芸人親族の生活保護「不正受給」疑惑がワイドショーを賑わしている。
まるで不正受給の横行で自治体財政が逼迫しているかのようなイメージがつけられているが、その総額は全体の0.38%。その一方で、「受給資格があるのにもらえない」という大きな問題がある。こうした問題を無視して、バッシングとも言える生保批判が行き過ぎるといったいどうなるのか?
貧困問題とその対応策を専門にする首都大学教授の岡部卓氏は、生保バッシングの加速は無関係だと思っている我々にも将来的に陰を落とすことになると指摘する。
「もらえる人がもらっていないにもかかわらず、生活保護の受給者数そのものは増え続けています。その理由の一つは、経済の停滞や雇用の悪化に伴う失業者の増加です。’08年のリーマン・ショック以降、『派遣切り』に象徴される非正規労働者の雇用契約打ち切りが相次いだことは周知の通りですが、非正規労働者は『第一のセーフティネット』である雇用保険に加入していないことが多く、失業給付を受けることができません。そこで求職者支援制度や住宅手当制度などの『第二のセーフティネット』が導入されましたが、十分に機能しているとは言いがたい状況です。だから、15~ 64歳の稼働年齢層は『最後のセーフティネット』である生活保護に頼らざるを得なくなったのです。
もう一つが、生活困窮高齢者の増加です。国民年金だけでは保険料を40年間きっちり払ったとしても生活保護受給額より低い年金しか受け取ることができません。また未納・未加入などによって給付水準が低い人、全くもらえない人も増えています。こういう人たちも生活保護に頼ることになります。つまり、ほかの社会保障制度の底が抜けているから生活保護の増加がとまらないのです。
ほかの先進国と比べてセーフティネットの貧弱な日本では、会社が倒産した、リストラされた、病気で働けなくなった、といった場合に頼れるのは生活保護しかありません。政府は「不正受給」疑惑を利用して、さらに生活保護を削ろうとしているように思えます。国民・住民がその尻馬に乗ってしまうことは、自らの首を絞めてしまうことでもあるのです。
もしこの状態で生活保護制度が機能しなくなったら、支えるものは何もなくなります。そのとき国家に対する信頼をどうやって担保するのか。もう一度金融危機や経済危機が来た時、どういうことが起きるのか。ナショナルミニマム(国が設定する最低生活保障水準)を堅持・持続させるための国民的議論が求めらていると思います」(岡部卓氏)
まるで不正受給の横行で自治体財政が逼迫しているかのようなイメージがつけられているが、不正受給自体の総額は全体の0.38%に過ぎない。…