2008年06月23日 09:00 [Edit]
嘘という真実 - 書評 - 嘘を見破る質問力
日本実業出版社より献本御礼。
本書を読了して、なぜ著者が人気弁護士となったのかがやっと理解できた。
著者は、法律以上に人というものをよく理解しているからだ。
嘘を見破るためというより、人というものを見究めるために読むべき一冊。
本書「反対尋問の手法に学ぶ 嘘を見破る質問力」は、「最短で結果が出る超仕事術」を著した著者が、弁護士という本来の仕事に立ち返って、嘘というものに関して考察し、それを通して人というものを洞察した一冊。
目次 - 日本実業出版社より
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目次を一瞥してわかるとおり、本書は単なる「嘘を見破る質問力」入門ではない。もちろん本書には嘘の見破り方も書いてあるが、それより重要なのは、なぜ人は嘘をつくのか、そしてそういった嘘に対して我々はどのような態度で臨むべきなのかがきちんと書いてあることである。
特に目を引くのが、第二章と第四章。第二章では、人は必ずしも意識して嘘をつくのではないということが書いてある。実のところ、「偽言」(false remarks)のほとんどは、単なる思い違いに由来する。本blogにも、それは少なからずある。著者はこれに対しては非常に寛大な態度を取っている。
そして第四章には、嘘に関する男女差が書かれている。しかもはっきりと、女性の方が嘘が上手いと書かれている。著者がセクシストなのではない。これは客観的事実である。
男と女と嘘といえば、真っ先に思い浮かぶのが、こちら。
男はいつも 嘘がうまいね
女よりも子供よりも 嘘がうまいね
女はいつも 嘘が好きだね
昨日よりも明日よりも 嘘が好きだね
歌姫(「寒水魚」最終曲)
ああ、なんたる女神の嘘。これは男女をひっくりかえした方が真実だ。私はそのことを心でも体でも知っている。こういうのもなんだけど、私は嘘にはちょっとした自信がある。なにしろ母仕込みだ。単にどうやって嘘をつくかだけではなく、ばれた時の対処や口裏のあわせかたなどを彼女に学んだのだ。それがなければ、今の私はなかっただろう。彼女に嘘をつく能力がなければ、私は死んでいたと断言できる。彼女が夫に嘘を言わなければ、私が成人することはありえなかった。
だからこそ、わかる。男は嘘において女には絶対にかなわない、と。
著者はその理由を生命力の差に求めている。確かに嘘を貫くには生命力(vigor)が欠かせない。しかしそれだけでは、嘘をつく潜在力(potential)にはなっても、嘘をつく能力(availability)とはならない。
なぜ女の方が嘘が上手いか。それは嘘が必要だからだ。
子供を、守るために。
嘘は、夫の暴力から身を守るための、最も有効な盾でもあるのだ。生命力において勝るにも関わらず、腕力においては劣る女性の武器として、嘘というのはもっとも自然かつ強力なものなのだ。
もちろん、生まれ持った「嘘つき力」はいくらでも悪用可能で、本書にもそんな嘘を駆使し、ばれても堂々としらを切る悪女が登場する。
しかし、著者はそういう嘘の見破り方を享受しつつも、「嘘をばらす」が必ずしも最善手とは限らないことをきちんと指摘している。それが最も如実に現れているのが、嘘を見破った後の対応を複数提示していること。著者は嘘を見破ることそのものよりも、その後どう振る舞うべきかにより多くの言葉を割いている。
もし相手を「倒し」たかったら、退路は絶っておかなければならない。法廷、特に刑事の場合はこれに相当する。本書にもその方法はきちんと書いてある。
しかし、本書の真骨頂は、「本当にそれでよろしいのですか」ときちんと説いていることにこそある。嘘つきを打ち倒すことが、あなたの本当の目的なのですか、ということをきちんと再確認しているのである。
これこそ、プロフェッショナルと「道具」の違いだ。道具は意志ではなく指示にしか従えない。銃の引き金が、持ち主の心境を読むことはありえない。しかしプロにはそれが出来る。生かしたいのか、殺したいのかをクライアントから読み取ることが出来るのだ。
嘘(a lie)というのは、真(true)の反対、すなわち偽(false)と定義するにはあまりに複雑で、それゆえ人間的なものなのだ。だから著者の対応も、単なる「証明」には留まらない。証明であれば、それほど難しくない。結局のところ反対尋問というのは数学の背理法(reductio ad absurdum)に「還元」(reduce)できるほど単純なものであり、それであれば一章で事足りてしまうのだから。
嘘にこそ、真実がある。
それを、読み取って欲しい。
Dan the Deceive[rd]
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この言葉は嘘か、否か!
blogで
「弁護士業に戻る自信がない」的なことを
書かれていましたね。
blog読んでくだされ。