写真家「神立尚紀(こうだち・なおき)」のブログ ※禁無断転載

2011年8月最新刊『特攻の真意~大西瀧治郎 和平へのメッセージ』(文藝春秋)刊行! 2010年新著『祖父たちの零戦』(講談社)7刷好評発売中! ジャーナリズムの現場から単行本出版、大学の教壇まで、写真家(&ノンフィクション作家)の日々。


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 末期の予科練の出身で、飛行練習生で赤トンボだけの操縦経験があったY。
 Yは、本来は零戦に乗ったことがないのに、「元零戦搭乗員」を騙って、日本とアメリカ、特にハワイとの慰霊交流の窓口を事実上独占していた。


 自分の先輩には、見苦しいほどのおべっかを使い、得意の英語で煙に巻いて、勝手に米側の慰霊祭や記念行事に日本側搭乗員を連れて行く企画を立てる。あとで述べる自分の商売のため、自分自身に箔をつけるためである。


 先輩搭乗員であっても、気に入らない相手については、「零戦搭乗員会」のレターヘッドを自分の住所に偽造し、誹謗中傷の手紙を会の手紙としてアメリカの各方面に送り付ける。有印私文書偽造、同行使などの罪に問われるべきことである。

 末期のラバウルで活躍した川戸正治郎さんが気の毒に、これをやられている。しかも、藤田恰与蔵少佐や小町定飛曹長までが、身に覚えがないのに一緒に川戸さんの悪口を言っているようにアメリカで喧伝されたのだ。

 Yは、数年前に社会的問題になった「ディプロマ・ミル」すなわち、海外に本物の大学(実は非認可)があると見せかけて、金で大学の学位を売るという、偽学位商法の詐欺の商売をやっていた。

 大学名は、たとえば米国に現存する本物の大学とスペルが一つ違いというような、最初からだますつもりの確信犯であるし(米国の該当住所には大学などなかった)、偽大学の日本校と同じ連絡先だった彼の「勤務先」、理事と称していた「日米文化交流協会」は、略して皆には「日米協会」と呼んでいたが、これは行事には皇族もお出ましになる、伝統ある「日米協会」とは全く別。本物の日米協会に取材してみたが、全く無関係とのことであった。

 Yはいくつかあった偽大学の一つ、C大学の理事長で、問題が発覚すると性懲りもなく別の「PBU」なる大学名を捏ち上げ、これもまた先の偽大学と連絡先は同じで、偽大学であった。ハワイ州では裁判で一切の活動を禁じられてもいる。のちに日本でNPO法人格をとったが、なんのこっちゃ、という感じである。


 実はYが主宰する慰霊祭などのアメリカ側の受入先である元米軍人も、同じ穴のムジナである。騙された人も多かろうが、利権が目当ての人もいたと睨んでいる。

 さすがに、予備学生出身搭乗員のように、ホンモノの大学を出ている人や海軍兵学校出身者といった高等教育を受けた層、本物の大学教員が数名いるNPO法人「零戦の会」の役員はこんなチャチな手で騙されることはないし、Yも、そのことは承知の上で元予科練出身の下士官兵搭乗員に声を掛ける。
 戦後の文部省は、海兵出身者は旧制高等学校卒業相当に遇し、大学進学への道を開いたが、予科練出身者に冷たく、甲飛は旧制中学卒業相当だったものの、乙飛、丙飛は高等小学校卒業程度の学力認定しかしなかった。おかげで、予科練出身の人たちは就職にも苦労したし、人によれば抜きがたい学歴コンプレックスを持っておられた。

 やつらはそこに付け入るのだ。

 「アメリカの学位論文だけど、日本語でオッケー、100万円(もっと多い額も聞いている)出せば、あなたも学位がもらえますよ」
 と勧誘して、多くの元搭乗員を騙そうとした。

 で、そんな悪事が露見して、動かぬ証拠が揃ったので、当時の岩下会長の英断で、彼には「零戦の会」を退会してもらった。


 辞めた後も、毎年ハワイだ、ミッドウェーだと、性懲りもなく(向こうでは、Zero Fighter Pilots Associationを勝手に名乗っていた)高齢の元搭乗員を無理な旅行に誘いまくり、近年特に、疎まれていた。
 向こうへ行くと、自分が引率者だと言わんばかりに、やたら新聞の取材を受けたりシンポジウムに出ては、戦勝国アメリカのご機嫌をとるようなことばかり言う。

 現地の新聞で、先輩搭乗員をダシに使って(一人50万近い旅費の出費をさせて)、自分の宣伝をやるのである。もちろん、写真には当然のように写っている。そんな記事を得意になって翻訳してブログに載せたりするおめでたい人もいるから情けない。


 予科練の諸先輩がインターネットに疎いのを幸い、財団法人「海原会」(全予科練出身者の集い)を、自分の偽大学のHPで宣伝のタネにもしていたし、東京甲飛会の全員が反対する中、自分が運営する別のNPO法人「東京甲飛会」というのを立ち上げ、甲飛3期の前田さんを、本人には内緒で理事長に祭り上げたりもした。

 そんなことをやっていても、自分では罪の意識がみじんもない、生粋の詐欺師であった。
 昨年暮、布哇帰りに急逝されたのは気の毒だが、これで余計な懸案がなくなり、ホッとした気持ちがないといえばウソになる。



 かつて、甲飛出身者がネズミ講の「天下一家の会」を始めて、Sさんが広告塔になってやはり昔の仲間に声をかけまくり、多くの元搭乗員に大損させて、ただでさえ昔の仲間から好かれていなかったSさんがますます立場を失ったということもある。

 私たちの立場としても、やはり、詐欺とか、犯罪行為に手を染めた人まで、元搭乗員として無条件に尊敬せよ、というのは無理な話である。


 ……かつて、そんな趣旨のことを零戦の会の掲示板で書いたら、脳みそのシワが少し足りなさそうな零戦マニアが、
 「元搭乗員のなかに尊敬できない人がいるとは何事だ!」
 と、噛みついてきて、元搭乗員たちにも私を誹謗弾劾する書面を送り付けてきたことがある。
 (私が積み重ねてきた元搭乗員の皆さんとの信頼関係はそんなことぐらいでは動じないから、手紙はみんな私のもとへ回ってきた。彼のたくらみは全くの無駄ごとに終わった)


 ほかのマニアと結託して、私を誹謗してきたこともある。これは、このへんが馬鹿の馬鹿たる所以だが、このときも、手紙を受け取った元搭乗員たちが呆れて私に知らせてきたので、一応物証として、いつでも公開できるよう保管している。


 「天下一家の会」は甲飛12期、「学歴詐欺」は13期。甲飛も初期には実に立派な人を輩出し、我々の会員としては最後の15期の人にも尊敬に値する人が多いのに、これはいったい、どうしたことだろう。