東電前社長“全員撤退は考えず”6月8日 20時12分
東京電力の清水前社長は、国会の原発事故調査委員会に参考人として出席し、菅前総理大臣ら当時の政権幹部が作業員全員の撤退を打診されたという認識を示していることについて、全員の撤退は考えていなかったと強調する一方で、みずからの意図が正確に伝わっていなかった可能性もあるという認識を示しました。
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、菅前総理大臣や官房長官を務めていた枝野経済産業大臣ら当時の政権幹部は、東京電力から「作業員全員の撤退を打診された」という認識を示していますが、東京電力側は打診していないと主張しており、双方の言い分が食い違っています。
これについて、東京電力の清水前社長は、国会の原発事故調査委員会に参考人として出席し、「大変厳しい状況がこのまま続くとすれば、全員ではなく、一部を残して退避は検討する必要があるという認識はあった。事務系の人間や女子社員も含め現場に700人程度いたと思うが、緊急作業に携わらない人間は、一時的にせよ福島第二原発への退避を考え、そういう認識で進めていた」と述べ、全員の撤退は考えていなかったと強調しました。
そのうえで清水前社長は、「『全員』とか、『撤退』ということばは使っていない。一部の人間を残しながら作業を進めるという大前提で申し上げているので、受け手の側がどう受け止めるか推し量るのは難しい。切迫した中でのやり取りなので、ことばのやり取りにずれがあったのかもしれない」と述べ、みずからの意図が正確に伝わっていなかった可能性もあるという認識を示しました。
また清水前社長は、政府側に一部の作業員を残すと明確に伝えたのかと質問されたのに対し、「『一部』と言ったかどうかは、あいまいさが残る。一部を残してという共通認識の下で進めてきて、その趣旨で伝えた。こういう行き違いがあったことは、本意ではなかった」と述べました。
さらに清水前社長は、事故直後に菅前総理大臣が東京電力の本店を訪れた際の発言について、「一つは『撤退すれば、東京電力は100%つぶれる』と。もう一つは『60歳以上の幹部は現地に行って死んでもいいんだ』と言われた。大変、厳しい口調で、現場で死力を尽くしている人たちは打ちのめされるような印象を持つんじゃないかと感じた」と述べました。
“撤退”巡り食い違う証言
福島第一原発2号機の状態が深刻化した去年3月14日夜に東京電力の当時の清水社長が総理官邸に撤退とも受け取れる打診を行ったことを巡っては、関係者の証言が食い違い今も真相は分かっていません。
政府の事故調査・検証委員会の中間報告
このうち政府の事故調査・検証委員会の中間報告では、東京電力の中に福島第一原発から全員を撤退させることを考えた者は確認できなかったとしています。
中間報告では、去年3月14日夜に福島第一原発の当時の吉田昌郎所長が、「必要な人員だけを残し、そのほかの人は退避させたい」と本店の対策本部に相談し、本店も了承したということです。
これを受けて当時の清水正孝社長が、当時の寺坂原子力安全・保安院長らに電話し、「今後、事態が厳しくなる場合には、退避もありうると考えている」と報告しましたが、このとき清水社長は、必要な人員を残すことを当然の前提と考え、そのことを明言しなかったとしています。
しかし、清水社長から電話を受けた関係閣僚は東京電力が全員撤退することを危惧し、「全員撤退は認められない」という意見で一致し、当時の菅総理大臣に報告したとしています。
このため菅前総理大臣が清水社長を呼び、「東京電力は撤退するつもりなのか」と尋ねたところ、清水社長は「そんなことは考えていません」と否定し、これを受けて菅前総理大臣は、迅速な情報共有を図るために政府と東京電力が一体となった対策本部が必要だとして、15日早朝に東京電力を訪れ、事故対策統合本部の立ち上げを宣言したとしています。
民間の事故調査委員会の報告書
一方、民間の事故調査委員会の報告書によりますと、清水社長と直接電話で話した当時の海江田経済産業大臣、枝野官房長官、細野総理大臣補佐官のいずれもが全面撤退と受け止めたとしています。
そのうえで菅前総理大臣が清水社長を官邸に呼びつけ、撤退はさせないと伝え、結果的に、この撤退拒否が東京電力に強い覚悟を迫り、東京電力での事故対策統合本部設立の契機になったと結論づけています。
参考人質疑で
この問題を巡って、先月17日に国会の原発事故調査委員会の参考人質疑で、海江田元経済産業大臣は、「東京電力の清水社長からの電話で覚えているのは、『第一発電所から第二発電所に退避』ということばがあった。『一部を』という話は一切なかったと記憶している。頭のなかで『全員が』という認識をした」と述べています。
また枝野氏も、先月27日の参考人質疑で、「清水社長との正確なことばのやりとりまでは覚えていないが、『そんなことをしたら、コントロールできなくなり、どんどん事態が悪化する』と私が指摘したのに対し、清水社長は、口ごもった答えだったので、部分的に残すという趣旨でなかったのは明確だ」と述べました。
さらに菅前総理大臣は先月28日の参考人質疑で、「海江田経済産業大臣から、『東電から撤退したいという話が来ている。どうしようか』と、撤退の話を聞いた。そういうことばを聞いて、『とんでもないことだ』と思った。東京電力の清水社長に、『撤退はない』と言ったことに対し、清水社長は『はい、分かりました』と答えた」と述べ、打診はあったという認識を示しています。
一方、東京電力は福島第一原発から全員を撤退させようとしたことはないと主張していて、先月14日に参考人質疑に応じた東京電力の勝俣会長も全員を撤退させようとしたことはなかったと述べています。
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