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焦点 宮城・亘理町 阿武隈川堤防かさ上げ 立ち退き150戸、住民賛否
 | かさ上げが計画されている阿武隈川の堤防。のり面幅の拡大により、津波に耐えた家屋も立ち退き対象となる |
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宮城県亘理町荒浜を流れる阿武隈川の堤防のかさ上げ計画が、地元住民に波紋を広げている。国土交通省は東日本大震災の津波を教訓に堤防の高さを現在より1メートル高くし、のり面幅を拡大する方針で、流域の家屋が立ち退きを迫られる。理解を示す住民は多いが、津波による流失を辛うじて免れた家屋の住民からは移転に反発する声が上がっている。(原口靖志、亀山貴裕)
◎「津波耐えたのに」反発も
<河口から3キロ> 荒浜1〜5丁目地区は震災時、津波が堤防を越えて押し寄せた。町は5丁目を移転促進地域に指定。現地居住が可能な1〜4丁目も多くの住民が仮設住宅などに移った。 国交省は、高さ6.2メートルの堤防を7.2メートルにかさ上げする方針。施工区間は河口から約3キロに及ぶ。堤防の幅が広がるため、のり面を拡幅する。堤防に沿う県道も住宅側にずれ、現在の8メートルから約12メートルに広がる。 この結果、住宅地に整備計画地が幅30メートル前後食い込み、計画上は1〜5丁目の約150戸が立ち退きを強いられる。国交省仙台河川国道事務所の大場将副所長は「堤防を低く抑えれば、そこから津波が流入する。安全を保つ上で、かさ上げは必要」と理解を求める。
<建物つぶすな> 「津波に耐えたのは奇跡。せっかく残った建物を人間の力でつぶすなんてあり得ない」。2丁目に自宅がある主婦磯田美恵さん(30)は反対姿勢を鮮明にする。 家は約80年前から続く食堂で、津波で約1.5メートル浸水した。リフォームして昨年12月に営業を再開。直後、切り盛りしていた父俊一さん=当時(62)=が亡くなり、現在は休んでいる。立ち退き話は2月に浮上した。 磯田さんは「父は『(避難した)住民が戻るきっかけをつくりたい』と店の再開にいち早く乗り出した。父の遺志を継ぐ」と拒否する構えだ。
<子孫の安全を> 一方で計画に理解を示す住民も多い。2丁目から約1.5キロ先の内陸部に転居した会社役員の男性(56)は「本当は戻りたい。でも50年、100年先、子孫たちの安全を考えたら、むげに反対はできない」と語る。 土地をめぐる特有の問題もある。ほとんどの家屋は堤防側に面して間口が狭く、奥行きが長い構造。国交省が買収するのは拡幅する範囲の土地だけで、多くの住民には中途半端に土地が残る。 2丁目の女性(71)は自宅が立ち退き対象だが、渡り廊下でつながる息子の家は対象外の見込みだ。「どうせなら敷地を全部買い取ってほしい」と不満を募らせる。 国交省は本年度中に用地交渉を終えて着工に入り、2015年度の完成を目指す。亘理町も災害公営住宅のあっせんなど、対象住民の生活再建を支援する方針だ。 「みんなが納得できる方策は本当にないのか」。反対する磯田さんは、震災を乗り越えた住民の間で賛否が分かれる現状への疑念を強めている。
2012年06月13日水曜日
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