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【放送芸能】

とんがったドラマ 作れるワケ

 低視聴率をものともせず、くせの強い連続ドラマを作り続けるテレビ東京。今度は、映画「まほろ駅前多田便利軒」の続編を連ドラにするという。映画製作に出資していないテレビ局が、ヒットしたとは言い難い作品を連ドラにするのは極めて異例。勝算はどこにあるのか。 (石原真樹)

 映画は三浦しをんさんの同名小説が原作で、二〇一一年四月に公開された。監督は大森立嗣。とある駅前で便利屋を営むバツイチ男二人(瑛太、松田龍平)の奇妙な共同生活を描く。キネマ旬報の邦画部門ベスト10で「一枚のハガキ」「大鹿村騒動記」「冷たい熱帯魚」に続く四位に選ばれたが、興行収入は約二億二千万円にとどまった。

 連ドラは小説の続編「まほろ駅前番外地」を原作に、オリジナルストーリーも盛り込み、深夜の「ドラマ24」の枠で来年放送される。主演二人はそのままで、監督は「モテキ」の大根仁。

 収録の様子をのぞいた。五月初旬、千葉市郊外のある倉庫。薄暗いリングの上で、体にぴったりしたコスチュームに身を包んだ、ひょろり長身の男二人が組み合っていた。「頼まれた仕事は極力引き受ける」のが信条という「便利軒」が請け負ったのは、プロレスラーの代行らしい。

 コスチュームの赤と緑の原色がギラギラする。映画で見せた、どこか冷めた二人組からは想像できないポップな姿が笑いを誘う。大根監督は、リングの周囲を動き回りながら「『おまえら』の『ら』がハネないように」などと、せりふの細部まで丁寧に演出していた。

 テレ東の全ドラマに関わってきたドラマ制作室部長の岡部紳二チーフプロデューサーによると、映画を手掛けた制作会社「リトルモア」の孫家邦社長と大根監督が「テレビシリーズ化したら面白い」と話したのが連ドラ化のきっかけ。岡部さんも「もっとポップにしたらドラマでいける。深夜の視聴者にははまる」と判断した。

 高視聴率が見込めるアイドル頼みのドラマや刑事ドラマが目立つ他局と一線を画し、これまでもテレ東は、死刑制度が主題の「モリのアサガオ」、低予算の冒険活劇「勇者ヨシヒコと魔王の城」など、野心作を作ってきた。

 テレ東のドラマ作りの特徴は、番組スポンサーの広告料に頼らず、出資者を集めて制作費を調達する「製作委員会方式」を採ることにある。映画化やDVD化を見込んで関係各社からお金を集めるため、「視聴率は取らなくて良いわけではないが、そこそこでも放送以外で成果を出せばOK」と岡部さん。

 例えば、化粧品会社がスポンサーに付くと、同業他社のCMに出ている女優を起用できなかったり、自動車メーカーだと交通事故を描きづらかったりと、縛りがかかる。

 委員会方式では、個別の出資者のしがらみが少なく、エッジの効いた作品が作りやすいようだ。視聴率に直結しなくとも熱烈なファンを生み、その熱がじわじわ拡大する−。

 その狙いが当たった例が二〇一〇年の「モテキ」。平均視聴率は3・3%だったが、映画が興収二十二億円をたたき出し、そのヒットを機にDVDがまた売れだした。

 視聴率の低迷で月曜夜のドラマ枠をなくすなど、すべてが順風満帆ではない。だが、平均視聴率2・1%と苦戦した「鈴木先生」を映画化するなど、テレ東はブレていない。

 「ドラマだけでなく、うちの局にはゲリラ的な歴史がある。マーケティングも重要だが、(安定路線から)逸脱した試みをするのがウチの良さ」と岡部さん。「月曜夜枠にもリベンジしたい」と意気込む。

 (視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)

<製作委員会方式> テレビ局や映画会社などが幹事となって集めたお金で、ドラマや映画を作る仕組み。お金を出しているのはDVDメーカー、広告代理店、出版社、芸能事務所などが多い。映画やDVDなどの売り上げが、出資比率に応じて戻る。幅広く資金を集め、損失を少なくしようと1990年ごろから映画界で目立つようになり、近年はテレビのドラマやアニメ、舞台でも採用されている。

 

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