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二次受傷とは? |
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二次受傷とは、「代理受傷」「共感性疲弊」「外傷性逆転移」と呼ばれている現象の総称であり、「外傷体験を負った人の話に耳を傾けることで生じる被害者と同様の外傷性ストレス反応」を指す。例えば、犯罪被害者をクライエントに持つ臨床家、子どもが自動車事故に巻き込まれたという知らせを受けた両親、戦争体験の取材をしているジャーナリスト、被災者の調査をしている研究者、職業上、悲惨な場面に曝される救急隊員や消防士などが二次受傷を負うと示唆されている。
二次受傷の症状としては、いわゆるPTSD症状(再体験、回避、覚醒亢進)、燃え尽き、世界観の変容などが挙げられている。つまり、被害者の語りが繰り返し頭の中で再生される;クライエントが描写した外傷体験がフラッシュバックや悪夢として体験される;夜道を歩くのが怖くなり、小さな物音に敏感になる;家族の安全を極度に心配する;配偶者や恋人と親密な関係を維持できなくなる;支援者としての適性を疑うようになる;などが含まれる。
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誰が二次受傷を負うのか? |
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二次受傷の研究は1980年代から始まり、調査は臨床家以外にも被害者と情緒的な関わりを持つ人を対象に行われてきた。ここでは、臨床家を対象にした研究結果についてのみを記す。
二次受傷をもたらす寄与要因は3つに大別することができる:1)支援者要因、2)個人要因、3)職場環境。
まず、支援者要因としては「クライエントの外傷体験の種類」、「トラウマケースに対する曝露」、「臨床訓練」および「臨床歴」などが二次受傷の程度を左右すると示唆されており、外傷ケース−中でも性暴力や虐待ケース−を多く担当し、トラウマ物語への曝露が多く、外傷に関する治療技術や知識が乏しい専門家に二次受傷症状がより生じているようである。
個人要因として特定されているのは、「過去にトラウマ体験」があり、「既存のストレスレベルが高い」「若い」「女性」の臨床家により多くの症状がみられた。
最後に、職場要因としては、「情緒的および技術的なサポート」を職場から得られていると感じている臨床家はそうでない人より二次受傷になり難いようである。逆に、外傷臨床に関する理解や共通認識がない同僚が多い場合は二次受傷に対する脆弱性を高めるようである。
研究の結果には含まれていないが、社会・文化要因も二次受傷の寄与要因として含められるべきであろう。臨床は社会や文化の文脈の中で行われるために、社会がトラウマや臨床に対して示す態度は治療関係に影響をもたらす。例えば、メディアが被害者をどのように扱うかは彼らの予後に良くも悪くも影響をもたらす。また、臨床家の社会的地位にも大きく関わる。
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予防と対策 |
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二次受傷は、起こるか起こらないかではなく、いつ起こるかの問題である。つまり、外傷ケースを扱う臨床家にとっては避けられない課題である。では、どのように予防すればいいのだろうか。キーワードは3つ:1)準備、2)サポート、3)バランス。
まず、「準備」。外傷ケースを扱う臨床家はケースに即した訓練を受けること。未消化の個人トラウマを抱えている場合、その課題を個人セラピーで扱うべきである。未処理の課題は必ず逆転移の要因となるからである。
第2に「サポート」。トラウマ臨床は一人ではできないし、行ってはならない。臨床家同士はもちろんのこと、異業種間での支えが必要である。同時に、被害者への社会的なサポートも必要である。彼らへの支援が充実すれば、臨床家は治療に専念することが可能になる。
最後に「バランス」。外傷ケースばかり診るのを避ける。不可避の場合には、予約時に快復途中にあるケースを重症ケースの間に入れる。そして、私生活を充実させ、仕事以外の時間を設ける。(兵庫県こころのケアセンター 大澤智子)
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