最近、私がおかしいのか、時代がおかしいのか、自分でもわからなくなる時がある。
老舗の店でギフト用菓子箱詰めを注文した。1万円札を渡し、「道に止めた車で待つから、商品とおつりを持ってきてください」と言い、「急ぎで」と付け加えた。
それから10分が経った。手ぶらの店員が車に向かって来るので不思議に思っていると、店員は言った。
「お菓子の1種類が賞味期限ぎりぎりで、ギフトには向かないかと…」
「じゃ、期限が十分あるものにその1種類を替えてください」
「はい」
「急いで」とまた念押しした。
20分が経った。
私は店に出向き、いったいいつまで待たせるのかとクレームを言った。店員は3人いたが客のクレームに対して真剣に向き合うまなざしの店員はおらず、皆、どこかなにか他人事のようにボーッとラッピングしていた。
一昔前の、血相を変えて客に詫び、全身で懸命に動く姿は今では幻のようだ。
今は、ギフトの注文に30分をボーッと待てる人物でないと時代についていけない。
また、有線から光ファイバーへと、引っ越しを機に移行する機器があったので、その会社に電話した。
「引っ越しで、有線から光ファイバーに移行したいのですが」
「では、技術者から電話をさせます」
そして技術者から電話があった。
「お引越しによる移転だそうですね。いつでしょうか」
「○月×日です」
「了解しました」
「念のための確認ですが、有線から光ファイバーへの移転だとご存じですね」
「ええっ。そうなんですか。それでは確認して再度お電話します」
「はい」
ため息交じりに電話を切った。
その会社の別の人物から電話があった。
「有線から光ファイバーへの移転をご検討でしょうか」
「いえ。検討などしていません。決定です。最初からそのお願いです」
「では、有線機器を送り返してください。住所は…」
「今はメモができないので、住所は留守録に入れておいてください」
「留守録に入れていいかどうか、上司に確認します」
それから何分経っただろう。
「では、留守録にお入れします」
その返事以降、翌日になってもまだ留守録には何も入っていない。
何か一つの用事で企業に電話した時に、その用事が一本の電話で済んだ時代がなつかしい。
質問に答えられる担当者がいた時代が奇跡のようだ。
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