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寝取られSS 「人類繁殖法違反」1  (「最狂の寝取られとは?」スレより)



29 :23 ◆bxyzd8gFCE :03/09/28 23:03 ID:3WZegwFB

1/8)

「やあ、君か」
「ご無沙汰です」

ベッドの上で読書をしていた初老の男が「彼」の姿に気づく。
どうやら旧知の仲のようだが、親しげな笑みを浮かべる男に対して
「彼」は全くと言っていいほどの無表情だった。

「早速ですが、拝見してもよろしいですか?」
「机の上にあるのががそれだよ」
「では」

そう言って、彼はいかにもな高級机に置かれた分厚いファイルを手に取った。

「…何とかここまでこぎつけたよ」
「そうですか」

あくまで表情の無い「彼」。
男はやれやれと溜息をつき、葉巻入れから一本を取り出した。
そしてその先を慣れたナイフ捌きで一閃する。

「上手いもんだろう?昔取った何とやらさ」
「そうですか」

「彼」は無表情のまま、男からのレポートに目を通している。
どうやらその内容にしか興味がないらしい。


30 :23 ◆bxyzd8gFCE :03/09/28 23:05 ID:3WZegwFB

2/8)

「…非適合者がいるようですね」
「それだけが悩みなのだよ」
「この程度の人数なら、私どもで手を打ちます」
「頼む。で、各国首脳は?」

男のその問いに「彼」は、

「世界初の意見の一致」


――愉悦の笑み――


「…素晴らしいことです」

初めて表情らしい表情を浮かべて答えた。
…ように見えた。

(紫煙で視界が遮られていなければはっきり分かったのかもしれない)

が、男はあえてそれを確かめようとはしなかった。


どうせ全ては無意味になる。
そのことがわかっていたからだ。



31 :23 ◆bxyzd8gFCE :03/09/28 23:07 ID:3WZegwFB

(3/8)

「サキくん…おはようー…」

朝6時20分。
加藤佐紀にとって毎朝の、待ちわびていたこの時間が今日も訪れた。

「おはよう。成瀬さん。今日も眠そうだね」
「眠いよぉ…」

早朝にもかかわらずバッチリ目が覚めている佐紀に対して、
挨拶をした成瀬優菜はかなり眠たそうだった。
にもかかわらず、成瀬優菜は朝練では一番張り切っていたりするのだが。

「寝癖凄いよ」
「あ〜、いいのいいの。朝錬終わったら15分で変身するから」

そういって成瀬優菜は跳ね毛だらけの長い髪を無造作にゴムで結った。
朝錬が済むまでは成瀬優菜はこんな感じだ。
にもかかわらず、

(やっぱいいよな…)

全く魅力が損なわれないな〜、と思ってしまう加藤佐紀なのであった。


32 :23 ◆bxyzd8gFCE :03/09/28 23:24 ID:3WZegwFB

(4/8)

「ところでサキくん。今日は標準?3倍?」
「んー、今日は標準でいこうかな」
「短期集中モードなんだ」
「まぁね。朝飯食う時間欲しいしね」
「じゃ、あたしもそうしよっかな」
「一緒に食おうか」
「うん、食う食う」

加藤佐紀と成瀬優菜が所属する水泳同好会の朝錬は特にメニューが無い。
その日何をするかは会員がめいめいに練習内容を決めている。

『長続きのコツは張り切りすぎないことさ』

という水泳同好会会長、伊集院輝のモットーを各会員忠実に守っているのだ。
これも会長の人徳の成せるワザなのかもしれない。


33 :23 ◆bxyzd8gFCE :03/09/28 23:26 ID:3WZegwFB

(5/8)

「おおーい、二人ともー」

不意に二人の背後、遥か彼方から地響きが聞こえてきた。
そしてそれは瞬く間に近づいてきて…

ズザザーーーーーーッ!!

土煙を上げて急停止する鉄(くろがね)の城。
鉄人2○号(実写版)。
そんな形容がぴったりな大男が、二人に並んだ。

「お、おはようございます会長…」

恐る恐る成瀬優菜が、やってきた汗だくの巨漢に挨拶をする。
が、なぜか加藤佐紀の背後に隠れていたりした。



34 :23 ◆bxyzd8gFCE :03/09/28 23:28 ID:3WZegwFB

(6/8)

「会長… やっぱり陸上部に入ったほうがよかったんじゃないスか?」
「そう言われてもなぁ… こんなボンレスハムが陸上なんて似合わないからね」
「は、はぁ…」

この男、身長189cm、体重150kgの彼こそ、水泳同好会会長、伊集院輝である。
その豊満な体躯に似合わない俊足から様々な通り名があるのだが、
何故か彼は全く不得意な水泳の道を爆走している。
その理由は…

「ところで成瀬くん。練習の後、朝食でも一緒にどうだい?」

全く不釣合いな伊集院輝の美声。
キラッ、とデコが脂汗できらめいた。

「お、お断りしますっ」
「ははっ、冷たいな〜」

やれやれ、とばかりに伊集院輝は肩をすくめる。
その仕草は不思議な位嫌味がない。

(これで痩せていたら、完全ライバルだよな…)

などと加藤佐紀は思った。



35 :23 ◆bxyzd8gFCE :03/09/28 23:30 ID:3WZegwFB

(7/8)

「そう言えば、二人とも新聞見たかい?」

学校までの道中、伊集院輝が不意にその話題を振ってきた。

「今夜でしたっけ。 泉総理の記者会見」
「そうそれ。一体何なんだろうね?」
「辞任でもするんじゃないですか」
「…私、あまり興味ありません」

朝の三面にでかでかと載っていた、内閣総理大臣泉卓郎の記者会見。
今夜7時からの、異例の全局合同生中継らしい。

「アメリカと合併になったりしてな」
「それも面白いかもしれませんねー」
「私は嫌ですよ。そんなの」
「でも成瀬さんってハンバーガー好きじゃない」
「そうなのかい? だったら今日はモーニングセットにしようか」
「さりげなく肩に手を置かないでくださいよっ!」
「つれないね」
「ははは…」

いつもの朝の光景。
5分後には、話題はトリビアがどうたらこうたらに変わっていた。
政治とかの小難しい話に興味を示す若者などほとんどいないのが、この国の実情。


36 :23 ◆bxyzd8gFCE :03/09/28 23:33 ID:3WZegwFB

(8/8)

だがこの時は誰も知りはしないのだ。
だから彼らに罪は無い。

今夜限りでこの日常がお終い。

明日からは違う価値観。違う生活。
明日からは、彼らの無関心は罪。

今日は全人類が平等になる日。
人間として生きられる、最後の日なのだ。




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