そもそも、標準語とはなんでしょうか。「日本語学研究事典」(明治書院)によると、各地の方言を統一するために、全国どこでも通用する国家の言語として国が制定した言語です。日本では明治時代に学校の教科書をつくるため、東京で使われている語(東京語)が基になりました。学校教育や軍隊を通じて全国に広がっていきますが、昭和の初めごろまではまだまだ標準語を話す人は少なく、日本国内でも話が通じないということがありました。
標準語の「行きませんでした」は、幕末ごろの江戸ではすでに使われていたようです。一方で、幕末から明治時代にかけては「行きませなんだ」「行きましなんだ」なども江戸・東京では使われていましたが、教科書などには採用されず、明治以降はあまり使われなくなります。明治時代には「行かないでした」という言い方も東京で一時、行われていました。
■日本語教育の現場でも
「行かなかったです」は現在では首都圏だけでなく、日本語を話す外国人にも使われている可能性があります。「行かなかった」に「です」をつけるだけなので、初心者には容易で説明もしやすく、日本語教育の現場では積極的に取り入れている所もあります。英オックスフォード大で出版された日本語入門書の中にも「行きませんでした」と併記されています。
東京語を基につくられた現在の標準語ですが、「行かなかったです」などは地域語を話す人が無意識のうちに言いやすいことばに変化させた結果の表れといえるでしょう。こうした一連の動きを田中さんは「標準語の東京語離れ」と呼んでいます。
戦後、東京以外の地域からやってきた人が増えた影響で、昔ながらの東京語を話す人は少数派になりつつあります。ことばは使う人が増えるほど、使いやすい形に変化しがちです。「寝られる・来られる」に対して「寝れる・来れる」が広がってきたのも、その例です。「標準語」が変わる動きは今後も広がっていくことでしょう。
(岩崎雅子)
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標準語、岩波新書
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