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福島第一原発事故をめぐる国会の調査委員会(黒川清委員長)が、ひととおりの参考人招致を終えた。今月末までに最終報告書をまとめる。だが、9日に示された論点整理は、判断の根拠[記事全文]
国民の健康を守るために喫煙率を下げる。国としての数値目標がやっと決まった。2010年の日本の成人喫煙率は男性32.2%、女性8.4%で、全体では19.5%だ。それを10[記事全文]
福島第一原発事故をめぐる国会の調査委員会(黒川清委員長)が、ひととおりの参考人招致を終えた。今月末までに最終報告書をまとめる。
だが、9日に示された論点整理は、判断の根拠がはっきりせず、説得力に欠ける。
この間おこなわれた政治家や東京電力の首脳陣に対する質疑も、原子力行政の構造的な問題を解き明かすような切り口に乏しかった。
国会事故調は、何を解明したいのか。このままでは、不十分な報告書にしかならないのではないかと心配になる。
今回の論点整理は、事故直後の官邸の対応に焦点をあてている。この中で、もっとも違和感が強いのは東電の「全員撤退」をめぐる見解だ。
事故調は「東電が全員撤退を決定した形跡は見あたらない」と結論づけている。
これは、菅首相(当時)をはじめとする官邸側の数々の証言と真っ向から対立する。
質疑でも、官房長官だった枝野氏が清水正孝社長(同)との電話のやりとりを紹介し、全面撤退と認識したことを証言したのに対し、清水氏は「記憶にない」の一点張りだった。
ところが、黒川委員長は清水氏に対して「肝心なことを忘れている」と述べただけで、記者会見では「官邸と東電のコミュニケーション不足の問題」と分析した。官邸側の言い分はほとんど無視された。
これで納得できるだろうか。問題は東電本社に事故対処への強い意志があったかどうかだ。それによって、その後の菅氏の行動への評価も分かれる。
官邸側に誤解があって、「事故対応に過剰な介入をした」と事故調が論ずるなら、そこに至る根拠や調査で明らかになっている事実を、もっと明確に説明すべきだ。
そもそも、事故調の目的は何か。責任追及も大事だが、最大の主眼は、二度とこうした事故を起こさない教訓をどのようにつかみとるかにある。
その意味で、事故以前の問題への踏み込みも物足りない。
今日の原子力行政をつくってきた自民党への調査をおこなっていないのは、どういうわけだろう。政府の事故調では官邸対応の分析に限界があると意識するあまり、そこに目を向けすぎてはいないだろうか。
憲政史上初めて国会に設けられ、国政調査権の行使まで認められた独立委員会だ。
国民が期待しているのは、国内外からの評価と歴史の検証に堪えうる報告書である。
国民の健康を守るために喫煙率を下げる。国としての数値目標がやっと決まった。
2010年の日本の成人喫煙率は男性32.2%、女性8.4%で、全体では19.5%だ。それを10年後には全体で12%にする。先週閣議決定された、がん対策推進基本計画に盛り込まれた数値目標である。
数値目標の設定は、1999年に旧厚生省が喫煙率の半減を掲げようとして以来、何度か試みられてきた。そのつど、たばこ業界や、それを背景にした議員たちの抵抗で、断念に追い込まれた。今回、何とか目標を盛り込むことができ、一歩前進であることは間違いない。
だが実は、調査に対し、喫煙者の約4割が禁煙したいと答えている。12%は、その人たちが望み通り禁煙すれば達成できる目標だ。この数字に安住せず、たばこ価格の値上げなどの政策を積極的に進めて、喫煙率をさらに下げていくべきだ。
自分は喫煙していないのに他人のたばこの煙を吸う、受動喫煙を防ぐ法案が国会に提出されている。その成立のめどがたたないのも、どうしたことか。
職場での受動喫煙の害から守るため、事業者に対し、全面禁煙や分煙などの対策を義務づける労働安全衛生法の改正案で、昨年末に閣議決定された。しかし、与野党議員から「努力目標」でいいのでは、といった意見が相次ぎ、審議に入れないままになっている。
こちらもやはり、最大の反対勢力はたばこ業界である。
先月31日の世界禁煙デーに世界保健機関(WHO)が掲げたスローガンは「たばこ産業の干渉を阻止しよう」だった。
マーガレット・チャン事務局長は「たばこ産業は毎年約600万人の命を奪う殺人産業」と断じて、業界の圧力を排して対策を進める決意を明らかにした。ところが日本では、このスローガンを使わなかった。
国内でたばこによる死者は毎年十数万人、受動喫煙による死者は約6800人にもなる。命を守ることを優先するなら、政府も国会も改めてWHOのスローガンをかみしめるべきだ。
日本で禁煙の法制化が進まない背景に、たばこ産業の健全な発展を目的とする、たばこ事業法の存在がある。日本たばこ産業(JT)の大株主である政府には、たばこにかかる税の収入を確保していきたいとの意向も働く。
廃止も含めて、この法を抜本的に見直す時だろう。健康を守りたい国民の支持は、間違いなくこちらにある。