【動画】大阪市中央区の路上で2人刺される |
10日午後1時ごろ、大阪市中央区東心斎橋1丁目の路上で、「人が刺された」と通行人から110番通報があった。男女2人が腹や首などを複数刺され、搬送先の病院で間もなく死亡した。駆けつけた大阪府警南署員が、男性に馬乗りになって刺している男を見つけ、殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。男は2人と面識がなく、府警は無差別に通行人を狙った犯行とみて調べる。
捜査1課によると、男は自称、住所不定で無職の礒飛(いそひ)京三容疑者(36)。容疑を殺人に切り替え、12日に送検する方針。礒飛容疑者は容疑を認め、「自殺しようと思って、事件を起こす前に現場近くで包丁を買った。死にきれず、人を殺してしまえば死刑になると思って刺した」と供述している。自殺を図ったような傷はなかったという。
亡くなったのは、東京都東久留米市氷川台2丁目、イベント会社プロデューサー南野信吾さん(42)と、大阪市内の60代の女性。府警は女性の身元の確認を急いでいる。
礒飛容疑者はまず、近くのコインパーキングに車を止めた直後とみられる南野さんを路上で繰り返し刺した後、東に約40メートル走り、通りかかった女性を襲い、2回にわたって刺した。女性は自転車で現場まで来ていた。この後、倒れていた南野さんのもとに引き返したという。
目撃証言などによると、礒飛容疑者は南野さんに馬乗りになって刺した後、南署員に取り押さえられた。その際、抵抗する様子はなかったという。
捜査1課によると、10分以内の犯行だった。南野さんには首や腹、顔や手などに刺し傷や切り傷が約10カ所あった。女性にも腹やのど、背中、左手などに数カ所の傷があった。礒飛容疑者も左指などに切り傷を負っており、病院で治療を受けた後、南署に移送された。
凶器に使われたのは刃渡り約18センチの「キッチンナイフ」(包丁)で、南野さんの周辺で見つかった。現場近くの店で、約1時間前に同じ種類のキッチンナイフが購入された記録が残っていた。現場には、さやのようなものが入った紙袋が残されていたという。
衣類が入ったボストンバッグも見つかっており、礒飛容疑者のものとみられる。礒飛容疑者は「今年5月下旬に新潟刑務所を出た。その後は栃木県内にいた。昨日(9日)新大阪に来て、大阪市内の知り合いの男性宅に泊まった」などと供述しているという。
現場は、大阪市営地下鉄心斎橋駅の南東約300メートル。百貨店や飲食店などが立ち並ぶ大阪有数の繁華街ミナミの一角。日曜日の昼下がりとあって、若者や買い物客でにぎわっており、逃げ惑う人で一時騒然となった。
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現場は、大阪・ミナミと呼ばれる地域内にあり、百貨店や飲食店などが立ち並ぶ大阪市有数の繁華街「心斎橋」の一角。休日の昼下がりとあって、事件発生時は、若者や買い物客らでにぎわっていた。
現場近くを歩いていた男性会社員は、男が被害者の男性に馬乗りになり、何かにとりつかれたかのように、包丁を振り下ろす様子を目撃した。「胸や脇腹などを、何度も刺していたと思う」。男はその後、事情を知らずに自転車で通りかかった女性を刺した。
現場近くの大丸心斎橋店の50代の男性社員によると、午後1時過ぎごろ、店の警備員が「ギャー」という女性の叫び声を聞いたという。男性社員が現場付近に行くと、歩道に頭を西側にして男性が倒れていて、腹部に刃物が刺さっていた。上半身はすでに血で真っ赤に染まり、2、3人の警察官が男性を見守るように立ち、通行人が近寄らないようにしていたという。
男性店員は取材に対して、「先日も、脱法ハーブを吸った男が通行人をはねる事件が起こったばかり。物騒な心斎橋になってしまった」と嘆いた。
現場近くの飲食店の男性店員は「男性が仰向けに倒れ、路上は血だらけだった」と語った。別の飲食店で食事をしていた20代の女性会社員は、病院へ搬送される容疑者を見た。「警官10人ほどに取り囲まれ、パトカーから救急車に移された。あんな事件の後なのに落ち着いていて、少し薄笑いを浮かべていました」
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亡くなった南野信吾さん(42)は大阪市生野区出身。勤め先のゲームソフト会社「デジターボ」(東京都台東区)によると、同社が立ち上げた音楽レーベルのプロデューサーを務め、所属するミュージシャンのライブのため大阪に来ていた。
親類や知人らによると、南野さんは高校を卒業後、ミュージシャンを志して上京。その後、音楽プロデューサーをしていたという。
実家の向かいに住む無職女性(59)は「頼りになるお兄ちゃんという感じ。小学生の頃はよく息子2人が遊んでもらった」と振り返った。「高校生の頃にバンドを組んでいたのは聞いていた。何年か前の正月に帰省した時、『お久しぶり』とあいさつをした。何で事件に巻き込まれないといけないのか」と声を詰まらせた。
別の近所の女性は「高校生のころ、すれ違うと感じよくあいさつをしてくれた。快活で男前、あか抜けた子どもだった」と惜しんだ。親類の50代の女性は「お父さんと電話で話したが、憔悴(しょうすい)しきった声だった。まだまだこれからという年齢。あまりにやりきれない」と悔しがった。
デジターボは、ホームページ上に社長名で「現地の確認を取りましたところ、弊社プロデューサー・南野信吾が事件に巻き込まれ、大変残念ながら収容先の病院にて帰らぬ人となりました。亡くなった南野信吾のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族には心よりお悔やみを申し上げます」とお悔やみを掲載した。