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'12/2/9

水島の海底トンネル事故 安全対策 十分だったか

 海底の掘削現場でいったい何があったのだろうか。

 倉敷市の水島コンビナートにあるJX日鉱日石エネルギー水島製油所で、建設中の海底トンネルに海水が流れ込む事故が起きた。

 中にいた工事下請けの作業員6人のうち1人は自力で脱出したものの、5人が逃げ遅れた。水の濁りやがれきに阻まれて捜索は難航しているようだが、何としても打開策を見いだしてほしい。

 その上で、安全対策は十分だったのか、検証が不可欠だ。

 事故は、水島港を隔てた二つの工場を結ぶ全長790メートル、直径4・5メートルの横坑の掘削中に発生した。東側から約140メートル付近まで掘り進んでいたという。

 「シールド工法」が採用されていた。筒型の機械で掘り進むと同時に、コンクリートなどのブロックを組み上げて壁にする。地下鉄や下水道の工事で数多く用いられている技術だ。

 水島海上保安部の調べでは、トンネル先端付近の海底に直径20メートルのくぼみがあることが分かった。

 ここで落盤が起きたともみられるが、事故原因ははっきりしない。元請けの大手ゼネコン、鹿島は「先端部分で何らかの異常があった可能性がある」との見方を示している。

 異常出水については「想定していなかった」という。マニュアルを含む対処法も用意していなかった。技術への過信はなかったのだろうか。

 事故当時、トンネル内の様子をカメラで監視する地上のモニター室は無人だった。異常をより早くつかめば避難や救助も一層迅速に取りかかれただろう。録画機能もなかった。何のためのモニターなのか、疑問を感じざるを得ない。

 工事前に海底地質のボーリング調査をしていなかったことも明らかになっている。約10年前、北側30メートルに別の海底トンネルを掘っていたためというが、手抜かりがあったと言われても仕方あるまい。

 海底トンネルは、二つの工場でナフサや液化石油ガス(LPG)などの石油製品を融通し合うためのパイプライン用だ。

 既存のトンネル1本では足りないため2010年8月に着工。13年の利用開始を目指していた。

 パイプは周辺の化学工場ともつなぐ計画で、国が推進するコンビナート内の企業連携の象徴的事業とされている。国際競争力の強化が目的のようだ。国内最大の原油処理能力がある製油所で起きた事故だけに、計画の遅れがもたらす余波が心配される。

 もう一つの懸念は、わが国の土木技術への評価を揺るがしかねない点だ。

 日本企業のシールド工法は、トルコのボスポラス海峡を貫くトンネル工事でも一部採用されるなど定評があるという。信頼回復のためにも、徹底した事故原因の究明は欠かせない。

 二度と痛ましい事故が起きないよう、あらゆる手だてを講じてもらいたい。




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