公開日:2012.05.30
「日本酒」メーカー倒産動向調査~ 10年間の倒産は74件 業歴100年以上が7割超 ~
「日本酒」メーカーの倒産は、2002年から2011年の10年間で74社発生し、そのうち7割以上を業歴100年超の老舗企業が占めた。また、売上高が判明した51社のうち、10年間で売上高が30%以上落ち込んだメーカーは36社(構成比70.5%)を数えた。急速に縮小する「日本酒」市場で、深刻な業績悪化に苦悩する業界の姿が透けて見える。
主な日本酒メーカー695社では、10年間で売上高が30%以上減収したメーカーは341社(同49.0%)だった。ただ、海外での市場開拓やネット通販など、多様な販売チャンネルを見出して売上高を伸ばすメーカーも106社あり、経営戦略の違いが業績に反映した格好だ。
国税庁によると、日本酒の消費数量は1994年の125万7,000キロリットルから、2010年は55万8, 000キロリットルへ大幅に減少している。また、清酒製造業者数も1994年の2,204社から2009年は1,579社へ減少している。日本酒の慢性的な需要減の背景には、嗜好の多様化や若者の日本酒離れ、新たな商品開発の遅れなど様々な要因がある。日本酒業界が有効な打開策を見いだせない限り、中小企業が支える日本酒業界では今後も生き残りをかけた模索が続いていくだろう。
日本酒メーカーの倒産 10年間で74件
日本酒メーカーの倒産は、2002年から2011年の10年間で74社だった。10年間を年別にみると2005年が3社と最少で、リーマン・ショックの起きた2008年には12社が倒産し、最多を記録した。
日本酒の消費量が低迷するなか、2005年9月から酒類販売の自由化がスタートした。従来の酒屋さんに加え、スーパー、コンビニでも販売が始まり、高いブランド力や知名度を持つ有力商品に売れ筋が偏る傾向が強まった。こうした流通の変化も、地元中心に展開してきた中小メーカーが淘汰に追い込まれた原因のひとつにあげられる。
2009年以降は淘汰が一段落し、件数は減少している。2011年は2番目に少ない5社だった。
負債総額は2002年と2003年が136億円と突出している。2002年は多聞酒造(兵庫県、ブランド名「多聞」、負債額95億円)、2003年は吉村秀雄商店(和歌山県、ブランド名「日本城」同116億円)の大型倒産が発生したことによる。
倒産した日本酒メーカー 7割超が業歴100年超
日本酒の歴史は1300年以上といわれ、日本酒メーカーには業歴100年超の老舗企業も多い。倒産した日本酒メーカー74社では、創業年が判明した71社をみると、最多は「100年以上150年未満」で30社(構成比42.2%)。次いで、「50年以上100年未満」16社(同22.5%)、「150年以上200年未満」9社(同12.6%)と続く。
業歴100年以上の老舗企業は52社(同73.2%)と約7割を占め、平均業歴は140年だった。
最も古い創業は、1650年創業の弥生酒造(株)(新潟県、08年5月、破産)で、業歴358年の長寿企業だった。業歴300年以上が2社、200年以上~300年未満も11社を数え、老舗の倒産が目立つのも日本酒業界の特色になっている。
倒産した日本酒メーカー 約7割が30%以上の減収
倒産した日本酒メーカーの倒産直前と10年前の売上高を比較すると、売上高が判明した51社では「50%以上減」が19社(構成比37.2%)と最も多かった。次いで、「30%~50%未満減」が17社(同33.3%)、「10%~30%未満減」が9社(同17.6%)で、売上高が30%以上落ち込んだメーカーが70.5%を占めた。一方、売上高が増加したのは5社(同9.8%)に過ぎなかった。
日本酒メーカー695社では、売上高の「30%~50%未満減」が187社(構成比26.9%)で最多。次いで、「10%~30%未満減」が181社(同26.0%)、「50%減~」が154社(同22.1%)だった。倒産したメーカーで最も多かった30%以上の減収に陥った日本酒メーカーは341社(同49.0%)と半数を占め、日本酒メーカーの厳しい経営環境を裏付けている。
一方、売上高を伸ばしているメーカーは106社だった。旭酒造(山口県)は、扱いブランドを純米大吟醸「獺祭(だっさい)」1種類に絞り、商品価値を高め、2001年9月期の売上高2億8600万円から2011年同期は16億6700万円に伸ばした。
倒産原因 「販売不振」と「赤字累積」が7割超
74社の倒産原因は、日本酒の長引く需要低迷を背景に「販売不振」が42件(構成比56.7%)で最多だった。次いで、「既往のシワ寄せ(赤字累積)」14件(同18.9%)、「設備投資過大」と「他社倒産の余波」が各5件(同6.7%)と続く。
形態別では、破産が26件(構成比35.1%)、民事再生法25件(同33.7%)と、清算型と再建型がほぼ並んだ。次いで、銀行取引停止13件(同17.5%)、特別清算10件(同13.5%)の順。
日本酒のブランド力や品質など、商品イメージが高いと倒産しても再建に向けた動きがとりやすい。特に、中小メーカーは「のれん代」を別にして、大手に比べ資産投資が小さい分、低コストでの支援が可能になり、スポンサーを見つけやすいメリットもある。
異業種から日本酒メーカーのスポンサーに名乗りを上げた例では、OA機器販売のアーキクリエイション(文京区)が、源平酒造(福井県、2010年民事再生法)の全株式を取得し傘下に加えたケースがある。
また、破産した城山産業(岐阜県、2008年破産)は、ブランド「鬼ころし」を保有していたが、食品・酒類メーカーのジャパン・フード&リカー・アライアンス(大阪市)が設立した老田酒造店(岐阜県)が事業を引き継ぎ、商品ブランドを維持している。
高いブランド力と商品イメージを確保している場合、企業再生か商品継続か別にして、他の業界より再生への可能性は大きいともいえる。
倒産した日本酒メーカー 売上高5億円未満が8割を占める
倒産した日本酒メーカーのうち、直近売上が判明した65社をみると、売上高が「1~2億円未満」が19社(同29.2%)と約3割を占めて最多。次いで、「1億円未満」18社(同27.6%)、「2~5億円未満」17社(同26.1%)だった。
資本金では、個人企業を除く71社のうち「1,000万円~5,000万円未満」が47社(構成比66.1%)で最多。次いで、「500万円未満」、「5,000万円~1億円未満」が各9社(同12.6%)だった。
倒産した日本酒メーカーは、売上高5億円未満が54社(構成比83.0%)を占め、多くの小・零細業者が慢性的な需要減に対応できず倒産に追い込まれたことを示している。
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