スカウトたちはどこを見て、選手の適性を判断しているのか。技術なのか、身体能力なのか、それとも人間性なのか。スカウトたちが大切にしているのは実は第一印象であったり、なにげない仕草だという。
スピードガンは持たない
練習後のマウンドに、泥だらけの球児が一人でトンボをかけている。そんな一見ありふれた光景に、ベテランスカウトの目は釘付けになった。
「強豪高の3年生エースが、マウンド整備ですよ。年に何十校と練習の視察に訪れる私達にとって、それがいかに異様なことか。後輩に『やっておけ』と一言言えばいい話なんですから。
でもあいつは、必ず自分一人でトンボをかけるんです。まるで、『ここは自分だけの場所だ』と主張するように。後にも先にも、あれほど静かで強烈な自己顕示は見たことがない」
この時、中日のスカウト・米村明は、「何としてもコイツが欲しい」と心底思ったという。彼こそ当時、金光大阪高のエースだった吉見一起。'11年のセ・リーグ最多勝右腕である。
「プロに入ってくる選手は、誰もが何か一つ、ピカイチの才能を持っている」
米村をはじめプロ野球のスカウトたちは、例外なくそう語る。だが彼らはこう付け加えるのを忘れない。
「ただ、そのすべてが活躍できるわけではない」
江川卓、清原和博、松坂大輔---かつて「怪物」と騒がれ、プロ野球界を席巻する活躍を見せた選手たち。だがその陰で、ひっそりと消えていった「ピカイチの才能」も数多いる。
「才能だけでは計れない」---ならばスカウトたちは、全国に散らばる原石を、どう仕分けていくのか。
昨年のセ・リーグ王者・中日は、12球団で唯一、スカウトがスピードガンを持たない。米村はその理由を、「吉見のような選手を見逃さないためだ」と語る。
「数字に頼ると選手の本質が見えてきません。球速は適切なトレーニングを重ねれば、プロに入ってからでも伸びますから。それよりも、プロで戦える気概があるか、対応力があるか、それら人間性を見極める眼力が必要なんです」
吉見は、そんな理想形にとても近かった。
「もちろん吉見は高い技術力をもっていました。コントロールもいい、ストレートを内角に投げ込む度胸もある。でも何より、あのマウンド整備に象徴されるように、まず練習で手を抜かない。そして自分のルールを貫徹する強さがある」
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