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科学無視の「トランス脂肪酸批判」に思わぬ弊害(2)

WEDGE 6月5日(火)14時10分配信

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科学無視の「トランス脂肪酸批判」に思わぬ弊害(2)

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科学無視の「トランス脂肪酸批判」に思わぬ弊害(2)
トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の平均含有量(g/100g)トランス脂肪酸の低減幅が大きい代わりに、飽和脂肪酸が大きく増加している。

■飽和脂肪酸の増加が目立つ

 食品安全委員会が03〜07年度国民栄養・健康調査のデータなどを基に推定した結果では、日本人のトランス脂肪酸摂取量の平均値は、男性で総エネルギー摂取量の0.30%、女性で0.33%。WHOの目標値である1%を大きく下回っています。また、95パーセンタイル値(トランス脂肪酸の摂取量を多い人から少ない人まで順に並べた時に多い方から上位5%の位置にある人の数値)は男性で0.70%、女性で0.75%。そのため、食品安全委員会は「日本人の大多数が WHO の勧告(目標)基準であるエネルギー 比 1%未満であり、また、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる」と結論づけています。

 これなら安心。ところが、その影で、トランス脂肪酸ではなく飽和脂肪酸の問題が浮上していることがわかってきたのです。飽和脂肪酸の摂り過ぎも、冠動脈疾患のリスク増加につながるとされています。そして、トランス脂肪酸の低減努力が逆に、飽和脂肪酸の摂取量増加につながっている恐れが示されたのです。

■「リスクトレードオフ」が現実に

 食品安全委員会はマーガリンやショートニングなど個別の市販食品に含まれるトランス脂肪酸と飽和脂肪酸の量を2006年度と10年度、調査しました。トランス脂肪酸の含有量は、一般用も業務用も大きく低減されています。しかし、その代わりに飽和脂肪酸の含有量が急増していることが明白です。

 トランス脂肪酸を減らそうとメーカーが原料を変えたり製法を変更したりすると、飽和脂肪酸の含有量が増えるという「トレードオフ」が起きるのではないか、という懸念は以前から、指摘されてきました。それが、実際に起きているようです。

 製品のデータ推移から考えて、トランス脂肪酸の摂取量は、先ほど説明した03〜07年度国民栄養・健康調査などを基にした数値よりもさらに、減少している可能性が高いでしょう。

 一方、食品安全委員会が、同じ調査などを基に推定した飽和脂肪酸の摂取量は、女性の中央値が20〜29 歳で総エネルギー摂取量の7.4%、30〜39 歳で7.3%でした。飽和脂肪酸は、「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」で目標量が設定されており、 18 歳以上でエネルギー比 4.5〜7.0%となっています。女性の20〜39歳の半数以上が目標量の上限値を上回っています。

 製品調査で、06年度に比べて10年度の製品で飽和脂肪酸が急増している、という結果を考え合わせると、飽和脂肪酸の実際の摂取量はこの数年でさらに、増加している可能性があります。さて、日本人の飽和脂肪酸摂取量は現在、どの程度の高さでしょうか?

■バランスのよい食生活が重要

 企業は、食品安全委員会の出したリスク評価書におおいに戸惑いました。しかし、多くの企業が、トランス脂肪酸を低減し、多くても少なくてもよくない飽和脂肪酸については適切な含有量になるように、改善努力を続けています。

 特定のものだけを火祭りに上げる市民団体や政治家の手法では、食の安全、健康は守れないことを、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の例は示しています。それに、「海外では規制されているのに、日本は野放し」という聞き慣れたフレーズの危うさも、明らかにされました。

 でも、同じような論法がそこかしこにあると思いませんか? 政治家の中には未だに、トランス脂肪酸の表示義務化にご執心の人もいます。単純な話にはワナがある。そんな警戒感は、常に持ち続けるべきでしょう。

 もう一つ。食生活が乱れ、油ものたっぷり、お菓子パクパク、という生活を送っていたら、トランス脂肪酸も飽和脂肪酸も、摂取量が跳ね上がります。冠動脈疾患もですが、肥満による生活習慣病、がんリスクの上昇なども招きます。

 トランス脂肪酸を注意する前に、適切な量を食べ、栄養バランスに気を配るのが先決。食生活全体に関心を持ち適度においしく食べて、健康な毎日を!


著者:松永和紀(科学ジャーナリスト)

最終更新:6月5日(火)14時10分

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