3年で消えた「理由」
慎重に選手を観察してきた矢野がスカウト人生の晩年に、その能力だけで惚れ込んだ選手がいる。
「素材としては、とびきりだった」
石川の翌年のドラフトで4位指名し入団させた、泉正義(宇都宮学園)だ。
高校時代、甲子園で最速150kmを記録。「江川二世」とまで呼ばれるほどの大器だった。しかしそれでも他球団が獲得を渋ったのは、持病の肩痛だけが原因ではなかった。
「彼が『札付き』だったことは、地元では知られたことでした。でも、あれほどの才能を埋もれさせてはいけないとも考えたんです」
矢野はスカウト生活9年目。「才能に賭けてみたい」との思いもあった。だが泉に野球選手としての自覚を植えつけることは、想像以上に難しかった。
「入団後は毎日のように寮に通いました。肩の状態や、日常のことを話す。それでも高校時代の友人たちにあることないことを吹きこまれ、最後まで私への不信感を解いてくれなかった」
泉はわずか3年で球界を去った。
「彼は最後まで、自分の価値を計り間違えていたんだと思います。一方で、泉同様に問題児扱いされていた畠山(和洋)が、今では一軍で4番を打っている。二軍監督時代の小川(淳司)監督が半ば無理やり機会を与え、自覚を植えつけた。二人の入団は2年しか違わない。同じ環境にいたんです。その差はやはり、自覚の問題ですよ」
今季、まさに環境を与えられることでブレイクを果たしたのが、広島3年目の内野手、堂林翔太だ。
春のキャンプ中、堂林はスカウト部長の苑田聡彦にこう告げられた。
「2年もやって一軍出場なしだろ。今年ダメならもう無理だぞ」
ケツに火がついた。
開幕スタメンを勝ち取った堂林は、一時リーグ首位打者に立つほどの活躍を見せている。
「今年が勝負とは思いましたけど、うまく行きすぎですかね(笑)」
堂林を中学時代から調査していた松本有史スカウトも、舌を巻きっぱなしだ。
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