スポーツ

特別読み物どう見極めるのか プロ野球ザ・スカウト 才能があってもダメなヤツ、素質がなくても出てくるヤツ

2012年05月05日(土) 週刊現代
週刊現代

「だからというわけではないですが、即戦力で獲得した選手ではありますけど、まさか開幕から投げるとは思いませんでした(笑)」

 大学時代も大半をリリーバーとして過ごした益田は、チームがピンチに陥る度、呼ばれてもいないのにグラブをはめ、大声を張り上げた。その姿は、ロッテのユニフォームに着替えた今も変わらない。

「とにかくアマの時代から、どこに目標を持っているか、どれほど努力できるか。それがない選手は、甲子園優勝投手だろうが、ドラフト1位だろうが、いくら素質があってもみんな消えていきましたよ」

 そう語るのは、日本ハムのスカウト部長、編成部長を歴任した三沢今朝治だ。

 三沢が獲得した選手のなかに、現巨人の小笠原道大がいる。NTT関東時代に捕手だった小笠原は決してプロで通用するレベルのキャッチャーではなかった。

 '96年、ドラフト3位指名の決め手は、卓越した打力と「裏表のなさ」だった。

「私生活まで徹底して野球に直結している。食事も休養もすべて。入団後にファンサービスまで断ったときは、呆れると同時に感心するしかなかったです(笑)」

 そしてもう一人、三沢には忘れられない投手がいる。'76年にドラフト外で獲得した岡部憲章だ。'81年に13勝を挙げ、最優秀防御率のタイトルも獲得している。出身は東海大相模高。原辰徳が同級生だった。

「しかも、エースは村中秀人(現東海大甲府高監督)で、岡部のことは知らなくてね。原を見に行ったときにたまたまいいドロップを持っていると気付いたんだ」

 しかし、コントロールが致命的に悪かった。聞けば、それが試合に出られない理由だった。

「必要なのは自信だけだ」

 三沢はその無名の控え投手を口説くことに決める。

「必死になって制球を磨いていたよ(笑)」

 実績のない自分を獲ってくれた三沢への感謝が、岡部の技術を押し上げた。

 プロ野球選手になるためには、もちろんずば抜けた能力や技術が必要だ。しかし、怪物と言われた清原、松坂でさえ素質だけでプロで活躍することはできなかった。清原の不摂生が度重なるケガにつながったのは周知の事実だ。

 自らを的確に認識する能力、細部にこだわる姿勢、意識の継続力---スカウトは今日も観察を続けている。(文中敬称略)

「週刊現代」2012年5月5・12日号より

previous page
6


最新号のご紹介