社説

東日本大震災 雇用指標改善/復興の実感が伴ってこそ

 宮城の有効求人倍率が4月、1.04倍と4年11カ月ぶりに1倍を超えた。
 都道府県別では東京と並び、5位の高水準。新規求人倍率に限れば1.98倍と全国最高だ。
 建設業など東日本大震災の復旧・復興需要が寄与している。被災地ではたくさんの工事関係者が復旧作業を続ける。大型トラックや作業員の移動用ワゴン車には、かなり遠方のナンバープレートも見て取れる。
 地域別では仙台の1.08倍に対し県北沿岸部の石巻が0.77倍、気仙沼は0.60倍。沿岸部も震災前の水準を超えてはいるが、まだまだ格差は残る。
 復旧・復興関連の旺盛な求人は短期的だが賃金が高く、生活再建を目指す人々の力になっていることは確かだ。雇用なくして生活の安定は図れない。
 だが、現状を詳細に見ていくと、たちまち被災地が抱える雇用のミスマッチに行き当たる。
 大手食品加工業者は宮城県南三陸町の津波被災地区にいち早く工場増設したが、数十人規模の求人が埋まらない。町内で新規求人に乗り出した地元加工業も、反応は芳しくない。
 長期かつ安定的な働く場として地元の期待を集めていたはずの水産関連産業が、思わぬ苦戦に直面しているのだ。
 苦戦の理由として、南三陸町幹部は「復旧関連の賃金が高いだけでなく、地域や個人の将来像が見えないため、被災者が長期就労に踏み切れないでいる」と、雇用と復興のバランスの悪さを指摘する。
 移転に伴う住宅建設費の負担に耐えられるか。いずれ移転するなら、都市部に移った方が仕事に恵まれるのではないか。せっかく長期雇用の機会を前にしても、そんな悩みや迷いが被災者に二の足を踏ませている。
 自治体にしても、バランスの悪さは悩ましい。
 被災者の長期生活設計が定まらなければ、集団移転や災害公営住宅などの大型施策は動きだせない。施策が遅れれば、被災者をさらに迷わせることになりかねない。悪循環だ。
 南三陸町が1月に行った意向調査では、旧市街地の15%に当たる世帯が町外移転を望むと回答した。
 会社勤めなど地域との結び付きが比較的弱い生業の世帯が、都市部に新天地を求める。そうした選択を「残念だが、いかんともしがたい」(町幹部)と受け止めなければならないのは、行政にとってつらいことだ。
 「雇用が確保されなければ、生活が安定しない」のは確かだが、被災地では「生活基盤が確立されなければ、長期的、安定的就労もままならない」というのも実情だ。
 復旧・復興関連雇用は、地元企業の長期雇用に移行するまでの間、被災者の新たな一歩を後押しする役割が期待されるが、あくまで期間限定だ。
 行政には、詳細な情報提供を続けるとともに、被災者が不安を解消できるよう個々人の意向に丁寧に耳を傾け、寄り添っていってもらいたい。

2012年06月09日土曜日

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