(cache) 見せる自分/見せない自分　第六章

第六章.良い印象を演出するには―取り入れ・自己宣伝・示範

報告者　大塚泰弘

特定のイメージを相手に与えるための主張的自己呈示
→ジョーンズとピットマンの5つの分類

・自己呈示の戦略　　　・求められる帰属　　　・失敗した場合の帰属　・相手に喚起される感情　　・典型的行為
取り入れ　　　　　　　　　好感が持てる　　　　　卑屈・同情者　　　　　　　好意　　　　　　　　　　　　　自己描写・御世辞　　
自己宣伝　　　　　　　　能力がある　　　　　　自惚れ・不誠実　　　　　尊敬　　　　　　　　　　　　　　業績主張・説明
示範　　　　　　　　　　　価値ある　　　　　　　　偽善者・信心ぶった　　　罪悪感・恥　　　　　　　　　　自己否定・献身的努力
威嚇　　　　　　　　　　危険な　　　　　　　　　　うるさい・無能　　　　　　恐怖　　　　　　　　　　　　　脅し・怒り
哀願　　　　　　　　　　　可哀そう　　　　　　　　　怠け者・要求者　　　　　養育・介護　　　　　　　　　　自己非難・援助の懇願

表は、与える印象の目的・失敗した時の印象の危険・どのような感情を生じさせることが目標達成か・どのような行動があるかをまとめたもの

取り入れ―好かれるように見せる

相手から好意的な印象で見られることを目的とする自己呈示の方略であり、その印象を得ることによって他者に対して影響力を獲得することに通じるもの。主に意見同調・他者の自尊心高揚・親切な行為・自己呈示などがある。

→取り入れ行動は簡単にはいかず、いくつかのハードルがある

①　誘引価
　　取り入ろうとする相手の人物から好意をもたれることが本人にとってどの程度重要かという要因
②　観的成功確率
　　自分が採用しようとしている取り入れ戦術が成功するかどうかに関する本人の評価で、主観的な成功確率が高い時、取り入れ行動を起こす可能性が強くなる
③　正当性の認知
　　様々な理由を付けて自分の行為が正当なものだと考えること

例）勤務評定を行う課長に対して良い印象を与えたいと思ってる社員の「取り入れ」

取り入る人のジレンマ

常には成功せず、逆効果を招く可能性も・・・

例）相手に好印象を与えるための必要度が上がり、取り入れ頻度を上げる
　　　　　　　　　　　　↓
相手は取り入る人の偽瞞・不誠実を示す手掛かりに敏感になる(意図が見え透く)
　　　　　　　　　　　　↓
「卑屈な人間」など悪いレッテルをはられる。（ジレンマの発生）

・(D・カーネギーの原則)

「率直で、誠実な評価を与える」を挙げている。しかし、その誠実さは客観的に判断されるものでなく、取りはいる人がどの程度誠実だと信じるかが重要。つまり称賛の言葉が御世辞と捉えられた場合、嫌われるわけでありので、取り入りを成功させようとする人はあらゆる方法で見破られないようにしなければならない。

成功例）ジョー。ジラード氏は年間に多くの車を売り上げている。お得意様には年に何回か挨拶状（I Love You）を送っている。
　　　　　　　　　　　　↓
　　売り上げには影響しないが、効果は絶大だった

失敗例）ある議員が総選挙間近のAさんの家に誕生日のはがきを送った
　　　　　　　　　　　　↓
　　御祝いとしてではなく、総選挙での支持を得るための糸引きと捉えられた

心の目的をカムフラージュし取り入れを実行するスキルが必要

自己宣伝―有能な人間に見せる

ハイダーの帰属理論（遂行の変動に影響を及ぼす諸要因の関係）

P=［（A-A'）×（M±M'）］＋（D±D'）＋L
P＝業績　　　　　　　　　　　　　L＝運
A=安定した能力要因　　　　　A’＝一時的な能力制限要因
M安定した動機付け要因　　M’=一時的な動機づけ要因
D＝通常の難易度　　　　　　　D’＝難易度に影響する一時的要因

・有能である(能力がある)こと業績は対応関係ではなく、そのほかに後押しするものがある。また業績に関することも自己宣伝の方略として用いられ、肯定的な結果が得られた時には①自分がいい結果の原因であることを示す（称賛付与）②肯定的な行為やその結果の価値の強調（価値高揚）

・自己宣伝は他の自己呈示方略と違い、その内容を実際に遂行させ照らし合わせて確認できるため、誇張すれば否定的印象をもたれる可能性もある。…①しかしシアーズらによれば、優れていることが周りに知られている場合、謙遜したほうが好感をもたれやすいとしており…②、ホルトグレイブズとスラルは自己宣伝がその行動が生じる文脈に照らされて、判断されるとしている…③。つまり周囲の状況を考慮に入れて判断する技術を得ることも大事である。また自己を謙遜するほうが得策と言える。

例）①面接時に「中学までの英語は完璧です」と答えるのでテストを行う。しかし成績が悪かったため「自惚れ・不誠実」という印象を与える。
　　　　　　　　　　　　↓
　　自信を誇張するか、謙遜して伝えるのか悩む（ジレンマの発生）

　②イチローなど優れたプレヤーがインタビューで「チーム一人一人の選手の力」という発言など

　③Ⅰ　Aさん「数学のテスト、何点だった？」→Xさん「数学は95点だったよ」
　　Ⅱ　Aさん「期末も終わって、1段落したね」→Yさん「数学は95点だったよ」

日本人の謙遜

日本人は自身の能力の高さを自ら言うことを控える傾向にある。

・加志摩とトリアンディスの実験→p152～p153 　実験結果より、能力への帰属に関して日米で大きな違いがあった。日本人→失敗した場合に能力に帰属する米国人→成功した場合に能力に帰属する・吉田、古城、加来の実験→p154～実験結果より自己卑下的な呈示をした人を高く評価し、良い人と評価した。年齢が上がるごとにこの傾向は強くなる　　　　　　　　　　

米国人は「独立的自己」を持つ人が多い。そのため、自分を他者と分離して様々なことを捉えていく。状況や環境を超えて私は優れると一般的な理解をすることができる。一方日本人は「相互依存的自己」を持つ人が多い。そのため、自分を社会的関係の一部と捉えていく。褒められても一般的な能力の高さとして捉えづらい。

女性の謙遜

能力があっても控えめな言動をすることや特定の領域（料理・音楽）に関しては、男性より女性のほうが、好意的な印象を与えやすい。また女性の控えめな行動は「女らしさ」につながるので自己呈示の方略として謙虚に見せているのでは？という仮説

ヒザリトンらの実験p161 実験結果より女性のほうが控えめな行動に出てる。公的な条件だけで女性が控えめな行動をとるの→謙虚な行動の裏に自己呈示側面がある事を示唆している

この女性の行動も他の行動と同様、謙遜が自己呈示方略だった場合、影響を与えようとする意図が悟られてしまい、謙遜が逆効果になる可能性もある。

見せること重荷

「見せよう」とする気持ちは成功の引き金にも、失敗の引き金にもなる。
大きな期待をしてくれている人の前での行為は好影響を及ぼす可能性がある一方で、プレッシャーを与えてしまい否定的結果を生み出すこともある。

例）4人の選手が５輪に出場。優勝候補の選手がいいタイムが出なかったので、メダルを狙えるチャンスが来たが、結局誰もその記録を抜くことが出来なかった。

例）ワールドシリーズにおいて地元で戦うチームは第７戦や優勝に大手をかけた試合においての勝率が低い。

→チョーキング…このような状況のもとで、予想より悪い水準にとどまってしまう現象

示範－価値ある人間に見せる

「自分は道徳的価値があり完璧人間である」という印象を他者に与えようとする自己呈示。

例）上司が後輩の分まで残業して働く

上記の例のような行為を行い、自己呈示に成功した時は他者に強い影響を与える力も持つ。しかし示範的な自己呈示は失敗した時は「偽善者」というレッテルをはられる。この「偽善者」というレッテルは示範的自己呈示を実践する理想主義者と融通のきく現実主義者の場合、前者のほうが偽善的に見られ嫌われてしまう。

＜終わりに＞

他者に良い印象を与える時に、印象操作をしている意図を悟られないようにすることが成功の条件である。しかし自己呈示の必要性が高まれば、悟られやすく否定的な結果に陥りやすいという面でも社会において非常に高度なものである。このようなスキルが他のスキルとどのように相まってどのように発達するのか、その過程について深い理解を深めることが自己呈示メカニズムを解明するための一つの手掛かりを提供してくれる

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