今村峯雄を代表とする研究チームがこのたび発表した、弥生時代の炭素14年代に関する研究成果をまとめると次のようになる。
九州北部の弥生早・前期の土器である、夜臼?式と板付?式の煮炊き用土器に付着していた煮焦げやふきこぼれなどの炭化物を、AMSによる炭素14年代測定法によって計測し、得られた炭素14年代を年輪年代法にもとづいた国際標準のデータベース(暦年較正曲線)を使って暦年代に転換したところ、11点の試料のうち10点が前900〜750年に集中する結果を得た。
このことは本格的な水田稲作の始まりが、これまでより500年近くさかのぼることを意味している。しかも私たちは、本格的な水田稲作が始まった時代を弥生時代と考える立場なので、弥生時代も500年近くさかのぼることになるのである。それでは調査の内容、結果、考古学的な推測、研究の意義の順に述べていく。
夜臼?式から板付?c式の土器が出土した九州北部の4遺跡13点、韓国・慶尚南道の早・前期無文土器が出土した3遺跡5点の資料を対象とした。試料は土器付着炭化物、木炭、炭化米、水田の水路に打ち込まれた木杭である。
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| 福岡市雀居遺跡の土器 | 炭素14年代を測定した遺跡 |
佐賀県梅白遺跡や福岡市橋本一丁田遺跡の夜臼?式は、前900〜750年の間に95%の確率で、また福岡市雀居遺跡の板付?式は前800年頃に95%の確率で絞り込むことができた。
得られた暦年代は従来の年代観よりも500年近く古いものだったので、三つの点から検証した。まず韓国南部、東北、および九州北部の土器編年と照合したところ、逆転や併行関係の乱れがみられないこと。次に近畿の弥生前期や中期末の年輪年代との間で整合性がとれていること。最後に後期初頭に併行する後漢初めの紀年銘をもつ試料の年代とAMS較正年代が一致することである。以上の結果、私たちは今回の年代が精確であると判断した。
弥生最古の夜臼?式はまだ測っていないが、夜臼?式よりも古いので、今のところ前10世紀のどこかに収まると考えている。すなわち弥生時代が前10世紀までさかのぼる根拠である。
日本考古学は世界に冠たる土器編年が確立しているからこそ、型式ごとの暦年代をAMS較正年代によって算出することは意味がある。これによって土器編年に科学的な裏付けが与えられると共に、各型式の精確な存続幅を確定できれば、集落論や墓地論を中心とする新たな弥生社会論が可能となるのである。
鉄器を初めとして、年代が上がることによって大きく広がった土器一型式の存続幅が、これまでの解釈に引き起こすさまざまな矛盾に対して、批判や疑問が寄せられている。一方、これまでより説明しやすくなった部分があることも事実である。研究グループでは、より精確なAMS年代網を作ることによって、これらの問題を考える基礎データを整備したいと考えている。
現在与えられている炭素14年代による弥生時代の開始年代に関して考えられることを考古学の立場からコメントしておきたい。
北部九州で水田稲作を本格的に始めた時期を弥生時代早期(略して弥生早期)と呼び、夜臼?式、?a式と細別する。そのあと、弥生時代前期(弥生前期)がつづく。この時期を夜臼?b式・板付?式、板付?a、板付?b、板付?c式と細別する。炭素年代の較正値では、縄文晩期の始まりは前1200年前頃、弥生中期末の一点が前50年頃であることが、これまでわかっていた。
これまでの較正値では、夜臼?a式は橋本一丁田、梅白、雀居の3遺跡9点のうち1点(梅白4)だけがかけはなれて古いほかは、8点とも前820年頃を中心に前9〜前8世紀に収まり較正値は安定している。板付?式は雀居遺跡の2点が前800〜前770年ころを示している。
これによると、夜臼?a式が前9世紀末頃、夜臼?b式・板付?式が前8世紀初め頃となっている。夜臼?a式に先行する夜臼?式は前10世紀頃までさかのぼる可能性がある。すなわち、北部九州の弥生早期は少なくとも前9世紀、弥生前期は前8世紀までさかのぼる可能性がつよくなってきた。
夜臼式〜板付?式の年代をこれまでは前5〜4世紀頃と推定してきたから、今回の結果との懸隔はきわめて大きい。弥生時代が始まるころの東アジア情勢について、従来は戦国時代のことと想定してきたけれども、殷(商)の滅亡、西周の成立のころのことであったと、認識を根本的に改めなければならなくなる。弥生前期の始まりも、西周の滅亡、春秋の初めの頃のことになるから、これまた大幅な変更を余儀なくされる。
板付?式から板付?c式は前800〜前400年の間にほぼ収まっており、弥生前期は400年間にわたっている。従来、弥生前期の時間幅はこれまで約150〜200年間と見積もってきたから、炭素年代を較正した結果によれば、その時間幅は非常に長い。その間の人口増加、社会発展についてはきわめて長期的な年代幅のなかで再考しなければならなくなる。弥生前期と弥生中期の境界がいつになるかを判断できる炭素年代の材料はまだ少ない。仮に前400年頃にあるとすれば、これまた従来の考えとはまったくちがって、中国では戦国時代のこととなる。朝鮮半島から流入する青銅器について、これまでの説明とは違ってくるだろう。
炭素年代によって得られた弥生前期の年代は、年輪年代とは整合的である。なお、中国では西周代の炭素14年代の測定をすすめているが、文献記録・年輪年代と矛盾が生じていない点は、この方法が妥当であることを証明しているといえるだろう。
今回の測定結果に反対の立場をとる研究者は、弥生早期〜中期の鉄器の存在や普及が中国よりもはるかにさかのぼることを問題にしている。しかし、弥生早・前期の鉄器は出土状況が良好といえないものが少なくない。現状では鉄器の問題は、それ自体の研究を進めるべきであって、炭素年代の否定のために利用すべきでないと考える。
・ 炭素14年代の較正にもとづく弥生時代の実年代 (別表参照)
| 遺跡名 | 所在地 | 時期 | 試料 |
| 松竹里遺跡 | 慶尚北道金陵 | 突帯文土器・早期無文土器 | 木炭2 |
| 漁隠遺跡1地区 | 慶尚南道大坪里 | 突帯文土器・早期無文土器 | 炭化米1、木炭1 |
| 慶尚南道 | 松菊里式土器・中期無文土器 | 炭化物1 | |
| 吉田遺跡 | 長崎県対馬峰町 | 南福寺式土器・縄文中期末〜後期初頭 | 木炭1 |
| 上野原遺跡 | 鹿児島県国分市 | 黒川式・縄文晩期 | 炭化物1 |
| 梅白遺跡 | 佐賀県唐津市 | 夜臼?式・弥生早期後半 | 炭化物2、木杭2 |
| 橋本一丁田遺跡 | 福岡市西区 | 夜臼?式・弥生早期後半 | 炭化物4 |
| 雀居遺跡第12次 | 福岡市博多区 | 夜臼?b式〜板付?c式・弥生前期初頭〜末 | 炭化物4 |
| 礫石遺跡A地点 | 佐賀県大和町 | 夜臼?b式〜板付?a式 | 炭化物1 |
| 吉野ヶ里遺跡田手地区 | 佐賀県神埼郡 | 須玖1式・中期前半 | 炭化米1 |
| 葛川遺跡 | 福岡県苅田町 | 板付?a式・前期中頃 | ドングリ1 |
| 下稗田遺跡 | 福岡県行橋市 | 須玖?式・中期前半 | 炭化米1 |
| 貫川遺跡 | 北九州市小倉南区 | 貫川?〜黒川式・縄文後期〜晩期 | 炭化物4 |
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採取した試料の量は、数十から数百ミリグラムである。加速器質量分析計(AMS)を用いることで、これほど少量の試料の年代測定が可能になった。
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写真1: 土器に付着した炭化物をかき落とす。
土中に埋没していた試料には、周囲から様々な物質が混入している。土中から取り上げられた後でも、梱包材の繊維や保存処理に伴う樹脂などが付着する恐れがある。このような汚染物質を取り除き、目的とする試料の炭素だけを抽出するために、次のような洗浄を行った。
採取した試料を、純水を用いて超音波で洗浄し、付着した汚染物質を取り除いた。次いで有機溶媒(アセトン)を用いて樹脂などを溶かし出した。再び純水で十分に洗い、完全に乾燥させてアセトンを除いた。
続いて、試料に染み込んだ汚染物質を取り除くために酸・アルカリ・酸(AAA:Acid-Alkali-Acid)処理を行った。これは、年代測定試料を化学的に洗浄するために広く用いられている方法である。
まず、塩酸水溶液のなかで試料を加温し、溶液を交換しながらこれを数回繰り返した。この操作により、土中にあった炭酸塩などに由来する炭素が除かれる。
次に、溶液を水酸化ナトリウム水溶液に変えて試料を加温した。試料には、土中に存在するフミン酸などの有機酸が染み込んでいるが、この操作でアルカリ溶液に溶け出す。アルカリ溶液には炭化物の一部も溶け出すことがあり、溶液を交換しながら注意深く加温を繰り返した。
続いて、試料に残留する水酸化ナトリウム、およびアルカリ溶液が吸収した大気中の二酸化炭素を除くために、塩酸水溶液を再び用い、溶液を交換しながら試料を加温した。最後に、処理の済んだ試料は純水で十分に洗浄し、残留する塩酸を除いて乾燥させた。
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| 写真2: AAA処理による炭化物の洗浄。 |
試料に含まれる炭素を抽出するためには、完全に燃焼させて二酸化炭素に変え、それを精製する方法がとられる。洗浄の済んだ試料数ミリから十数ミリグラムを、酸化銅とともに耐熱ガラス管に入れた。これを真空にして封じ切り、電気炉で加熱して試料を完全に燃焼させた。
燃焼すると、試料からは二酸化炭素以外に水や窒素などが生成する。二酸化炭素だけを取り出すために、真空装置を用い、各々の沸点温度の違いを利用した精製を行った。
燃焼の済んだガラス管を真空装置につなぎ、管内の気体を液体窒素温度のトラップに捕集した。このトラップの温度を-100℃付近に調節することで、二酸化炭素(気体)と水(固体)を分離することができる。精製された二酸化炭素は保管のためにガラス管に封じ、あるいは水素と反応させてグラファイト(黒鉛)粉末に変えた。グラファイトは試料に含まれる炭素そのものであり、これに含まれる炭素14をAMSで測定して、試料の年代を求める。
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| 写真3: 炭素を抽出する真空装置。 |
今回測定を依頼したのは、アメリカのベータアナリティック社と、日本の(株)加速器分析研究所である。ベータ社には洗浄済みの試料、または精製してガラス管に封じた二酸化炭素を送付して測定を依頼した。ベータ社ではこれらをAMSで測定できるようにグラファイトに変え、測定機関に分析を依頼している。他方、(株)加速器分析研究所には国立歴史民俗博物館で調製したグラファイトを成形して送付した。いずれの機関も、炭素14濃度の判明している標準試料と炭素14を含まないブランク試料を用いて測定値のチェックを行っている。
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| 写真4: 加速器質量分析計 ((株)加速器分析研究所提供)。 |
自然界の炭素は、性質が同じで重さが異なる炭素12、炭素13、炭素14という3種類の原子(同位体)が混ざり合っている。大気や現在成育している生物には、放射性の炭素14がごく微量(炭素原子1兆個につき1個程度)含まれている。生物が死亡して大気との炭素のやり取りがなくなると、その体内で炭素14は一定の割合(半減期5730年)で減少していく。
この性質を利用し、生物起源の遺物やその炭化物の中に残っている炭素14の濃度から、その生物が死んで何年経過したか(何年前の資料か)を算出するのが、炭素14年代測定法である。
過去から現在に至るまで、大気中の炭素の炭素14濃度が一定であると仮定して算出されたのが「炭素14年代」である。しかし実際は、地球磁場や太陽の黒点活動などの影響から、時期によって炭素14濃度は変動していたことが分かっている。そのため、「炭素14年代」から実際の年代(「暦年代」)を求めるためには補正が必要である。
近年、木の年輪(1年ごとに年代が確定できる)を測定することによって、過去の炭素14濃度の変動を調べ、暦年較正データベースとして整備する作業が国際的に進み、炭素14年代を正確に暦年代に変換できるようになった。
加速器で炭素原子をイオン化して加速し、微量の炭素14原子を直接一つ一つ数えることによって濃度を測定する方法をAMS法(加速器質量分析法:Accelerator Mass Spectrometry)という。この方法で、現在は、1ミリグラム以下の炭素試料を0.3-0.5%の精度で測定できるようになった。試料がわずかですむため、貴重な文化財を壊さずに測定できるほか、従来法(「ベータ線計測法」、炭素1グラム以上が必要)と比較して、対象となる試料の種類が大幅に広がった。この方法は1977年に提案され、その後の改良によって高精度化が進み、現在はAMS法が主流となっている。
AMS法と暦年較正データベースの整備により、1990年代中頃から高精度年代研究の環境が整ってきた。
炭素14年代測定では、ある決まった時期における炭素14濃度が、世界中どの地域でも均一な系を炭素源とするような生物を、対象として想定しているが、大気はそのような系として理想的といえる。大気中の炭酸ガスを供給源とする木材、植物の種子、漆などやそれらを利用した製品、それらを常食とする動物等の骨の遺物、ならびにその炭化物は年代測定に適した資料である。
ただし、考古遺物を対象とする際には、試料の適格性について考慮しなければならない。例えば、目的とする遺物で年代測定ができず、共伴する遺物で測定した場合、その同時性は必ずしも保証されない。その点、コゲやススは土器編年と使用年代の関係を調べるのに格好の試料である。
年代測定の結果は、試料の炭素14濃度(炭素12に対する炭素14の量)から計算された「炭素14年代(単位14CBP)」で報告される。この値は、(1)過去の大気の炭素14濃度が一定だったという前提で、(2)炭素14の半減期を5,568年として計算した年代を、(3)西暦1950年の大気の値を基準にさかのぼった年数に相当する。
ところが、大気の炭素14濃度は過去において厳密には一定ではなく(1)、最も確からしいとされる炭素14の半減期は5,730±40年である(2)。したがって、単純に西暦1950年から炭素14年代を引いても、実際の暦上の年代(較正年代)にはならない(3)。
炭素14年代を較正年代に修正するためには、測定結果を年代の分かっている試料の値と照合しなければならない。
樹木の成長に伴って1年に1層ずつ刻まれる年輪には、生育した年々の大気中の二酸化炭素が固定されている。年輪の生育年代を年輪年代法で決定し、炭素14年代を測定したデータを集成する。国際学会が中心となって作成された較正曲線の1998年版(INTCAL98)には、過去11,800年分の樹木年輪などの測定結果が掲載されていて、高い精度の較正年代が求められるようになった。
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図1:較正曲線INTCAL98(赤線)。 過去の大気の炭素14濃度が一定 という前提(斜線)から外れている ことが分かる。 |
炭素14年代には、測定に伴う誤差が付けられている。較正曲線のデータにも誤差が付いているので、両者の重なりをベイズ統計に基づいて処理すると、較正年代が確率密度分布として与えられる。その形は過去の炭素14濃度の変動を反映して複雑なものになる。較正年代はこの範囲の中に95%の確率で収まり、より高いピークに該当する年代を示す確率がより高い。
較正曲線が整備される以前のデータなど、炭素14年代で報告されている年代を暦上の年代と混同すると、結果が見かけ上新しくなってしまうので注意が必要である。
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図2:炭素14年代を較正年代に修正する。 |
・ 図3:縄文後期から弥生中期にかけての試料,および青銅器時代(韓国)の試料の年代
・ 雀居遺跡(福岡)出土土器に付着した炭化物の年代
| 試料 土器形式 測定機関番号 |
炭素14年代 (14C BP) |
較正年代(確率) (cal BC) |
| 土器付着炭化物a 板付IIc Beta-172133 |
2510±40 | 790 - 510 ( 90.8% ) 480 - 480 ( 0.5% ) 460 - 440 ( 1.7% ) 440 - 420 ( 1.6% ) 420 - 410 ( 1.1% ) |
| 土器付着炭化物b 板付I Beta-172134 |
2620±40 | 890 - 870 ( 3.1% ) 860 - 840 ( 1.0% ) 840 - 750 ( 87.7% ) 680 - 660 ( 2.5% ) 600 - 590 ( 1.2% ) |
| 土器付着炭化物c 板付I Beta-172135 |
2590±40 | 830 - 750 ( 69.3% ) 680 - 650 ( 8.5% ) 640 - 580 ( 11.3%) 580 - 540 ( 6.5% ) |
| 土器付着炭化物d 夜臼IIb Beta-172132 |
2560±40 | 810 - 750 ( 40.3% ) 720 - 530 ( 54.4% ) 520 - 520 ( 0.5% ) |
グラフ中の赤線は土器付着炭化物、黒線はそれ以外の試料を表す。
年代に関する報告書の刊行された雀居遺跡(福岡)についての結果を表に示す。
注)通常、炭化物の炭素含有量は60%を超えるが、G遺跡(佐賀)土器付着炭化物aの炭素含有量は7%と低く、粘土や鉱物の混入による影響が考えられる。
貯蔵用の土器である壺や、煮炊き用の土器である甕などのなかで、形や文様、器面調整などの違いをもとに設定された考古学上の分類単位。時期や地域ごとにまとまりをもつ。したがって同じ型式の土器は、同時期と認めることができる。
自然界の炭素原子は炭素12、炭素13、炭素14の3つの同位体の混合物である。このうち炭素14(14C)は5730年の半減期をもつ放射性同位体で、大気や現在生育している生物には炭素14が1012個(1兆個)当たり1個ほどの割合で含まれている。なお炭素14濃度は、同位体効果とよばれる、同位体の重さに起因する効果を補正した濃度で示される。
大気中の炭素14濃度が変化しないと仮定して算出した年代を伝統的に「炭素14年代」と呼ぶ。具体的には炭素14の半減期を5568年(実際には5730年)とし、同位体効果を補正した炭素14濃度から算出した年数を、西暦1950年を起点にさかのぼって示し
たモデル年代である。単位を「BP」などで表し、誤差を1標準偏差で示す。「放射性炭素年代」「14C年代」「炭素年代」という用語も用いられる。ちなみに「炭素14年代測定法」は「炭素14」による「年代測定法」と解釈すべきである。
大気中の炭素14濃度は変化するので「炭素14年代」はあくまでも計算上の年代すなわちモデル年代というべきものである。暦年で示される年代を一般に「実年代」という表現で区別する。
「炭素14年代」を実年代に変換することを「暦年較正」、変換された年代を「暦年較正年代」、あるいは単に「較正年代」と呼ぶ。
「炭素14年代」を実年代に変換するための基礎データベース。炭素14濃度を、基準年(西暦1950年)に対する濃度比としてプロットすると、ほぼ炭素14半減期の5730年にしたがって減少するが、詳細には大気中濃度の経年変化を反映した凸凹のある曲線となる。暦年較正のための国際標準データベースとして用いられることの多いINTCAL98は、年輪年代で暦年代を値付けした欧米産木材の年輪試料を用い、約11,800年前までの測定データをまとめている。それより古い年代のデータベースには、堆積物の年縞や、珊瑚の試料を使ったデータが用いられているが、年代精度は格段に悪くなる。
加速器によってイオンを加速し、直接一個一個検出して正確にその同位体濃度を測定する方法である。炭素14測定では、現在、ミリグラム以下の炭素試料を0.3-0.5%の精度で測定することができる。放射線で測定する場合比べて千分の1の試料量での年代測定が可能である。
*この研究結果は、科学研究費補助金・基盤研究(A)(1)「縄文時代・弥生時代の高精度年代体系の構築」(2001〜2003年度、代表:今村峯雄、課題番号13308009)の成果の一部です!#