ちなみに、中国の諜報機関である「国家安全部」内でのスパイ発覚は27年ぶり、1985年に同部北米情報司(局)の俞強声司長が米国に逃亡して以来のことだ。当時、俞強声からの情報によりCIAに潜り込んだ中国スパイが逮捕されたことはあまりにも有名である。
国防長官のシンガポール演説
レオン・パネッタ国防長官の演説に中国は素早く反応した〔AFPBB News〕
以上は「裏」の世界の話だが、「表」の世界でも米中間の鍔迫り合いは続いている。
例えば、レオン・パネッタ米国防長官は6月2日、シンガポールで開かれた第11回アジア安全保障会議(シャングリラ会合)における演説でこう述べた。
「2020年までに米国は太平洋・大西洋の海軍展開比率を現在の概ね5対5から6対4に変更する(・・・by 2020 the Navy will reposture its forces from today’s roughly 50/50 percent split between the Pacific and the Atlantic to about a 60/40 split between those oceans.)」
中国の反応は素早かった。4日、外交部報道官は、「人為的な軍事同盟強化は時宜に適ったことではない(untimely)」「世界の大国中で唯一、完全な統一を実現していない」中国は「多方面から安全が脅かされて」おり、「自身の利益を守る必要がある」と述べた。
これに対しては、米国防総省報道官が5日、「米国の新戦略は特定の国家を標的にしたものではなく(is not targeted at any one country in that region)」「米国の義務を再確認することは実に時宜に適っている(absolutely timely)」などと直ちに反論している。
今年1月、オバマ大統領は米国防総省でいわゆる「米軍のアジア回帰」戦略を発表した。今回のパネッタ演説は、具体的数字を挙げて、米国の「真剣さ」を再確認した点に意味がある。もちろん、その対象が中国、特に人民解放軍関係者であったことは明らかだろう。
興味深いことに、今回は昨年と異なり、中国の国防部長や人民解放軍高級幹部はシャングリラ会合に参加しなかった。出席しても各国から集中砲火を浴び、不愉快になるだけだからか。それとも、10月の指導部交代に伴う人事を考え、慎重になったのだろうか。
カムラン港の戦略的重要性
恐らく中国にとってより「不愉快」な事件は、このパネッタ演説よりも、その翌日に行われた同長官のベトナム公式訪問、特に「カムラン湾」の視察ではなかったかと思う。その理由はカムラン湾の地政学的重要性を地図で確認して頂ければ明白だろう。
ご覧の通り、カムラン港はベトナム南部、ホーチミン市に近い南シナ海に面した天然の良港、特にその水深の深さはアジアでも有数と言われる。フランス植民地時代の昔から、南シナ海の覇権を競う海上勢力にとって、この港は欠くべからざる戦略拠点だった。
ベトナム戦争中は米海空軍の基地となった。1979年からはソ連が25年間租借、2002年までロシア海軍太平洋艦隊の部隊が駐留していた。ベトナム戦争終結後37年、米ベトナム国交正常化から17年にして米国防長官が再びこの港を訪問する意味は大きい。
-
中国一等書記官スパイ疑惑は事後処理が一大事 (2012.06.01)
-
人民解放軍の次期リーダーは誰か (2012.05.31)
-
領土問題に疲れてきた中国国民 (2012.05.29)
-
ネットコンテンツで中国人の懐を狙え (2012.05.29)
-
中国大使が恫喝まがいの書簡を議員に送付 (2012.05.25)
-
中国の核心的利益、その実態を解き明かす (2012.05.18)
-
日中韓サミットは「呉越同舟」の第一歩となるか (2012.05.18)
-
先生は日本企業?中国人が気づいた道徳的経営の価値 (2012.05.15)
-
中国における外国人記者の苦難 (2012.05.11)