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15年前にあった東京電力の女性社員殺害事件で、無期懲役刑が確定したネパール国籍の元被告について、東京高裁は裁判をやり直すことをきめた。疑わしきは被告人の利益に、という裁[記事全文]
何とも、ちぐはぐだ。7月に運転開始から40年を迎える関西電力の美浜原発2号機(福井県)をめぐり、原子力安全・保安院が10年間の運転延長を妥当とした件である。[記事全文]
15年前にあった東京電力の女性社員殺害事件で、無期懲役刑が確定したネパール国籍の元被告について、東京高裁は裁判をやり直すことをきめた。
疑わしきは被告人の利益に、という裁判の鉄則をふまえた判断だ。検察側の求めに応じ、十分に主張・立証させたうえで導き出した結論でもある。
にもかかわらず、検察はただちに異議を申し立てた。理解しがたい対応というほかない。
元の裁判でも一審は無罪だった。二審で有罪になったが、証拠関係はいかにも脆弱(ぜいじゃく)で、疑問はくすぶり続けた。
裁判をやり直すか否かをさらに争っても、検察はもちろん、刑事司法全体への不信を一層深めるだけだ。不祥事を受けて昨年制定した「検察の理念」で、「有罪そのものを目的とする姿勢」を厳しく戒めたのに、あれは口先だけだったのか。
再審開始の決め手の一つは、被害者の体内に残った体液だった。そのDNA型と、殺害現場の部屋にあった第三者の体毛の型が一致し、高裁は「被害者と第三者が部屋で性交渉した可能性を示す」と判断した。有罪の前提だった「被告以外の男が部屋に入ったとは考えがたい」との認定に疑いが生じた。
この体液は、事件当時は血液型が鑑定されただけで、DNA型は調べられていなかった。捜査を尽くしていれば、と思わずにはいられない。
問題はそれだけでない。
体液が冷凍保管されているのを検察側が明らかにしたのは、再審請求の弁護人が証拠開示を求めた3年8カ月後だった。さらに遅れて、別の遺留物についても弁護側に有利な警察の鑑定書が存在することがわかった。
あまりにひどい話だ。
どうしてもっと早く開示しなかったのか。裁判所もなぜ、もっと強く促さなかったのか。省みる点はたくさんある。
驚くのは、「それでも体液がしっかり保管され、開示されたのだから良かった」との声が専門家から聞かれることだ。他の同種事件がおかれている厳しい状況をうかがわせる。
一連の刑事司法改革で法律が改められ、裁判員裁判などでは証拠隠しができないようになった。検察当局の意識も変わりつつある。だが再審請求段階については定めがなく、現場の運用にゆだねられている。早急な手当てが求められる。
真相を解明し、無実の人を罰しない。それは、検察官、弁護人、裁判官の立場をこえて、刑事裁判に関わるすべての人の、そして社会の目標である。
何とも、ちぐはぐだ。
7月に運転開始から40年を迎える関西電力の美浜原発2号機(福井県)をめぐり、原子力安全・保安院が10年間の運転延長を妥当とした件である。
「脱原発依存」を掲げながら、原発事故以前のルールに従って手続きが進む。それが国民の不信を招くことを、野田政権は認識すべきだ。
原発は稼働から30年目とその後10年ごとに、電力会社が必要な対策を講じたうえで、国のチェックを受けることが法令で義務づけられている。
保安院は今回の判断が、あくまで現行法に基づく形式的な手続きだと強調する。「今後10年間の運転そのものを認可するものではない」という。
一方、国会では原子力規制に関する法案の審議が始まり、会期内に成立する見通しだ。柱の一つとして、原発の運転を原則40年に制限して廃炉にすることが盛り込まれている。
細野原発相も枝野経済産業相も、繰り返し「40年寿命」を説いてきた。今夏にまとめる政府のエネルギー基本計画も、このルールの適用を最低限とする脱原発依存を念頭に調整が進められている。保安院は廃止され、規制行政は新設の原子力規制委員会へと移管する。
そもそも、老朽化した美浜2号機は直ちに廃炉にすべき原発のひとつである。昨年12月から運転停止中で、再稼働に必要なストレステストの報告書も出ていない。関電にとっても、古くて出力も小さい美浜を動かす優先度は低いということだ。
にもかかわらず、形式的とはいえ10年の運転延長を認める行政判断を出せば、国民は混乱するばかりだ。
ただでさえ、野田政権のエネルギー政策は腰が定まらない印象が強い。大臣発言と正反対の動きが生じるたび、「いったいどっちなのか」とのいらだちが募り、周囲で不要な対立が生まれがちだ。大飯原発の再稼働問題は典型だろう。
規制当局として、現行法に基づき作業を進める必要があるにせよ、政権として新しい体制ができるまで判断を保留する手立てを講じるなり、「40年寿命」を厳格に適用することを大臣自ら記者会見するなり、方法はいろいろとあるはずだ。
なにより、関電も保安院も政権も、少しでも先を見る目があったら、すでに40年を超す美浜1号機ともども、ここで廃炉を決める手もあった。
そのほうが政権や関電にとってプラスだっただろう。惜しいチャンスを逃しましたね。