(本)鈴木大介「出会い系のシングルマザーたち」—生活保護問題に関心がある方は必読

2012/06/11
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生活保護関連の話題で目にした本。衝撃的な内容でした。ぜひ多くの人に手に取って読んでもらいたいので、長めの読書メモをご共有。


売春に至る凋落

・中井さん(仮名)は23歳で結婚し、子どもを産んだが、借金癖・女癖の悪い夫と破局。元旦那の借金を肩代わりしつつ、看護師として働いていたが、うつ病になってしまった。母親も病気で倒れた。うつの病床で出会い系サイトを使って男と出会い、1万円を「借りた」。

・①極まった経済的困窮があるから、体を売ることを考えた。②風俗店は過酷な環境を強いられるため、ピンで売春することを考えた。③そこには出会い系サイトをはじめとするインフラが整っていた というロジックがあるが、取材対象者の2割強がきっかけについて「だって、寂しかったから」と回答した。彼女らがしていることは売春だ。しかし、彼女らは出会い系に仕事と収入ではなく、明らかに救いを求めていた。

・母子世帯の平均年間収入は213万円(平成18年。生活保護、児童手当、養育費、仕送りなどを含む)。取材対象者にこの数字を伝えたところ「年収が213万円あれば、こんなことしていないかもしれない」という答えが返ってくる。

僕は花弁が全部抜け落ちた、グロテスクな花を思い浮かべる。あらゆる希望やあらゆる可能性という名の花びらが、ひとつ、またひとつ潰され、結局何も残っていない丸裸の花だ。革新した。これほどまでになにも持たざる者が、現代日本に存在することを知る。それがすなわち、自己責任論の払拭への第一歩だ。

別れた夫からの養育費をもらうことは現実的ではない。DVで別れた夫には、近づけるわけもない。日本の法律では、女性の申し立てだけでは離婚は成立しない。裁判費用もかかる。また、養育費は「善意」にすぎない。突然行方不明になる夫も。

取材対象のほとんどが、精神科に通院しているか、通院歴があった。


生活保護「不受給」のわけ

「売春に生活費を依存する」という選択にまで追いつめられていながら、取材対象者のほとんどが、生活保護を受けていなかった。

・理由の一つは、生活保護の申請がなかなか通らないこと。「なぜ働けないのか?」「元夫のとの養育費の話をやり直せないのか?」とイジメのように社会福祉事務所に問いただされる。

生活保護を受けているだけで「泥棒扱い」を受ける、と吐露する取材対象者も。生活保護を受けていることを原因に、子どもがいじめに遭う。

「バレない売春で稼ぐ方が、生活保護の差別よりマシ」。

婚活も生活保護不受給の原因。生活保護を受けているというだけで、男性からは引かれてしまう。

・取材に応じたシングルマザーは、ほとんどが「家族のないシングルマザー」だった。両親の死別、行方不明など。売春するシングルマザーとは、実は家族の崩壊のひとつの結末なのか。

・子どもがスポーツを続けられなくなるため、生活保護受給の選択肢を「あり得ない」と語る取材対象者も。生活保護を受けていたら、合宿も遠征も「贅沢」扱いになってしまう。親の問題で子どもを挫折させたくない。

・NPOなどへの相談を促すと「男の相談員はいないの?」と返されることがある。彼女らには「女の集団には絶対に馴染めない」という独特のメンタリティが見受けられる。

本当に胸が苦しくなる箇所です。生活保護に対する差別意識が支援を拒む「出会い系のシングルマザー」を生んでいる構図。僕らの意識、価値観が問われます。


理想の福祉とは

・シングルマザーを支援する赤石さんは「ターゲットがマイノリティグループに限定されている制度を余り多くつくるのはどうかと思っている。集団ごとにいろいろな差別意識とか個別意識とかが非常に強く、それを通底する人権意識が低い日本のような国では、たとえば子ども手当や給付付き税額控除のようなユニバーサルなスタイル、あるいは現金給付でない、公営住宅や高校授業料無償か、保育サービスのような現物手当が良い。母親がどういう態度でそのお金を使ったなどと問われないようにすること」が大切だと語る。

・取材対象者は「匿名性に守られた現金給付」を望んでいる。「本当に?受けてても誰にもバレないの?なら、喉から手が出るほど欲しい」。なんて臆病で、なんて弱り切った存在なんだろう。そして、なんて世の中は狭量で、弱者に対してどこまでも意地が悪いんだろう。

・「シングルマザーの方で、うつ病と闘いながら子育てしつつ、母子加算復活のためにメディアにも協力して実名で出演してくださった方がいたんですが、記者会見で彼女がこう言ったんです。「生活保護は国民の皆さんの血税をいただいているということは本当に良く認識しています」と。彼女としてはバッシングを少しでも軽減させたかったんでしょうけれど、そんなことを受給者に言わせるって、ありえないですよ…」(赤石さん)

・「女は自力のみで子育てをできる存在ではありません」という価値観を堂々と言う人を、あまり聞いたことがない。言えば、叩かれる。もしかすると叩くのは、むしろシングルマザーで自力のみでバリバリ子どもを育て上げてしまった母親かもしれない。

・「私にできたのに、なぜできない」「頑張りゃなんとかなるんじゃない?」「本当に努力してるの」耳にタコができるほどあふれる、こんな声。うつ病などの「努力できない状況」になったら、自助努力以外に支えのないシングルマザーは即座に生死の淵にまでたたき落とされる。

・現在「福祉に支えられて生活するシングルマザー」に対するバッシングは、本当に凄まじいものがある。攻撃者にぜひ考えてほしい。攻撃者は、本書に登場する出会い系のシングルマザーを肯定しなければならないはず。それが筋だ。なぜなら彼女らはかたくななまでに福祉に頼ることを拒否し、国民の血税を一円も使わず、表面上は見事に「女手一つ」で子育てをしているからだ。

・今一度、問いたい。シングルマザーへの支援とは、そこに育つ、将来の社会を担う子どもへの支援なのだ。どうしてそれが、批判や差別の対象になってしまうんだろうか。

最後の章では、著者の問題意識、怒り、悲しみが伝わってくる文章で、思わず涙が出てしまいました。


僕たちの価値観を問いただす、素晴らしいルポだと思います。

著者が嘆くように、僕たちはもっと他人に寛容になれないのでしょうか?それほど余裕がなくなっているのでしょうか?余裕を失わせるものはなんなのでしょうか?どうすれば解決するのでしょうか?いますぐ、何ができるでしょうか?

…この本に触れると、こうした疑問符と延々と向き合うことになると思います。ぜひ多くの方に手に取ってもらい、これからの社会を生きる上での態度について考えるきっかけにして欲しいです。


もはやこれはネタだとは思いますが、象徴的なことに、こんな否定的なレビューも付いています。こういう現実を変えていかないと、世の中ホントに良くならないと僕は思います。