Jリーグの、再開後の日程が発表された。
3月11日の東日本大震災発生によって第2節から休止されていたJリーグは、4月23日に再開。4月と5月は関東・東北の電力不足の地域では夜間試合は行わないことになった。大震災直後、被災地で救助・救命活動が行われ、被災者の皆さんが避難所で困難に直面している当座は、スポーツの活動を自粛するのは当然だった。しかし、災害発生から1ヶ月が経過して復旧の動きが始まろうとしている4月に活動を再開するというのは、正しい選択だと思う。開幕日をめぐってすったもんだしたプロ野球のセ・リーグなどに比べて、迅速に、適切な対応が取れたことはよかったと思う。
だが、今後の日程や運営について、問題は山積している。
1つの問題点は被災地のクラブのことだ。ホームスタジアムが使えず、アウェイ戦が続く鹿島アントラーズは、クラブハウスもかなりの被害を受けていると聞く。そして、施設が大きな被害に見舞われたベガルタ仙台と水戸ホーリーホックは、なんとかホーム・スタジアムは使用できるようなので、地元の復興のためにもしっかり戦ってほしい。被災地のクラブは、今シーズンは戦力的にも、経営的にも苦しいことになるだろうが、がんばってほしいものだ。
もう一つ、リーグ全体にとって大きな問題となるのが夜間試合が開催できないことだ。
今のところ、6月以降については決定がされていないが、電力事情はかなり長期間にわたって好転は期待できない。大事故を起こした東京電力の福島第一原子力発電所は、事態がなんとか収束したにしても廃炉は確実で、当面、原発の新増設が行われるとは思えない。いや、実用化されて半世紀しか経たないうちに、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島と3度も重大な事故が起きているのだ!原子力発電という技術はあまりにもリスクもコストも高くつく。そもそも民生用の発電事業に使うにはふさわしくないものとしか思えない。
いずれにしても、失われた原発に替わる火力発電所を建設するにも長い時間が必要となるわけで、電力不足は今後も長期にわたって続くことだろう。反原発の動きが強くなれば、今は電力不足とは関係のない西日本も、電力問題に直面することになる。しかも、電力需要のピークは大量の電力が冷房に使用される夏場に来るのだ。少なくとも今年の夏場には自動車産業で輪番休業が行われるというし、産業界には使用制限が課せられるという。そんな時期に、夜間試合はできるのだろうか?
もっとも、プロ野球などは平日のナイターが多く、しかもドーム球場では昼間での試合でも大量の電力を使用する。それに対してサッカーの場合は、企業が休みの週末の開催がメインであり、夜は電力需要のピークからはずれるのだから、問題はないのかもしれないが、見通しははっきりしない。春の時期に夜間試合ができないのは、「1日2試合観戦」という楽しみがなくなってしまけれど、それほど悪いことではない。だが、夏に夜間試合ができないとなったら、どうなるのだろう?ただでさえ、日本の蒸し暑い夏場はサッカーをするような環境ではない。そのことは、猛暑に見舞われた昨年の夏にさんざん経験したことである。その日本で昼にしか試合ができないとなったら、プレーレベルの大幅低下は避けられない……。
そこで、今のような電力事情が解決できないとすると、究極の解決法は「秋春制」の導入ということになる。
僕は、基本的に「秋春制」導入には反対である。日本の冬は、ヨーロッパに比べれば気温は低くはならないが、大雪に見舞われる。実際問題として、冬場に試合を行うことは不可能だ。スタンドに暖房をつけ、ピッチに温熱装置を施せば、スタジアムだけはなんとかなるだろう。だが、練習場や交通機関のことを考えれば、冬のJリーグ開催は、夏場のカタールでワールドカップを開催するのと同じくらい困難なはずだ。だが、夜間試合ができないということになったら、夏の開催も難しくなる。とすれば、春(3〜6月)と秋(9〜12月)に集中して試合をするしかないことになる。
ところで、「秋春制」といえば、これまで気候的な理由で「春秋制」だったロシアのリーグ戦が、来シーズンから「秋春制」に移行することになっている。ロシアは、冬は氷点下20度以下に下がる国だから、冬場は当然試合は行われない。秋に開幕するシーズンは、長〜いウィンターブレークをはさんで、翌年の初夏まで続くわけだ。ロシアと同じように長いウィンターブレークを置くことにすれば、日本でも「秋春制」も可能ということになる。ロシアは、シーズン制移行のために、先月はじまったばかりの新シーズンは1年半かけて2012年の春まで行われ、2012年の秋に2012/13シーズンが始まることになっている。つまり、シーズン制移行のためには、移行の直前のシーズンは変則的な日程になってしまうのだ。
それなら、東日本大震災で日程変更を余儀なくされた今年は、じつは「秋春制」移行のチャンスでもあるということになる(犬飼さんが会長だったら、当然、そういう話は出ていたことだろう)。4月に再開するJリーグ。中止された第2〜6節分を7月に開催するという(そのため、日本代表のコパ・アメリカ参加が問題になっている)。だが、いっそのこと、7月、8月のJリーグも中止して2012年の春までかかって試合を消化し、次のシーズンから「秋春制」に移行するという方法もあるのではないか。そうすれば、被災地のクラブも態勢を立て直すこともできるし、日本代表も安心してコパ・アメリカに出場できる。夏場は、北日本を会場として「復興支援」のためのカップ戦を開いてもいい。
もちろん、Jリーグはすでに2011年シーズンを再開するために動いているのだから、シーズン制移行は現実問題にはならない。だが、夜間試合開催が今後も難しいとすれば、「秋春制」への変更は考慮に入れてもいいのではないだろうか。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授