少し前、BLOGOSの「議論」ページで、次のような議題が挙がっているのを見た。
自民党 日の丸損壊罪の法案提出 あなたはどう思いますか?
自民党は29日、日の丸を傷つけたり汚したりする行為を罰する国旗損壊罪を創設するための刑法改正案を衆院に提出しました。
関連資料
日本国憲法改正草案 - 自由民主党
これは、現行法が外国国旗の損壊罪を定める一方で、日の丸の損壊を処罰対象としていないことを問題視したものです。
法案では、日本を侮辱する目的で、日の丸を損壊・除去・汚損した場合は、2年以下の懲役または20万円以下の罰金を科すとしています。<
〔後略〕
党で議論されているとは聞いていたが、とうとう出したのか。
本気でやるつもりなのか。
それとも、どうせ成立しないと見込んでの、選挙対策としてのポーズなのか。
法案の本文が知りたくて、自民党のホームページを覗いたが、見当たらない。
「衆院に提出しました」とあるから、衆議院のホームページを見てみると、「
第180回国会 議案の一覧」から探すことができた。
刑法の一部を改正する法律案
刑法(明治四十年法律第四十五号)の一部を次のように改正する。
「第四章 国交に関する罪(第九十条―
目次中「第四章 国交に関する罪(第九十条―第九十四条)」を
第四章の二 国旗損壊の罪(第九十四
第九十四条)
に改める。
条の二) 」
第二編第四章の次に次の一章を加える。
第四章の二 国旗損壊の罪
第九十四条の二 日本国に対して侮辱を加える目的で、国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
附 則
この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。
理 由
日本国に対して侮辱を加える目的で、国旗を損壊し、除去し、又は汚損する行為についての処罰規定を整備する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
この法定刑は、現在の刑法で規定されている外国国章損壊罪と全く同じになっている。
(外国国章損壊等)
第九十二条 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。
議案提出者は「高市 早苗君外三名」とある。
ほか3名とは誰だろうと思って
高市の公式サイトを見てみると、
ともに提出者になって下さったのは、元法務大臣の長勢甚遠衆議院議員、前自民党法務部会長の平沢勝栄衆議院議員、現自民党法務部会長の柴山昌彦衆議院議員です。
とあった。
高市は、
産経新聞によると、この法案について以前、
「日本人が外国の国旗を焼いたり切ったりしたら、刑法92条で2年以下の懲役または20万円以下の罰金となるのに、日の丸を日本人や外国人が傷つけても(条文がなく)対象にならない。主要国の(法令の)例を見てもアンバランス」
と言っていたそうだから、そのアンバランスの解消を意図しているのだろう。
しかし、1年ほど前の拙記事「
外国国章損壊罪についての大いなる誤解」でも述べたが、わが国において在日外国公館などで掲げられた外国国旗と、官公庁や式典などで掲げられる日の丸とでは、その意味合いは大きく異なる。
例えば各国の駐日大使は、わが国において彼らの母国を代表する存在である。その大使館において掲げられる国旗は、まさに各国の権威を表すものだろう。そしてそれを損壊する行為は、各国そのものを侮辱したに等しい。
対するに、官公庁や式典などで掲げられる日の丸は、単にわが国の国旗であるというにすぎない。もちろん、国旗は国旗として尊重すべきだが、わが国の公共機関、わが国における式典であるから掲揚しているにすぎず、対外的にわが国を象徴しているものではない。
そういう意味で、わが国における日の丸と外国国旗は、もともとアンバランスなものなのである。
だからこそ、わが国においては明治時代から外国国章損壊罪が設けられ、かつ自国の国章損壊を処罰する規定は設けられなかったのだろう。
そして、これも以前の拙記事に書いたが、外国国章損壊罪で取り締まることのできるのは、在日外国公館などで公的に使用されている国旗などの国章に限られるというのが通説であり、判例もそれに沿っているという。
したがって、デモンストレーションとして、もともと損壊する目的で作った手製の外国国旗を損壊する行為などは処罰の対象にはならない。
昨年2月7日の「北方領土の日」に東京のロシア大使館近くでわが国の右翼活動家がロシア国旗を侮辱したとして、ロシア外務省が日本政府に犯人の処罰を求めたが、政府は「侮辱されたのはロシア国旗を模した手製の物体。大使館に掲揚されている国旗を侮辱したのなら罪に問われるが、そうではない」と、外国国章損壊罪に当たらないとして処罰を拒否した。
ならば、この日の丸損壊罪を創設する刑法改正が仮に成立したとしても、デモなどで手製の日の丸様の物体を損壊する行為は、やはり処罰できないことになる。
一方、高市は、上記の産経の記事には「日の丸を日本人や外国人が傷つけても(条文がなく)対象にならない」と言っていたとあるが、そりゃあ自国の国旗損壊罪の条文はないだろうが、官公庁や式典などで掲げられている日の丸はもちろん、私人が掲揚あるいは所持している日の丸であっても、勝手に損壊して罪に問われないなどということはあるはずがない。刑法261条の器物損壊罪に問われる。
しかも、この器物損壊罪の法定刑は外国国章損壊罪より重いのだ。
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
したがって、仮にこの法案が通って、日の丸損壊罪が成立してしまうと、日の丸損壊という行為に対する量刑の上限は、これまでより下がることになってしまう。
高市は、
公式サイトで
ちなみに諸外国の法制度では、むしろ自国国旗損壊に対する刑罰の方が他国国旗損壊に対する刑罰よりも重くなっています。
として、独伊韓中の例を挙げた上で、
先ずは、日本の刑法におけるアンバランスを是正することを期し、本法律案を起草しました。
と、自国の国旗損壊罪を創設することを優先すべきだから、法定刑が外国国章損壊罪と同等であってもやむを得ないかのように述べているが、現状で「自国国旗損壊に対する刑罰の方が他国国旗損壊に対する刑罰よりも重くなってい」ることを理解しているのかどうか。
いったい、何のためにこんな罪を創設する必要があるのだろうか。
高市は、
また、去る4月27日に自民党が公表しました「日本国憲法改正草案」第3条にも「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」との文言が明記されましたことから、今国会に提出することと致しました。
とも言う。
憲法にそんな条文が必要なのかどうか疑問だが、それに対応して日の丸損壊罪もまた必要であるという理屈はわかる。
そして、実際には器物損壊罪の適用で足りるにしろ、刑法に外国国章損壊罪がありながら自国のそれを欠くというアンバランス、そして諸外国とのアンバランスの解消という面もあるのだろう。
だったら、罪名を新設するにしろ、法定刑は現行の器物損壊罪と同等でよかったのではないか。
それとも、「国旗」の定義など刑法のどこにも書かれていないから、デモで手製の日の丸様の物を損壊するような場合であっても、処罰対象とすべきだと考えているのだろうか。
ネット上では、そういったケースも処罰せよという見解をしばしば見る。
私は、基本的には国旗や国歌は尊重すべきだと考えているし、政治的意図に基づいてそうした物を損壊する行為は率直に言っておぞましいと思っているので、別にそれでもかまわない。
しかし、だとすれば、外国国旗にしても同じことになる。
上記のロシアの事例でも、ロシアの要求に応じて、活動家を処罰せざるを得ないということになるだろう。
デモの日の丸損壊を取り締まれと説く人は、そうした事態にも賛成するのだろうか。
それでは、結局のところ、外国政府に対する批判自体を萎縮させてしまうことになりかねない。
やはり、従来からの解釈が無難だろう。
とすれば、日の丸についても同様に考えるべきだということになる。
ならば、創設される日の丸損壊罪の対象となるのは、公的機関や式典などで掲揚される日の丸に限られることになる。
では、私人が家庭で掲揚する日の丸を損壊した場合、創設された国旗損壊罪は適用されず、より法定刑の高い従来からの器物損壊罪が適用されることになる??
仮に法案が審議されるとすれば、そうした問題点も明らかになるのだろうか。
この法案は、以前の拙記事の時点では、自民党のシャドーキャビネットで異論が出て全会一致が得られず、政調会長(当時は石破茂)預かりとなったはずである。
今回の法案提出を伝える高市の公式サイトには、
自民党内の法律案審査(部会⇒政策会議⇒シャドウ・キャビネット⇒総務会)では、4回の会議の中で1名でも反対される議員が居られると、国会提出は了承されません。
今度こそは…との思いで、5月に入ってからは連日のように同僚議員の事務所を訪ね歩いて、内容の説明と賛同のお願いを続けてきました。
持病の関節リウマチで激痛が走る足を引き摺りながらの訪問活動は苦しいものでしたが、多くの同僚議員が笑顔で励まして下さり、茂木政調会長や塩谷総務会長も力を貸して下さり、先週金曜日の総務会で全会一致の了解を得ることが出来ました。
とある。
「平和ボケ」という言葉があるが、自民党は「野党ボケ」してきているのではないか。
それとも、所詮ポーズだからこの程度でいいとでも考えているのか。
伝統ある国民政党が、こんなことにうつつを抜かしている場合ではないように思うが。
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