「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

138万4122発の地雷

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2012年6月8日(金)

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 今週はAKB48の総選挙について書く。

 最初に白状しておくが、私は、彼女たちについて、ほとんどまったく系統だった知識を持っていない。細かい情報や名前を別にしても、AKBとその周辺で起こっているあれこれについて、うまく整理することができずにいる。有り体に言えば、ごく普通の50代の男が持っていそうな、典型的な感想を抱いているに過ぎない。

 つまり、
「なんだありゃ?」
 という感じだ。

 その、十分に把握できていない対象をネタに、プロの原稿書きが署名入りの記事を書くことは、普通に考えて、愚の骨頂だ。おそらく、無知よりももっとひどいものを曝すことになる。偏見とか、感覚の古さとか、自らの恥だとかを。

 とはいえ、今回に限っては、自分がわからずにいることも含めて、とりあえず、私の目にAKB48現象がどんなふうに映っているのかということを書かないと、話が先に進まないと考えている。

 理由は、このまま放置すると、やがて、この物件(AKBのことだが)が、「治外法権」を獲得してしまう気がしているからだ。

 いや、市井のオタクにとってAKBがタブーになるような事態は、まず生じない。
 この問題の微妙さは、彼女たちが、むしろメディアの人間たちにとってアンタッチャブルな存在に変貌しているところにある。

 現状でも、たとえば、ジャニーズ事務所や吉本興業に関しては、自由にものが言えない空気があると言われている。

 テレビ情報誌や女性誌のスタッフにとっては、たぶんその通りだろう。彼らにとって、ジャニーズ&吉本は、皇室のやんごとなさと暴力団の手に負えなさを合併したみたいな相手で、しかも同時に、お得意様でステイクホルダーで同じ穴のムジナで命綱だったりする。到底逆らうことなんかできない。

 私のような者でも、その種の媒体でジャニーズタレントや吉本芸人について書く時には、かなり面倒くさい配慮を強いられる。

 とはいえ、ちょっと角度を変えれば、言って言えない言葉があるわけでもないし、担当者が一人相撲をやめれば、たいていのタブーは吹き飛ばすことができる。

 相手がAKBの場合、話はもうすこし厄介になる。
 彼女たちは、単独のプロダクションに所属するタレントではなくて、複数の有力芸能事務所を網羅した、一大タレント派閥みたいな存在になりおおせているからだ

 これまでは、いかに強大な力を持った事務所があったとしても、業界内のタッグ・オブ・ウォー(←「綱引き」ね)を通じて、その力は減衰され、分散されていた。別の言い方をするなら、業界内権力は、互いに牽制し合うことで、一極独裁の恐怖政治に陥るリスクを回避していたわけだ。

 ところが、AKBのタレント養成システムは、このチェック・アンド・バランス機構をあらかじめバイパスしている。
 有力プロダクションが手を組む総主流体制。あるいは、大政翼賛会もかくやの業界総動員全天あまねくクラウドである。
 
 てなわけで、AKBは、現状でも、すでにある程度アンタッチャブルだ。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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