先週東京が中国外交官「スパイ疑惑」で大騒ぎしていた頃、米中間では新たな重大「スパイ」事件が表面化した。週末にはシンガポールで米国防長官が太平洋米海軍増強を発表した。一方、米中関係は成熟しつつあるとの声も聞かれる。今米中間で何が起きているのだろう。今週も筆者の独断と偏見で検証する。(文中敬称略)
1985年以来の重大スパイ事件
発端は5月25日の香港誌「新維」の記事だったようだ。6月1日にはロイターが複数の情報源を元に後追い記事を流した。その後も欧米マスコミや在外中国メディアが多くの観測・推測記事を報じている。一連の報道から浮かび上がる「事実関係」は概ね次の通りだ。
米中間で新たな重大「スパイ」事件が表面化した〔AFPBB News〕
●本年1~3月、中国国家安全部副部長の秘書(38歳)がスパイとして逮捕・拘禁された。
●同秘書は過去数年間、中国対外諜報活動に関する情報を米中央情報局(CIA)に提供していた。
●同秘書は政治、経済、戦略分野の機密情報を流しており、中国側被害は甚大である。
●英語を喋る同秘書はCIAにリクルートされ、既に数十万米ドルの報酬が支払われた。
●上司である国家安全部副部長は停職となり、調査対象となる関係者は350人に上る。
事実なら米国にとって大打撃だろう。衝撃のレベルは在京中国外交官「スパイ疑惑」の比ではない。一方、詳細については香港と欧米メディアで事実関係が微妙に異なる。もちろん、米中両国政府は一切沈黙を守っているので、真偽のほどは不明なのだが。
例えば、CIA情報提供者となった経緯には、米国留学時代に遡るという説と、香港出張中に「CIAの魅力的資産(工作員)」によるハニートラップで「都合の悪い写真」を撮られ、情報提供を強要されたとする説がある(へえ、CIAも美人局か? 結構やるじゃない)。
停職処分を受けた同省副部長の名前についても、当初は王立軍を米総領事館から取り返した邱進と報じられたが、その後、国家安全部系シンクタンクの元所長で日本専門家としても有名な陸忠偉とする説が流れた(本当に陸さんだったら、可哀そうな気もする)。
同秘書に対する調査は本年2月重慶で起きた「王立軍事件」の後に始まった、とする米政府筋の未確認情報もある(事実なら、CIAスパイ発覚は「薄熙来事件」の副産物であり、4月末の「陳光誠事件」の際、既にこの問題は米中間の懸案事項だったということか)。
また、今回の報道は中国側が意図的にリークした結果である可能性も否定できないそうだ(そうであれば、今回のCIAスパイ逮捕報道は「王立軍事件」「陳光誠事件」など一連の処理をめぐる中国なりの対米「報復」だったのかもしれない)。
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