自立した国民、国家をめざせ
| 「沈みゆく日本を見逃せない」。東京･赤坂の事務所を訪れると、右手にマイク、左手に握りこぶしをつくった小沢民主党副代表のポスターが目に入る。四十七歳の若さで自民党幹事長を務めるが、離党し、新党を結成。細川連立政権を誕生させて自民党一党支配のいわゆる五五年体制を終わらせるなど、政界再編の先頭に立ち続ける。歯に衣着せぬ明解なもの言い。いつしか「こわもて」「豪腕」が代名詞のようになる。「次の首相にしたい政治家」の一人としても根強い人気を持つ「硬派の政治家」は、自立した国家を築くための人づくりの大切さを説いた。 石井 新聞やテレビでは、先生は怪力の持ち主のイメージなのですが、とても優しいところがあるんですね（笑）。小鳥や鶏を飼ったり。 小沢 自民党の幹事長をしたあと心臓で入院しまして、医者から「酒を飲んでもいいから早く寝ろ」「食べてすぐ仕事をするな」と注意を受けましてね。死んでは何もならないから（笑）ちょっと健康管理をやろうと。それ以来、この二点を守っているんです。それで、朝は早く起きて散歩をし、ご飯を食べて、それから鳥や魚や飼っている生き物の世話をし、一時間以上たってから出かける。ここ十何年、朝は動物の世話です。 石井 毎朝歩かれるんですか。 小沢 雨の日や、あまり暑い日などはやめていますが、毎日歩きます。事務所まで八階の階段も毎日、歩いて上るんです。調子のいいときは大したことはないのに、ちょっと歩かないと、階段の途中で足が痛くなる。人間の体はコンスタントに鍛錬しないと駄目ですね。 石井 毎日面倒を見ると、小鳥はかわいいでしょう。 小沢 海外から入ってきている小鳥は大体、野生のを捕まえてきているんですよ。それはなかなか人に慣れない。しかし文鳥とかジュウシマツとかカナリアとか、長年飼っているのは、ＤＮＡでしょうかね、すぐ慣れる。動物の生態を見ていると学ぶことが多いですね。 石井 学ぶというのは、どんなことを。 小沢 一つは教育。といっても子供のしつけ。鳥の親は、最初は子供にえさを与えますが、子供は自分で食べられるようになっても、親のあとを追い「えさをくれ」とチイチイ鳴く。でも親は見向きもしない。クマでもそうですが、自然界では生きていくための術を教えたら、あとは自分でやれと追い払う。大きくなれば自立していくんです。人間だけですよ、いつまでも「かわいい」などとやっているのは。もう少し自然界に学ばなければ。人間が畜生に劣るようでは困ります（笑）。 石井 学校教育も、家庭のしつけもなっていないと言われていますが、最近は、親が子供を虐待したり殺したり。子供が子供を殺す事件も起きています。 小沢 みんな親が悪い。子は親を見るにしかずとか、あるいは子は親の背を見て育つという言葉もあるが、学校教育も家庭教育も、大きく言うと、しつけだと思います。僕は若い連中を書生として置いていますが、本人が駄目なのは親が駄目だというのが分かる。 教育というか、人づくりというのは、今から始めてもワンジェネレーション、三十年はかかると思っています。僕に言わせると、日本は三世代、駄目なんです。要するに大正末生まれの人たちが、ちょうど敗戦の時に二十歳前後。自分たちが教えられてきた価値観が敗戦によって否定されてしまった。だから子供たちにどう教えていいか、分からなくなってしまったんです。その人たちの子供が戦後のベビーブームの時期に生まれた。それが第二代です。今の若者は、その人たちの子供。三代続いているから、日本は人づくりが大変だと思います。 石井 先生は次世代のリーダーを養成する「小沢一郎政治塾」を四年ほど前から立ち上げていますね。 小沢 僕の政治の目標は、国家の目標も人づくりの目標もそうですが「自立」です。自分で判断して、自分の責任で行動しろ、甘ったれるんじゃないと言っている。人のせいにするな、自分でやったことは自分でしりぬぐいしろというのが基本です。日本が自立した国家として体を成していないのは、日本人自身が自立していないからです。政治塾もそのことを最大の眼目にしてやっています。 石井 塾生は何人ぐらいいるんですか。 小沢 毎年三十数人ずつとっています。松下政経塾は月給を払っているようですが、僕のところは年間に集中してやるのは二週間で、自分で滞在費を出して、休暇を取って参加する人だけです。なかなかいい生徒が来ています。 石井 たくましい青年たちばかり。 小沢 女性もいます。今度、国政選挙に出る女性もいます。世の中、おかしなのもいるけれど、いいのもいっぱいいるから「後生おそるべし」と、これまた先人が言ったように、あまり心配する必要がないかもしれないですね（笑）。 石井 最近はパフォーマンスや、耳触りのいい話をする政治家が多いと感じるんですが。 小沢 今はそれで通るからです。 石井 先生はそういうことしませんね。 小沢 だから全然人気がないんです（笑）。嫌われてばかりで。 石井 そんなことないでしょう。朝日新聞の世論調査で、先生は首相にしたい政治家の第三位でした。 小沢 日本の社会では自己主張するのは嫌われる。自己主張を殺してみんなで丸く丸く、和をもってという社会だから。一人ひとりがもう少し自分というものを確立しなくてはいけないと言っているんだけれど、まだ少数派ですね（笑）。 石井 でも、先生に一度は首相になってほしいという人は多いですよ。 小沢 まだまだ日本じゃ硬派はもてない。軟派のほうがいいんです（笑）。 石井 今、中国の潜水艦が日本の経済水域に入ってきたり、北朝鮮の核問題など、日本は結構厳しい環境にありますね。 小沢 極東というのは一番不安定です。これが爆発すると、世界的な動乱になりかねない。だけど日本はまだ太平の夢をむさぼっているという感じです。 特に、やはり中国ですよ。北朝鮮問題というのも中国問題なんです。中国が北朝鮮をバックアップする限りは、金正日体制はなかなか崩れない。 石井 こういう時こそ政治家がしっかりかじ取りをしてほしいと思いますが。 小沢 国民が利口にならない限り駄目なんです。ばかな国民からは、ばかな政治家しか出ないんですから。民主主義というのはそういうものです。政治家だけちゃんとやれというのは無理なんです。 石井 日本大学は�鷓濮軣垢里發箸農こε�な教学戦略を展開し、つい最近も新しい領域を研究する総合研究大学院を立ち上げました。ロシア科学アカデミーなどからも学者を迎え、グローバルな大学としてやっていこうとしています。 小沢 �鷓濮軣垢里�話を何度かお聞きしたが、グローバルで視野が広い。日大が日本だけではなく、世界的にも役割の大きさを示していったらいいなと、日大にお世話になった者として思います。 石井 先生は法学部の大学院でしたね。 小沢 僕は当時、湯島に住んでいて、三崎町まで歩いて通っていたんです。亡くなられた高梨公之先生にも民法の講義を受けました。懐かしいですよ。 石井 今の学生に一言アドバイスを。 小沢 そもそも、いろんな分野でそれなりのリーダーになる、あるいはリーダーたらんとするからこそ大学に入っているんだと思うんですが、リーダーというのは志を持たなければいけない。それから独立、自立した人間になることだと思います。僕は自分の子供にも、勉強をしたければ学費は出すが、とにかく自分の判断で好きなようにしろと言っている。 石井 三人のお子さんは、皆さん大変優秀ですよね。 小沢 いやいや、何をやっているのか、おやじは全然分からない（笑）。ただ、政治家がよく跡を取らせたくて子供を選挙に出すけれど、僕はそんな気は一切ない。やりたければやってもいいが、親から「やれ」という気はない。自分の人生は自分で切り開く。僕はそうしつけられたし、子供にもそうしているんです。 石井 そうやって、自立させる教育をなさってきたわけですね。今日は有意義なお話をありがとうございました。 （聞き手 石井 宏常務理事） 発行 日本大学広報部 → 写真は こちら |