在日中国大使館の一等書記官(45)に浮上したスパイ疑惑。スパイ小説さながらの活動かと思いきや、現段階で取り沙汰されているのは、外国人登録証を不正に更新した疑いだ。そもそもスパイ事件になりうる話なのか、誰かが疑惑報道をテコに別の目的を達成しようとしているのか。
「今回はスパイ事件というよりも、単なる金もうけの要素が強い」。元レバノン大使で作家の天木直人氏はこう話す。中国問題評論家の石平氏もスパイ事件との見立てには懐疑的だ。
疑惑報道の続報は「書記官が農産物の対中輸出促進事業に関与し、事業を主導する筒井信隆農林水産副大臣と接触していた」と伝えた。筒井氏は三十日、書記官と副大臣室で会ったことを認めた上で、機密文書を渡したことは「一切ない」と情報漏えいを否定した。農業ジャーナリストの大野和興氏は「農水省は、農産物の輸出を政策の柱に掲げている。あらゆるルートを使うのは当然だ。副大臣が書記官と接触するのは不自然ではない。重大な国家機密があるとも思えない」と首をかしげる。
日弁連・情報問題対策委員長の清水勉弁護士は、一部新聞がスパイ疑惑を特報し、各社が追随する格好になっている点を危ぶむ。「(捜査当局などが)リークという形をとる場合、ある流れをつくりたいという意図がある。スパイとして騒ぐ要素が何もないのにもかかわらず、無批判に後追い報道をしている」
今回の「意図」とは、行政機関が保有する重要情報を漏らした公務員らに厳罰を科す「秘密保全法案」の成立にほかならないという。
(5月31日 東京新聞より抜粋)