だからこそハンデも気にならなかったのだろう。
高3の時点でヒジに不安を抱えていた吉見はトヨタ自動車野球部に入部。そこでもまた故障に苦しんだ吉見を、中日は躊躇なく'05年の自由獲得枠で獲得する。
米村の見立てが間違っていなかったことは、その後の活躍を見れば明らかだ。
その米村が、今年の春季キャンプで「こんなことなら辞めてしまえ」と怒鳴りつけた投手がいる。'10年のドラフト1位、大野雄大(佛教大出身)だ。
「結果を焦ったんでしょうね。(完治した)肩には痛みもないくせに、ひどく縮こまったフォームで投げていた。球速も全然戻ってない。
大野は吉見とは違って、90%素質で獲った選手なんです。真っ直ぐを待っている打者に真っ直ぐで空振りさせる、圧倒的な直球の魅力がすべて。その良さを自分で消そうとしているようなものです。だから『辞めろ』と言った」
大野は普段から「ちょっと抜けたところがある男」だった。それがこの時ばかりは、はじめて米村に噛みつかんばかりの気迫を見せたという。
「やっとプロ野球選手の顔になった気がする」(米村)
大野が今後どんな野球人生を辿るかはわからない。持てる才能をどう活かすかは、あくまで本人次第だ。
「例えて言うなら、『本を15分間、読め』と言われて、集中して読めるかどうか」
元ヤクルトスカウトの矢野和哉は、プロで活躍できる選手の条件を、独特な表現で言う。
スカウトになり立ての頃、矢野は、当時二軍でコンディショニングコーチを務めていた谷川哲也に、こう言われた。
「伸びるかどうかは、簡単な練習をいかに丁寧にできるかですよ」
寮のウエイトルームで、一軍と二軍の選手が交じってトレーニングをしている時のことだ。谷川は、ある有望株の野手を指して、
「彼は遠くに飛ばす筋力も、センスも一軍の選手と遜色ない。ピカイチです。練習態度も真面目です。でも、毎日全員に課している15分の基礎トレーニングを、最近ではただ『こなすだけ』になってしまった」
と矢野に語りかけた。その選手は数年後、一軍半のまま球団を解雇された。
「慣れるということは考えることを止めてしまうことなんです。逆に、同じ練習からでも、昨日と今日では違うことが感じ取れる選手は必ず成長する。それ以来、常に学習意欲と根気のある選手を探すようになった」
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