かな知識や考え方を持った人材を確保できていないのではないかとの批判を受け、多様な人材を集める法曹養成の中核として2004年スタート。法学既修者対象の2年コースと未修者対象の3年コースがあり、修了後5年間に3回の司法試験をうけることができる。現在全国に74校あるが、全体の合格率が年々低下しているうえ、年によっては合格者のいないところもあり、「乱立」を指摘する声もある。