「再稼働に積極的な人たちの一つの目的はおカネでしょうが、それだけでここまでバカなことはしない。他に要因があります。その一つが、官僚たちの思考停止。私は『官僚レミング(集団自殺)』と呼んでいますが、あれほどの事故を起こしながら、経産省、原子力・安全保安院、原子力安全委員会で誰一人責任を取らされなかったので、同じメンバーが同じメンタリティで3・11以前と変わらないルーティン・ワークをこなしている。悪いことをしたと思っていない官僚たちが、考えを改めるはずもありません。
彼らは事故前の権限を手放したくないし、現に経産省はエネルギー行政の権益を守ったどころか、原子力損害賠償支援機構で一時国有化する東電まで自分たちの手に入れた。さらに、機構からは東電救済のために9000億円の交付国債を投じたから、財務省は何としてもこれを回収したい。メガバンクもこれまでの債権を回収するつもりだから、再稼働せずに電力会社が倒産するような事態になっては困るのです」
だからこそ、再稼働を推進したい原子力ムラの住民たちは、ありとあらゆる手を使う。核燃料サイクル政策の見直しを行っている内閣府の原子力委員会が、推進派だけを招いて秘密会議を行っていたことなど、最たる例だろう。
だが、原発に群がる人々だけがいい思いをする状況は3・11を境に終わった。それを認めようとせず、あの事故に学ばない人々に国を任せれば、「一刻も早い再稼働」に向かうのは当然の帰結。しかも、彼らは「脱原発を言うのは、バカな国民だけで、自分たちこそが日本の将来を真剣に考えている」と思い込んでいる。
電力総連事務局長・内田厚氏の話からは、その自負が覆い隠しようもなく伝わってきた。
「あれだけの事故が起き、公平な目で見れば、原発がなくて済むならなくていいと思いますよ。危険なものを扱っているわけですから。でも、原発がないと、電気料金が2倍になる試算もある。それだけの国民負担、経済負担ができるかと言えば、日本経済がガタガタになる可能性もある。原発を使わないと、この国が成り立たないから、やむを得ず使うんです。
JALやりそな銀行を例に、電力会社はもっと身を削るべきだという声もありますが、電力はそう簡単ではない。飛行機なら赤字路線を削ればいいけれど、山間部はコストがかかるから電気を通しませんと言って通用しますか。我々はそこまで考え、原発を除外するのも一つの考え方だけれど、それでは国民生活も経済活動も破綻するから、原発を一定程度、基幹エネルギーとして持ちつづけなければならないと言っているんです。脱原発だけを言う政治家は、大衆迎合主義、ポピュリズムに乗りすぎじゃないかと感じます」
「大衆と共に」という思想から生まれたはずの労組幹部から「大衆迎合」という言葉が出ることに違和感はあるものの、内田氏の物言いは、自らの保身第一で口を噤む推進派議員たちよりはよほど率直で潔い。
どうしても再稼働が必要だと考えるなら、国民を説得するのが政治家の役割であり、説得できないのなら諦めるべきだろう。再稼働にこだわる政治家たちにとって、それはカネや自己保身の問題かもしれないが、3・11に学んだ多くの人にとって、原発再稼働は「命の問題」そのものなのだ。
「週刊現代」2012年6月16日号より
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