社説
危険運転致死傷罪/市民感覚で要件の見直しを
夜通し寝ずにハンドルを握れるなら、運転技能は相当高いかもしれない。だが、ドライバーは免許を取得したことがなく、無免許運転の常習者だとしたら危険極まりないと誰もが思うだろう。 無免許の居眠り運転で10人を死傷させる重大事故を起こしても、法令上は過失とみなされ、罰則が最も重い危険な行為に当たらないという。あまりにも市民感覚と懸け離れていないだろうか。 4月23日朝、京都府亀岡市の府道で児童らの集団登校の列に居眠り運転の軽自動車が突っ込み3人が死亡、7人が負傷した。無免許で運転していた無職少年(18)について、京都地検は危険運転致死傷罪での立件を検討したが適用を断念し、自動車運転過失致死傷などの容疑で家裁に送致した。家裁は今月、少年を検察官送致(逆送)した。地検は近く刑事処分を決める。 危険運転致死傷罪は2001年に施行され、死亡事故を起こした場合の最高懲役は20年。自動車運転過失致死傷罪の7年、業務上過失致死傷罪の5年に比べて格段に重い。 飲酒や薬物の影響で正常な運転が困難な場合や制御が難しいほどの高速走行、運転技能がないことなどが適用要件。過失ではなく、故意に犯した行為に限られる。 京都の事故は、あたかも適用要件の隙間をすり抜けたかのようだ。居眠りによってアクセルを踏む力が弱まったせいか、制御が困難なほどスピードは出ておらず、過失と見なされた。無免許運転についても、何度も繰り返してきたことから「運転技能があった」と認められた。 少年は免許を取得するための学科試験も受けていない。我流で一定の運転技能は身に付けていたとしても、悪質な無謀運転には違いない。それでも厳罰の適用を免れた。無免許は故意ではないのか。このような不条理がまかり通っていいのか。 死亡した3人のうち、26歳の女性は妊娠7カ月で胎児も犠牲になった。「納得できない」と遺族らが憤るのも十分理解できる。 これまでも重大事故の適用罪をめぐって異論が噴出することがあった。06年に福岡市で起きた飲酒運転による3児死亡事故で、当時市職員だった被告に対し、一審判決は業務上過失致死傷罪などで懲役7年6月とした。高裁は危険運転致死傷罪を認めて懲役20年とし、判断が分かれ、最高裁は危険運転罪の適用を妥当とする決定をした。 危険運転致死罪に問われた場合、裁判員裁判で審理される。市民感情に照らして矛盾と映る基準は放置すべきでない。現状のままでは、同じような重大事故が起きるたびに民意とのずれが問題になりかねない。 京都の事故で、遺族は危険運転罪の適用と法改正を求めて署名活動を行っている。国会では法改正に向けた超党派の議員連盟が結成されている。施行から10年余が経過し、見直す時期が来たと言えよう。
2012年06月14日木曜日
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