「人を殺せば死刑になると思った。誰でもよかった」。大阪市で起きた通り魔事件で逮捕された男が、そう供述している。
7人が死亡し、10人がけがをした東京・秋葉原の事件をはじめ、これまでに起きた無差別殺傷事件の犯人たちが口にした「理由」と同じである。
40代の男性と60代の女性の命が奪われた。助けを求める声を無視し、男は何度も刃物を振るっている。残忍な犯行に至った詳しい動機の解明を急いでほしい。
男の生活や精神状態などを十分に調べ、事件の背景に迫らなければならない。
男は、覚せい剤取締法違反の罪で服役していた新潟刑務所を、5月下旬に満期出所したばかりだったという。「住む家も仕事もなく、生きていくにはどうしたらいいのか、と自殺を思い立った」と供述している。
刑務所の出所者が社会復帰するための環境整備の遅れが、以前から指摘されている。
保護観察が付く仮出所者は、住居や就職などで公的支援を受けることができる。刑期を終えた満期出所者は対象外で、支援策は手薄な状態にある。
2011年の犯罪白書によると、出所者が5年以内に再び刑務所に入る割合は、仮出所者が30%なのに比べ、満期出所者は53・4%と半数を超えている。再犯者の7割が無職という分析もあり、働く場の大切さを示している。
法務省は、出所者を雇う意思のある企業に登録してもらう制度「協力雇用主」を設けている。昨年までに9千社余りが登録した。出所者を雇用した企業を、入札などで優遇する自治体もある。経済界もNPO法人をつくり、雇用を後押ししている。
しかし、再犯の不安や経営状況の悪化から採用実績は伸び悩んでいる。更生保護施設でも、住民の反対で出所者が入れない事例も出ているという。
男が更生の機会を得られず、失望した可能性は否定できない。国は社会復帰を促す環境整備にさらに力を入れる必要がある。私たち市民も、出所者の孤立を防ぐ対策に理解を深めたい。
男の生い立ちや、暮らしぶりなど、詳しいことはまだ分からない。いかなる理由があれ、身勝手な犯行は許されない。
男の個人的な問題として済ますのではなく、背景となった社会的問題に向き合い、後を絶たない無差別殺傷事件の根を絶つ手だてを講じたい。