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ディシブルドの研究をさらに進展させた名古屋大! [癌の分子医学]

 胃や前立腺のがん細胞の転移に、「デイプル」と呼ばれるたんぱく質の働きが関わっていることを、名古屋大医学部の高岸麻紀研究員らの研究グループが突き止め、30日までに英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」の電子版に掲載された。
 高岸研究員は「デイプルが胃がんや前立腺がんの転移を抑える治療法開発の鍵になる可能性がある」としている。

 研究グループは、デイプルを培養した細胞実験で、胃や前立腺がんの転移を促す信号として知られる別のたんぱく質「ウィント」の働きとの関連を調べた。
 その結果、デイプルを培養した細胞では、ウィントがデイプルを活性化して突起物が作られ、細胞が移動した。デイプルの働きを抑えた細胞では、大きな変化は見られなかったという。

 マウスに傷を付けた実験では、皮膚の表面や真皮の中にあるデイプルが傷口の治癒に効果があることも判明。高岸研究員は「デイプルが人体にどう作用するかを調べ、がんの予後の回復や転移の仕組みを解明したい」と話している。[時事通信社 - 05月30日 21:05] 
 記事の論文は「The Dishevelled-associating protein Daple controls the non-canonical Wnt/Rac pathway and cell motility」(Dapleは非標準的ななWnt/Racシグナル伝達経路と細胞運動性をコントロールする)である。

 オープンアクセス論文なので全文を無料で見られる。


以下、アブストラクトを引用する。
[Abstract]
 Dishevelled is the common mediator of canonical and non-canonical Wnt signalling pathways, which are important for embryonic development, tissue maintenance and cancer progression. In the non-canonical Wnt signalling pathway, the Rho family of small GTPases acting downstream of Dishevelled has essential roles in cell migration. The mechanisms by which the non-canonical Wnt signalling pathway regulates Rac activation remain unknown. Here we show that Daple (Dishevelled-associating protein with a high frequency of leucine residues) regulates Wnt5a-mediated activation of Rac and formation of lamellipodia through interaction with Dishevelled. Daple increases the association of Dishevelled with an isoform of atypical protein kinase C, consequently promoting Rac activation. Accordingly, Daple deficiency impairs migration of fibroblasts and epithelial cells during wound healing in vivo. These findings indicate that Daple interacts with Dishevelled to direct the Dishevelled/protein kinase λ protein complex to activate Rac, which in turn mediates the non-canonical Wnt signalling pathway required for cell migration.

[アブストラクト]Catsduke訳
 ディシブルド(Dvl)とは、胚発生や組織維持や癌の進展に重要な、(β-catenin依存的に転写を制御する)canonicalなものと(RacやRhoなどの活性化を引き起こす)non-canonicalなものの、双方のWntシグナル伝達経路に共通のメディエーターである。
  後者のWntシグナル伝達経路では、Dvlの下流で機能している低分子GTPアーゼのRhoファミリーは、細胞運動において重要な役割を果たしている。
  後者のWntシグナル伝達経路がRacの活性化を制御する機序は未だ知られていない。
  ここに我々はDapleが、Wnt5a刺激依存的なRacの活性化とDvlとの相互作用を通じて、膜状仮足(ラメリポディア)の形成を制御することを示す。
  Dapleは、DvlとaPKCのアイソフォームとの複合体形成を増加させ、それが結果的にRacの活性化を促進している。従って、Dapleの欠乏は、生体内での創傷治療時における繊維芽細胞と上皮細胞の運動を障害する。
これらの発見は、DapleがDvlと相互作用をし、Dvl/PKλタンパク複合体をしてRacの活性化に向かわせ、それが次に細胞運動に必要なnon-canonicalなWntシグナル伝達経路を媒介するということを示している。
*さっき見て、やっつけで訳したので、誤訳があるかもしれません。その場合は、識者のご教示をお願いします。

*体組織を作ること以外で、最も重要なタンパク質の機能が「シグナル伝達」です。細胞内では、生命維持にとって情報のシグナルを、タンパク質の情報をリレーによって伝達しています。ただ、そこにエラーが生じると細胞の無限増殖=「癌化」が起こりえます。

 そのシグナル伝達系の中で最も重要な役割を果たすのは、上の論文で触れられている「Wnt[ウィント]シグナル伝達系です。ここに異常が起こると肝臓癌などが発生しうるのです。
 この伝達系の重要な部分は、ディシブルド(Dvl)などによって調節されていることは分かっていましたが、細かいメカニズムは不明でした。日本では兵庫県立大の樋口・柴田先生、イギリスではM・ビエンツ博士たちの研究グループによって、ディシブルドの特異な構造が明らかになりました。

*名古屋大のグループは、すでに、高橋先生の研究室で「癌関連遺伝子の発癌および形態形成における役割」を研究していたわけですが、筆頭著者である特別研究員の高岸麻紀先生(腫瘍病理学)の今回の論文で、さらにDapleの追究を通してDvlの関与をより詳細に解明した点に画期性があります。
 この分野の研究が更に進展して、癌の浸潤・転移の抑制に関わる、「細胞毒ではない」抗癌剤の開発などに繋がれば素晴らしいと思います。
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マグネシウム摂取不足の解消こそが糖尿病の増加を抑える [糖尿病]

 “Forgotten Mineral(忘れられたミネラル)”と称されるマグネシウム(Mg)。その慢性的な摂取不足を解消することは糖尿病の増加を抑えることにつながる――。東京慈恵会医科大学附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科の横田邦信氏は、5月19日まで横浜で開催された第55回日本糖尿病学会(JDS2012)のシンポジウム「糖尿病増加の誘因は?」に登壇、追加発言を行った。
 早くから日本人のMg摂取不足と糖尿病発症との関連性に着目してきた横田氏は、海外だけでなく国内でもエビデンスが積み重なってきているとし、改めてMg摂取不足への対応を訴えた。



 横田氏は、「Ⅱ型糖尿病の発症は食事性Mgの慢性的摂取不足が強く関与する」という“Mg仮説”を提唱してきた。追加発言では、自説にもとづき、シンポジウムのテーマである「糖尿病増加の誘因は?」への回答を提示した。

 横田氏は、わが国においてⅡ型糖尿病が戦後に増えた要因として、戦後の食生活の欧米化を挙げる。
「食生活の欧米化は、脂肪分の過剰摂取、穀物摂取量の激減という特徴を併せ持つ」と指摘する横田氏は、高脂肪食と運動不足による腹部肥満がインスリン抵抗性を招いたと説明する。
 その一方で、穀物摂取量の低下で食物繊維だけでなく慢性的なMgの摂取不足に陥り、これによりインスリン抵抗性の発現につながっているとした。Mg不足は「日本人があまり太っていなくても糖尿病になりやすいことを説明できる」(横田氏)という。

 近年、慢性的Mgの摂取不足は、アディポネクチンの低下を招き、高感度CRPやIL-6の上昇に関連していることが分かってきた。  横田氏は、Mg不足のインスリン抵抗性の発現機序についてエビデンスが集積しているとし、たとえば全粒穀物の繊維およびMgを十分に摂取すると、Ⅱ型糖尿病発症リスクを約35%低減するとの前向き研究の結果やメタ解析の成績が出ていることを紹介した。

 しかし、現実は厳しい。横田氏は主要ミネラルの摂取の現状を提示。平成22年国民健康・栄養調査の結果によると、日本人成人(30~49歳男性)のMg推定摂取量は240~244mg/日だった。日本人の食事摂取基準(2010年版)の370mg/日よりも130mg/日も不足しており、WHO推奨量である420mg/日と比べても176mg/日も不足している。

 横田氏は現状を、「無意識のうちに慢性的なMg摂取不足に陥っている」と警告した。その上で、「日ごろから十分なMg摂取を心がけることが、Ⅱ型糖尿病・メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の発症あるいは進展の予防に極めて重要」と指摘、「若いころからの正しい食育が強く望まれる」と求め講演を終えた。
日経メディカル「学会ダイジェスト:第55回日本糖尿病学会」

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/jds2012/201205/525038.html
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マグネシウム摂取量の増加でⅡ型糖尿病発症率が有意に低下 [糖尿病]

 マグネシウム摂取量と糖尿病発症に関する疫学研究は、欧米人を対象とした海外での報告が多く、日本人を対象とした研究は少ない。そこで、福岡県久山町の健診データを用いて追跡研究を行ったところ、Ⅱ型糖尿病発症率は、マグネシウム摂取量の上昇に伴い低下し、特にインスリン抵抗性・慢性炎症・飲酒習慣を有する患者でその効果が高いことが示された。5月19日まで横浜で開催されていた第55回日本糖尿病学会年(JDS2012)で、九州大学大学院環境医学分野の秦明子氏らが発表した。

 対象は、1988年に久山町の健診を受診した糖尿病のない40~79歳の住民のうち、その後糖尿病発症の有無を確認できた1999人。追跡期間は21年間で、その間にⅡ型糖尿病を発症したのは417人だった。

 食事調査から得られたベースラインの1日当たりのマグネシウム摂取量によって4分位(Q1≦148.5mg/日、Q2:148.6~171.5mg/日、Q3:171.6~195.5mg/日、Q4≧195.6mg/日)に層別化した。

 分位別に見ると、マグネシウム摂取量が増加するにつれ、Ⅱ型糖尿病の発症率は低下した(P for trend<0.01)。Q1のⅡ型糖尿病発症の相対危険度を1とした場合、分位が高くなるにつれて相対危険度は減少した(Q2:0.84、Q3:0.67、Q4:0.63、P for trend<0.01)。

 さらに糖尿病の危険因子別に、マグネシウム1SD上昇ごとのⅡ型糖尿病発症の相対危険度を検討したところ、インスリン抵抗性、HOMA-IR、飲酒習慣の3因子において、マグネシウム摂取量との有意な交互作用を認めた。つまり、インスリン抵抗性(HOMA-IR)のある群はない群より、慢性炎症の指標である高感度CPPが高い群は低い群より、飲酒習慣がある群はない群よりも、それぞれ、マグネシウム1SD上昇ごとの相対危険度が有意に低かった。

 秦氏は、「日本人のデータにおいても、マグネシウムの摂取はⅡ型糖尿病発症の独立した防御因子であることが示された。また、インスリン抵抗性、慢性炎症、飲酒習慣の3つの危険因子を有する人で防御効果が見られた。よって、これらのリスクを有する人には特にマグネシウム摂取が推奨される」とまとめた。

日経メディカル「学会ダイジェスト」

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/jds2012/201205/525011.html
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レスベラトロールが糖尿病合併症を予防 [糖尿病]

 英・ペニンシュラ医科大学の生物医学・臨床科学研究所のMatt Whiteman博士らは、ブドウの皮に含まれる天然化合物レスベラトロール(resveratrol)は、糖尿病患者で大量に産生されるブドウ糖の血管内皮細胞傷害作用を抑制し、心疾患・網膜症・腎症などの糖尿病合併症を予防できる可能性があるとDiabetes, Obesity and Metabolism(10: 347-349)に論文"Resveratrol blocks high glucose–induced mitochondrial reactive oxygen species production in bovine aortic endothelial cells: role of phase 2 enzyme induction?"(「レスベラトロールは、ウシ大動脈内皮細胞における高血糖誘発性ミトコンドリア由来活性酸素種の産生を防ぐ:薬物代謝第2相酵素の役割?」)を発表した。


【ブドウ糖の細胞傷害作用を抑制】
 糖尿病患者の血糖値が上昇すると、細胞内でエネルギーをつくり出すミトコンドリアが傷害され、細小血管系および大血管系の合併症を引き起こす。ミトコンドリアの機能が障害されると電子が漏洩して有害な"フリーラジカル"が発生し、腎症、心疾患、網膜症といった合併症の発症につながる。

 レスベラトロールは細胞を保護する酵素の産生を促して、この電子の漏洩と高毒性のフリーラジカル産生を抑制し、ミトコンドリアの機能傷害に歯止めをかける。

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チャングムびっくり、防風通聖散がやせ薬? [東洋医学]

 防風通聖散を肥満に使うのは、いかに日本漢方がいい加減かを示す好例である。プラセボ以上に効くのかどうか、有効性をEBMできちんと示しえているのかどうか、大変疑わしい。肥満で便秘があったら、あるいは高血圧気味なら効くのだと思っていれば、漢方を知らないアホである。

 専門的で恐縮だが、中医学では防風通聖散は「表寒・裏実熱」証に用いる「辛温解表・清熱解毒・瀉下利水」剤なのである。
 日本漢方では表裏倶実(詳しくは後述)を体力の充実ととらえ、「重役タイプの太鼓腹」を目標としており、一貫堂医学の「臓毒証体質」から来たものであろうが、こんなものは本来の漢方とは無関係のインチキ診断であり、ここから本剤の瀉下利水効果を「肥満」の治療に使うという類推が起こっているのだと思われる(こういう考えは私だけではない。検索すればすぐヒットする漢方専門薬局の薬剤師さんの多くのブログやここなどを参照されたい)。

 しかし、漢方薬は「証」が合わねば効かないものであり、そうした投薬は「誤治」であって、効かぬだけではなく、服用による被害、すなわち世間で言う副作用が生じ得る。
(副作用は体に良くないものだけではない。標的器官は心臓だったのに勃起力を高める副作用を持ったバイアグラは、逆に性的不能治療剤に転用された。ナイトールやドリエルなどの睡眠導入剤は、かぜ薬などに含まれる抗ヒスタミン剤が脳内伝達物質であるヒスタミンをブロックして眠気を誘うという副作用を正作用に逆用している)。

 そんな漢方的には誤っているパラダイムの元で、少々症例報告を集めようが、小規模試験をしようが、大体ほかに「やせ薬」が無いのだから、効力を二重盲検法(DBT)で比較できる薬がない訳だし、プラセボ対照DBTだったとしても漢方薬が薬物である以上は何らかの効果はあるに決まっている。
 そこで、例えば証が合わず効いていないが故の下痢などで体重が減った(そも防風通聖散には大黄が含まれている)のも「効果あり」にカウントされていては何だかなぁであって(それなら普通の漢方の下剤ーーもっとマイルドなものーーを用いれば良い)、いずれにせよ、東洋医学的にも西洋医学的にもいかがわしいということになるのではないのか。

 日本漢方では、表/裏・実/虚・熱/寒・燥/湿などの、漢方の基本的診断をネグっている。医師が東洋医学のトレーニングを医学部で受けずに勝手に「病名処方」で用いるからで、望診も脈診もいいかげんだからだ。チャンドクやシン・イクピル医務官による厳しいトレーニングを受けたチャングムの爪の垢でも煎じて飲まさねばならない(笑)。
湯液・鍼灸・導引全てをこなす漢方の大家・テジャングム様

 「表寒・裏実熱」証ということは、1.悪寒・頭痛・無汗・咳嗽・呼吸困難などの表寒証に加えて、2.口が苦い・口渇・目の充血・のどの痛み・イライラ・腹部膨満感・便秘・尿色が濃いなどの裏実熱証を伴い、3.高熱が見られ、4.舌診は紅色で舌苔が黄厚~垢濁、脈は滑数~弦数でなければならない。

 つまり、今この状態でない者には、全く効かないのが漢方薬である防風通聖散である。そればかりか、証を合わさず用いているということは「漢方薬」として用いている訳ではないのだから、痩せるどころか副作用もありうる訳である。

 ちなみにクラシエ(旧カネボウ)の防風通聖散のインタビューフォームには
「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(動悸・肩こり・のぼせ)・肥満症・むくみ・便秘」

 と日本漢方丸だしな適当なこの程度の説明しかされておらず、証もくそもない。医家向けのホームペイジで「随証治療」という項目を設けながら、この体たらくである。

 そして何より「肥満」の改善に対する臨床試験が一切ない。元々、漢方薬はモノによっては二千年近い臨床試験=人体実験が行われている(異常に長いフェイズIV。笑)のだから、安全性試験は不要として、日本医師会・武見会長当時の厚生省は一括認可したという経緯があるのだ。
 それはある意味正しいとしても、あくまでそれは証を正しく診断して、その証に合う方剤を処方投薬したときだけであることは論を俟たない。
 
 防風通聖散を、一種の「やせ薬」として、一般的に肥満に対して用いるなどという適応は無い。ならば、大規模臨床試験はやってないにしても、小規模臨床試験や動物実験を反映した肥満改善に関する研究報告くらいは追加収載され載っているかと思って、インタビューフォームを見てみたら、なんと何も載っていない!
「臨床成績:1.臨床効果=該当資料なし、 2.臨床薬理試験:忍容性試験=該当資料なし、3.探索的試験:用量反応探索試験=該当資料なし、4.検証的試験=該当資料なし、5.治療的使用=該当資料なし」
というご立派な状態だった。
(参考:http://www.kampoyubi.jp/seihinjouhou/if_p/ek062_if.pdf

 ただし「 安全性(使用上の注意等)に関する項目」の「5. 慎重投与内容とその理由」には、
「次の患者には慎重に投与すること:下痢・軟便のある患者、胃腸虚弱な患者、食欲不振・悪心・嘔吐のある患者、病後の衰弱期か著しく体力の衰えている患者、発汗傾向の著しい患者、狭心症・心筋梗塞等の循環器系障害のある・または既往歴のある患者、重症高血圧・高度の腎障害・排尿障害・甲状腺機能亢進症の患者」
とされている。副作用や元疾患を悪化させる可能性があるからだろう。
 証に合わさず漠然とした投与対象を初めに挙げるから、後でこういう注意が必要になる。

 しかしコッコアポを買うような層は、こういうところを詳しくは読みはしないだろう。実際に副作用報告も散見される。例えば、元山ほか(大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学)「防風通聖散による薬物性肝障害の一例」(「日本消化器病学会雑誌」2008;105(8):1234-1239)などである。


 では、載っていないから、肥満改善に関する研究が皆無なのかといえば、そうではない。動物実験もある。私が検索ですぐに発見したのは、森元ら(鐘紡・漢方ヘルスケア研究所)「フルクトース負荷ラットの体脂肪蓄積に対する防風通聖散の作用」(「日薬理誌」2001;117 (1):77-86)であった。
 鐘紡とはクラシエの旧名である。なぜそれを自分の会社の防風通聖散のインタビューフォームに載せられないのか。ラット4群を比較した研究らしいが、各何匹かすらアブストラクトに書かれていない、怪しい。自社の研究所が発表した論文が、自社の漢方薬のインタビューフォームに載っていないのは、「載せられない」水準だからだろうと思われてもしかたあるまい。

 ヒトでの研究も一例報告に毛の生えたもの(~3例報告)くらいは散見される(例えば、伊藤「小児科臨床」58-7、など)。そうでないものでも、食事制限と併用していたりしていて、医療介入を受けているという意識変化がもたらしたプラセボ的効果を排除できず論文にはならないようなものがほとんどである。

 ざっと検索した中では、京都府立医大の小規模RCT「耐糖能異常を有する日本人肥満女性での防風通聖散の有効性と安全性」(「臨床漢方薬理研究会会誌」2004; 100 回記念号: 19-22)が85人を2群に分けた6ヶ月間のプラセボ対象RCTであった。
 しかし、被暗示性の強い女性ならではだと思うが、プラセボ群まで体重・体脂肪率・皮下脂肪量・収縮期血圧・拡張期血圧・中性脂肪・総コレステロールが半年後に改善が見られた本研究を、僅かの有意差をもって、防風通聖散が耐糖能異常のある肥満者の治療に有用であると結論付けられるかどうかはデータの詳細を見なければ何とも言えない(有意差有りとは言うが、アブストラクトにP値すら載っていない、怪しい)。
 そもそも漢方専門誌に載ったこの研究が、漢方薬のインタビューフォームに載っていないのは、「載せられない」水準だからだろう。

 さて、本来は副作用がないのが漢方薬であるが、それはあくまでも東洋医学的に正しく用いた時だけである。西洋医学の病院で出る漢方薬には副作用が有りえるし、実際にあるのだ。まして、薬局で一般人が適当に買ってきた漢方薬にも副作用は大いに起こりえる(これをどこまでPL法的自己責任に帰し得るか)。

 例えば、小柴胡湯という漢方薬は、中国では肝炎を初めとする肝臓疾患のおよそ数%にしか処方されないような薬なのに、日本では、肝炎に一時80%近く「病名処方」し、しかもインターフェロンと併用していた。その結果、間質性肺炎という副作用を起こし、死者も出してしまった。何と、漢方薬初の「薬害」である。中国では、この対岸の火事を、驚きと困惑とともに見ていたという。

 証も無視した上に西洋医薬と併用する(三国時代の名医・華佗もびっくり!)など、「漢方薬」として用いたのではない(=恣意的に民間薬のハーブをコンビネーションで用いたのと同じになってしまう)訳だから、本来は小柴胡湯自体は無実なのだが、これ以後、副作用を持つ「恐い薬」にされてしまった。漢方薬を真面目に使っていた医家は、しばらくは多大な迷惑を被ったのだった。

 防風通聖散の適応症は、1.体内に炎症や代謝亢進状態があって熱の産生状態が高まっている者(=裏熱)が、2.新たに感染や寒冷な環境に晒されて表在血管の収縮・汗腺閉塞を起こし、体表からの熱放散が妨げられ、鬱熱状態を引き起こしたため、3.体温上昇し、腸管の蠕動が抑制されて便秘になり(=裏実)、4.水分の吸収障害から尿が濃縮されるという状態の者である。

 こうした体表から熱の放散が出来ず、大小便としての排泄も妨げられ、病邪が表裏共に盛んな状態を「表裏倶実」という。また、体内の炎症が強く、反射的に体表血管の収縮が起こり、熱放散が妨げられた状態を「裏熱による表鬱」というが、このいずれかになら投与して効果が考えられる。

 具体的に、こうした病態とは、感冒・インフルエンザ・肺炎・気管支炎・急性腎炎・急性肝炎・胆嚢炎・腎盂炎・膀胱炎・皮膚化膿症・胃腸炎などであるが、しかもその場合でも「表寒・裏実熱か表鬱」を呈する者でなければならない(そうでない証の者になら、感冒やインフルエンザなどには、タミフルなど比べ物にならない安全で効果的な方剤=より適薬がある)。それが「証を合わせる」という漢方の基本なのだ。従って、これらの病名に対して単純に処方=投与すれば効くとは行かないのが漢方薬なのだ。

 ところが、日本漢方ではこの表裏倶実を体力の充実ととらえ、「赤ら顔をした重役タイプの太鼓腹」をアホみたいに目標としている。
 何度も言うが、こんなものは漢方とは無関係のインチキ診断であり、ここから本剤の発汗効果や瀉下利尿効果を、代謝産物の排泄や脂肪の減少に有効だと考え、「肥満」の治療に使うという類推が起こっているのだと思われる。
 そして、これも何度も言うが、証が合わねば全く効かないのが漢方である。日本漢方の欠点は、このような、熱/寒証の診断がいい加減な点である。
 
 日本の医師は、医大で東洋医学の講義を受けていない者が90%である。マークシートに過ぎないとはいえ、国家試験にも以前には出題さえされなかった。すなわち「葛根湯」の使い方すら怪しいのだ。
 チャンドクに鍛えられ散脈もつかめる医女となったチャングムのような能力を持たぬ日本の一般医師は、生薬の区分試験や患者の脈診・問診・望診の試験、漢方の古典の暗唱試験などを彼女のように受ければ間違いなく全員落第するだろう(笑)。

 では、薬剤師なら万全かといえば、医師法に抵触するので患者に触れられず、脈診=脈を取ることができないので、まともな処方はできない。そこで諸症状に対して、患者に詳細に質問し、表/裏・実/虚・熱/寒・燥/湿などの、漢方の基本的診断を問診・望診で行うしかない。これがいい加減なら効くはずがない。
 ちなみに責任感があり、きちんと漢方を学んでいる薬剤師は、脈診=患者に「触れても」いいように、マッサージ師や柔道整復師や鍼灸師の資格(場合によっては複数)を取っている方々がいらっしゃる。

 一般人が東洋医学的知識無しに買って服用する漢方薬は効かないし、副作用もありえる。中国製痩せ薬を「中国の薬だから漢方薬」的な短絡的な脳味噌で被害に遭ったのは、被害者には些かお気の毒ではあるが、言わば「自業自得」であろう。
 その次が、こうした「日本の製薬会社が作った漢方薬だから安心で効く」といった思考回路になるのだろうが、それも愚かさにおいては五十歩百歩である。日本の製薬会社の作った薬で、多くの副作用・薬害被害が起こり、人が死んでいる。小柴胡湯問題もあったのだから、漢方薬さえも例外ではない。

 私は漢方に感嘆し、日本相補代替医療学会にも日本統合医療学会にも属し、その効果を科学的に検証する(=証の客観化)という作業に興味を持つ者であるが、こんな生薬資源の無駄遣いとも言える漢方薬の使用拡大には反対だ。

 そも、こんな使い方がはやるのも、日本独自の、メタボリック・シンドロームに関する国際的にインチキな基準に端を発したものではないか。
 それは、かつて総コレステロール値が220mg/dlという国際基準以下の、日本の学会がでっち上げたいい加減な数字に基づいて、高脂血症剤メバロチンを安易に投与し、年間1800億円も医療費を無駄遣いしてきたのと、医療用医薬品と市販薬との差こそあれ、全く同じ構造ではないか。

 痩せたければ、食べないか、コアリズム(笑)しかない。一月半でウェスト85から65になった、くわばたりえを見よ!(爆)

 すなわち、現代人は食べすぎなのだから、摂取カロリー(特に、種々の甘味飲料中の果糖由来のもの→「ポカリ飲む馬鹿、健康馬鹿」)を減らすか、基礎代謝量を上げるために筋肉を増やすしかない。当たり前ではないか。
 もしもサプリメントをとるなら、脂質代謝に関わるビタミンB群、とりわけイノシトールやコリンを多量に含む、良質なものを、海外から輸入して服用するならまだ生化学的に根拠があるが。

 それから薬局やドラッグストアなどで買える大衆薬(OTC医薬品)市場が、一時の低迷を抜け出して急回復していると言われているが、同様に、大衆の無知を利用しているケースとして、過去記事「OTC剤:ガスターは譫妄を起こす、ATP剤は効かない(笑)」で二つの薬品を取り上げているので、興味のある向きは参照されたい。
 そもカネボウがクラシエになったのは経営不振による、業態の整理統合に伴う改名であった。またこの種の薬を平気で売っている他のメーカーもそれなりの評判のメーカーばかりだ。無知な一般人を騙してこんなことで儲けようというさもしい根性は唾棄すべきものだ。

 船場吉兆を初めとして、無知な者は何かに貢がされる構造になっているのが、この世の中である。国家にであれ、製薬会社にであれ。そして、その両方にであれ。
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OTC剤:ガスターは譫妄を起こす、ATP剤は効かない(笑) [基礎医学]

 スイッチOTCは、個人主義的選択肢を増やす規制緩和だと思っていたら、無知なリバータリアンは権力の餌食になりますよ(笑)。

 例えば、H2ブロッカーたるガスターは副作用も有る薬だし、素人がいい加減に「胃薬」として飲むのは危険だ。実際、病院では老人患者などに譫妄も起こす薬である。薬剤師は、だからパンシロンとは異なる種類の薬であるが故に服用量・服用法に注意喚起する建て前になっているが、ドラッグストアでの売られ方を見ると、単なる「よく効く胃薬」のノリで売られている。

 そもそもこの薬がスイッチOTCになったのは、ピロリ菌への抗生物質治療(=胃潰瘍の根治療法だ)の保険適用が決まったのとほぼ同時である。厚生省のそういう業界保護的な体質は、かつてはキノホルム、最近でも薬害エイズの血液製剤まで全く変わっていない。

 それから、日本だけに存在する最もトンデモナイ薬にATP剤がある。高校生物などで学ぶ、あのATPである。
 確かに、高校生物では、リン酸結合の結合・開裂を通してATP⇔ADPの変換が起こり、その際にエネルギーを取りだせるという「エネルギー物質」という説明がされている。

 だから、それを口から薬剤としてとれば、体によく、エネルギーが出て、元気溌剌となるだろうというのである。一見、前提からすれば科学的だが、実は論理に飛躍があり、思い込みにもたれている。こうした思考パターンを(「科学的」ならぬ)「科学主義」的発想という。
 ウィルス性疾患は熱が上がる→熱を下げれば(下がれば、ではない)治るという誤解なども、高校レベルの免疫学を無視した原始人的思い込みであり、幼稚な「科学主義」の典型例であり、日本(と台湾)独自の解熱剤脳症(インフルエンザのせいだと思い込んでいるのは、ライ症候群もろくに知らない日本の不勉強な医師だけだ!)を生んだ。「科学主義」とは科学のイデオロギー化・宗教化の異名である。

 さて、この一日当たりの人体における合成量はいかほどかといえば、ほぼ体重相当分である。人間が様々な活動をするために、ATP⇔ADPの変換の総体で、延べの合成量がそれくらいになるのは、初歩の健康科学の計算問題の常識である。すなわち60kgの人間なら、一日あたり約60kg程になる訳だ。
 できたりもどったりではあるが、延べでは、そのくらい多量につくられている。一日の行動に要するカロリーからすれば、そうなってしまうのだ。

 ところが「パ○オンコーワ」の1日量は60mgである。60kg=60.000g=60.000.000mgに60mg=100万分の1加えたところで「露天風呂に耳かき一杯」程度のものである。
 固定的にATPが60kgプールされている訳ではないにしろ、一日の総量がそれくらいのオーダーのものに、外から加わるATPがたったそれだけということは、やはり馬鹿馬鹿しいにも程があるのだ。

 その昔、元・モントリオール大医学部ストレス研にいらして、現在、医療ジャーナリストであり、あの「ブラックジャックによろしく」の原作者である永井 明先生が、その旨をMRに糾した所、「先生、まぁ、そう硬いことを言わないでください。この薬が抱き合わせ処方で出されれば、その分で病院も潤う訳ですから」という答が返ってきたという。

 最近は、流石にそれに気付く者も出てきたのか、新たな屁理屈として、血管内等にある ATP受容体(P2受容体) に結合する事で循環機能や代謝機能の改善を改善するのだという説明がなされている。
 これも噴飯物だ。全身の血管の総距離数はいったい何キロあると思っているのだ、毛細血管込みで約10万km=地球を2周半する長さなのだ(爆)。
 たった60mgでどれだけの血管のレセプターに結合し得るというのだ。また、全身のどの部分の血管の循環をどうやって選択的に改善できるというのか。選択的でないのなら、相手は10万キロだぞ!(笑)
 こんな濃度で薬が効くのなら、ホメオパシー薬だって十分効くことになってしまうではないか!(爆)

 従って、そういう用途(=病院経営のため)に使われる薬だから、医療財政の厳しき折、財務省の睨みも利いている昨今、厚労省もいつまでもそんな保健点数を大ぴらに認める訳に行かなくなる。
 さすれば、OTCにして一般人に買わせれば、プラセボとして十分効くと言いだす連中も居るからええやんかという訳だ。意味のない薬を廃止するのではなく、一般向け販売に切り替える訳だから、国民のためではなく、ここでは業界保護しか眼中にない。また、それが天下り先確保につながるという点では官僚の自己利益もあろう。

 ちなみにこの商品はB群ビタミンが入っているから、プラセボ以上の、それなりの疲労回復効果は出てくる訳で、そこで意図的に錯覚をさそうというレシピになっている(笑)。
 「パイロゲン」というπウォーター商品(イカサマ健康食品)があるが、これなんかも生産物責任法を恐れてか、やはりビタミンを配合して、同じようなごまかしをしているのだが、正統医療の側がこの体たらくでは五十歩百歩である。

「脳循環代謝改善薬」という怪しいカテゴリーがある。ここは、今までに効果があるからこそ認可されたはずのものが効果無しとして取り消しになり消えていくものが存在するという怪しいフィールドである。「脳血流が改善されれば脳機能は改善されるはず」というシンプルな理論を楯に、屁理屈次第では怪しいものがまかり通ってしまうのである。

 そこでは、このATP製剤は「アデホス」という名で使われている(まさか飲んで効くと思っている者はアホデスというアナグラムではないでしょうな。爆)。
http://www.kowa-souyaku.co.jp/medical/product/interview/pi_005.pdf
これが注、
http://www.kowa-souyaku.co.jp/medical/product/interview/pi_008.pdf
これがエンテリック・コーティング剤のインタビュー・フォームである。
 
 ともに海外では発売されていない=できないような怪しい薬であることが分かる。文献表を見よ。ATPの発見に関わるような大昔(1929・1931年)の2文献を除けば、全てが日本人の日本人による日本人のための医学雑誌にしか論拠が無い。プラセボ対照DBT等、まともな大規模臨床試験すらされていない。たった168例対象の小規模試験だけで認可されているのだ。ATPに毒性などあるわけがないのだから、それだけで認可していいのか。

 ATPが生命の基本物質であるということと、経口ないし静注で薬物として体外から摂取して、薬効を持ち得るかということは別の話である。この手の一足飛びの「科学主義」的説明に、かつて国試に汲々としたような医師(根本的に生化学などを学ばなかったような、かつての受験秀才の成れの果て)は簡単に騙される。ましてや素人は騙されてしまう。理科離れの昨今なら尚更である。

 国際医学雑誌に基づく論文=世界的に通用する根拠はゼロである。それも上の理由からすれば当然である。ところが、こんな薬が世界中で日本だけに認可されているのだ。
 
 何が笑えるといって「(1)治療上有効な血中濃度:該当資料なし」「2.薬物速度論的パラメータ:(2)バイオアベイラビリティ:該当資料なし」と平然と書いてあり、脳循環改善薬を謳っているのに「(1)血液-脳関門通過性:該当資料なし」と書かれているのだ。初めて見た時、私は暴れたくなった(爆)。

 EBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づく医療)が叫ばれて久しいが、この種の、ローカルな医薬品はまだまだ日本には存在する。こういうムダを廃すること、無根拠な医療行為(抗生物質の術後ダラダラ点滴など)を無くすことで医療費は大きく節約できる。その分を医療報酬や看護報酬に回したり、日本の医療の改善に役立てるべきなのだ。
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ドイツ気象庁・放射性物質拡散予報 [疫学研究]

ドイツ気象庁のHPを、Web翻訳の独日翻訳が気持ち悪いので(笑)、独英翻訳から和訳して以下掲載します。

ドイツ気象サービスの「日本の天気と放射性物質拡散状況」の特別レポートは、05/31/2011に設置されました。この画像およびクリックで拡大表示されるループ動画もあります。

画像および6時間毎の変化を示すアニメーションは、福島第一原発の上空250mから、放射能汚染された大気がいかに拡散するかという状況予測を示しています。



重要な注意:放射性物質の強度(Catsduke訳注:要するに元の放出量)が分からないので、数値データは不特定の放射線源濃度の相対分散と希釈のみに基づいて評価されています。従って、この情報で、現場の実際の放射能汚染を決定することは不可能です(Catsduke訳注:単なる拡散地域の予測だということ)。詳細は、 BMU ( http://www.bmu.de )サイトで確認して下さい。
【拡散予想シミュレーション・animetion GIF画像→クリックで拡大】


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猫の分子矯正医学序論[1]----獣医学再考 [獣医学]

 ネコはビタミンCを自前で合成できる。
 そのせいで糖尿病でも糖化酸化LDLができにくいのか、合併症でもヒトとは違って、網膜症にはならないといわれる。ただ、うちのタマは白内障にはなっている。

 しかしストレス環境には陥りやすいので、その場合、コルチゾールやアドレナリンの合成・分解にCが必要だから、所要量は当然増す。病態下では、病院でのストレスも考慮すれば(イヌがキャンキャン鳴いているような入院環境ではなおのことそうだ)経口摂取・静脈点滴などでも補うべきなのだ。

 また単純な考え方をしていること、獣医学も医学も同様である。
 ネコには「結石」という問題が有る。すなわち、去勢・避妊などのせいでホルモンバランスがくずれると、結石のリスクが増える。ネコの場合、イヌのようなシスチン結石などは珍しく、大抵が「ストルバイト」(リン酸アンモニウムマグネシウム結石)がである。

 メスなら尿道が短く、砂状の小結晶ができたとしても成長=巨大化する前にすぐに排泄されるから問題が生じにくいが、オスの場合尿道が長いので、またテリトリーを示すためのスプレー尿ができるようになっているため、途中で狭窄している箇所もあることも相まって、尿pHが上がり、結晶が出来て詰まってしまうとすぐ尿閉を起こし、腎不全にまで至り得る。いわゆるFUSになる。

 だからFUS針という細い尿道用カテーテルで尿閉を解除したり、尿酸化剤としてdl-メチオニン(含硫アミノ酸だから当然尿中に硫酸イオンが出る)を増量した食餌[ロイヤルカナン「pHコントロール」等]を与えるなどする。

 餌の自由給餌を止め、決まった時間に餌をやる。運動をさせる。ストレスを減らす。など、対策が言われるが、もっともアホな話が「低マグネシウム餌を与える」従ってミネラルウォーターを与えないほうがいいとも言われる。
 それは結石の成分の一つがマグネシウムだからである。

 しかし、これは次の疑問で即刻破綻する。「ヨーロッパではネコも当然硬水=カルシウム・マグネシウムの含有量の多い水を毎日飲んでいる。そのせいでヨーロッパのネコは全員が結石になるのかといえばそうではない」。

 水道水はおそらく飲んでいないだろうし、わざわざ「軟水の」ミネラルウォーターを飲んでるにゃんはいないだろう。愛猫家は自分たちと同じヴィッテルやエビアンを与えているだろう。では、マグネシウムを減らすことで予防は可能なのか?
 その点をかかりつけの獣医に質問しても「う〜ん、確かに。でも、わかりません」との回答だった。この人は副院長であり、専門学校で獣医学を講義しているレベルの人にも関わらず、である。

 人間だと、Ca:Mg:P=2:1:1という体内比率に即した摂取比率が望ましいと言われている。ネコは、結石予防を謳い文句に、ここで著しくMg摂取量をおさえられてしまっている。

 しかし、チアミン(ビタミンB1)を保持するには十分量のMgが不可欠だということが分かっている。
 和歌山県の古座川流域やグアム島では、飲料水にMgが圧倒的に少なく、Alが多いという特徴があったために「アミトロ」=筋萎縮性側索硬化症が風土病として存在した。
 現在では、古座川水源の上水道にはMgが添加されており、この風土病の発生は皆無である。
 この病気の原因として、Mg不足が細胞のレセプターを変化させてしまい、チアミンを保持できなくなる結果、神経障害が起こるという機序であった。

 Mgが結石の材料になっているからMg摂取を減らせばいいといった単純かつ科学主義的で姑息な対症療法で、ネコをMg不足、ひいてはそこから来るチアミン不足に追い込んではいないのだろうか。

 ちなみに、最近の獣医学の研究では、結石は「含硫アミノ酸の摂取不足」、即ちアミノ酸インバランスのせいということになってきて、ペットフードにメチオニン・タウリンなどの添加が強化されているのだ。
 しかし、それは私が10年以上前から原理的に主張してきた通りの、分子矯正医学的立場からは当然の内容に過ぎない。そして、そのように修正されているのなら、Mg摂取に関しても獣医学的常識は修正されねばならないのではないのか?

 さらに最近の人間の医学での知見では、Mgが不足するとアディポネクチンの産生能が低下することが分かっている。Mgがインスリン抵抗性を解除するのは、このアディポネクチン産生を介してであろうと言われている。

 しかもMg不足・チアミン不足の状態で、本来、デンプンなど食べないネコに対して、ドライフードの賦形剤として炭水化物を与えている。これがアミロイドーシスの遠因だろうとは言われている。

 糖代謝をするにはチアミン(ビタミンB1)が不可欠だが、よほどチアミンが強化されていない限りは、このMg制限のせいもあって、フード中のチアミンは十分に利用されずに終わっている可能性が高い。

 その上、ペットフードに酸化防止剤として二酸化硫黄が含まれる場合、肉に含まれるチアミンを破壊するために、犬および猫のチアミン欠乏症の原因となっている(最近はビタミンC・Eや植物抽出の抗酸化成分を利用するものが増えてきて、いい傾向ではあるが)。

 ところで、チアミンは、塩酸塩・硝酸塩・燐酸塩があるが、通常は安価な塩酸チアミンが医薬品アンプルやサプリなどに多い。 
 というのも、どの形態のものでも体内で使用されるときには、リン酸化を受け、どうせ燐酸チアミンになるから、敢えて高い燐酸塩でなくても良いとされるからだ。

 しかし、糖尿病や癌性の悪液質といった病態下では、リン酸化がうまくいかないので、バイオアベイラビリティを上げるためには高価でもリン塩を最初から用いるべきだ。この程度のことも知らない医師・獣医師が多い。

 市販の製品では、第一・三共の「ビタメジン静注用」(薬価=145円/バイアル)がそうである。生食で20mlにして使用するが、1バイアル中に、リン酸チアミン=100mg・B6=100mg・B12=1mcg含有である。
 私はかかりつけの獣医師に頼んで、自分の猫用にはビタメジンをもらっている。

 糖尿病ネコの特徴の一つとして、間歇性跛行があるが、これはヒトの場合、動脈閉塞が理由のものと神経性のものがあるが、ネコはチアミン不足から来る神経炎で同様の症状が生じているのではないか?と素人ながら私は想像している(現在調査中)。【追記:2011.3.10/この正月にタマが悪化し、間歇性跛行を発症。ビタメジン大量投与と食餌=m/dへのMg大量添加[米国製サプリでCa:Mg=1:2の逆比になっているものにグルコン酸Znも添加。Mg100mg/日相当量]で症状を消失させました。このケースは、いわば「1例報告」ではあっても、この状態が可逆的反応で治癒できたことからも、上の私の理論の正しさは明らか】

 また室内飼いのネコに糖尿病が多いという点からは、ビタミンDと膵臓の関連を考えてしまう。フードにDが入っているとは言っても、どの程度給餌時まで残っているかはあやしいし、個体ごとの要求量は遺伝的には本来異なるはずである。生まれてからずっと室内飼いで、ヴェランダや窓が南向きでないなどの理由で、日光浴ができない飼育状態ならD不足が原因の一つになっていてもおかしくない。

 因みに無知な獣医師は知らないが、膵β細胞には活性型ビタミンDレセプターが存在するのだ。だから、人間の幼児の場合は、高用量ビタミンD投与がI型糖尿病の発症を低下させているというエピデンスもあるくらいだ。私は人間用タラ肝油由来のビタミンA&D[10000 IU & 400 IU]を週1回与えている。

 糖尿病といえば、ビオチンの不足もあやしい。腸内細菌叢(フローラ)によっては必要量が腸内合成されているかどうか怪しいのだ。フードにそれを意図して強化しているメーカーはあるのか。しかも動物病院では、人間の医院以上に、めったやたらに抗生物質の投与をしているのだ。私は海外製の1カプセル 1000mcg=1mgのビオチンを輸入してタマに適宜与えている。

 それから歯周病である。ネコにキャットフードを食べさせると歯垢が付きやすくなる。歯周病の炎症によるサイトカインがβ細胞をダメにするというのは最近はヒトでも言われていることだ。
 歯周病を、糖尿病の合併症ではなく、逆に原因であると考えて治療をし、悪化しうる要素は一つでも減らしてゆくという姿勢が必要なはずだ。うちのタマもクリーニングと抜歯をしてからは血糖のコントロールが効きやすくなった。

 ネコはヘモグロビンの構造がヒトと違うため、HbA1cが使えないので、フルクトサミン値しか使えない。東大でネコのHbA1c測定系を開発中という話を聞いたが、その後どうなったかは寡聞にして知らない。ネット検索してもひっかからない。

 ポーリングが序文を書いた"The Cat & VItamin Book"を米の古書店から入手して以降、ヒトの分子医学と分子矯正医学、獣医学とを結合しようと研究中だが、獣医領域の勉強が著しく遅れている。
 ネット上に分子矯正医学に興味の有る=儲け主義ではなく、対因療法を追究する獣医師がいれば、意見を交換しながらネコのための医療を探究できるのになぁ……。

 猫の糖尿病
 http://www.pet-hospital.org/cat-007.htm#cat-007-25
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ビタミンC点滴療法~安全かつ種々のがん種に適用可能:第11回国際統合医学会 [ビタミンC]

 高用量のアスコルビン酸を点滴静注するビタミンC点滴療法は,副作用が少ない安全ながん療法として,統合医学の領域では広く知られている。東京都で開かれた第11回国際統合医学会〔会頭=健康増進クリニック・水上 治院長〕の特別講演「VC点滴療法の抗がん効果とその検証」(座長=点滴療法研究会・柳澤厚生会長,日本ビタミンC協会・藤井毅彦代表)でカンザス大学(米カンザス州カンザスシティー)医療センターのQi Chen助教授は,最新の研究知見を踏まえながら同療法の効果および作用機序を検証,同療法は安全かつ種々のがん種に適用可能であると報告した。
【細胞外液にH2O2を送達】 
  VC点滴療法は,安全性が高く種々のがん種に適用可能な治療法であり,10カ月間の治療で両側の肺転移が消失した腎がん例や,同療法で9年以上無病生存している進行膀胱がん例,2週間の放射線療法との併用で診断後10年生存している第Ⅲ期B細胞リンパ腫例など,有効性を指摘する報告は多い。前向き臨床試験のエビデンスが不足していることから,現在は補完・代替療法として用いられているが,近年では,Chen助教授らの研究などから,同療法の作用機序や有効性を科学的に裏付ける基礎・臨床研究データが蓄積されており,米国では臨床試験も進められている。

 生体は大量のアスコルビン酸を経口摂取しても,血中アスコルビン酸濃度は0.2mM程度で飽和状態となるように厳格に制御されている。しかし同助教授によると,点滴静注や腹腔内投与ではこの制御は利かず,はるかに高い血中濃度を得ることが可能だという。VCによる腫瘍抑制作用は,そのように高い血中濃度が達成されて初めて発揮される。

 VC点滴療法では,非常に高濃度のアスコルビン酸が血中を循環し,細胞と血管の間の間質液(細胞外液)に移行してから,(モノデヒドロ)アスコルビン酸ラジカルへと酸化される。血中にはモノデヒドロアスコルビン酸還元酵素があるため,酸化は進まない。

 細胞外液では,次にアスコルビン酸が酸化される際に生じた還元鉄(Fe2+)が酸素供給源となって活性酸素(O2−)を生じ,最終的に過酸化水素(H2O2)を産生する。腫瘍細胞の死滅は,このH2O2が腫瘍細胞内に移行して細胞を傷害することで誘導される。

 正常細胞にはカタラーゼなどの分解酵素があるため,細胞内に入ったH2O2は速やかに分解されるが,腫瘍細胞の多くは分解酵素を欠いているため,H2O2による細胞傷害を受けやすい。つまりVC点滴療法は,正常細胞に影響せずに腫瘍細胞だけを死滅させることが可能であり,実際に同助教授らはin vivo研究で,その現象を確認している。

 アスコルビン酸は生理的濃度では抗酸化作用を発揮するが,VC点滴療法では,血中のアスコルビン酸が生理的濃度をはるかに超える高濃度になることで,逆に,活性酸素を生成するプロドラッグ(プロオキシダント)として作用し,細胞外液にアスコルビン酸ラジカルとH2O2を送達する。

【膵がんなどを有意に抑制】
 ヌードマウスに卵巣がん,膵がん,グリア芽腫の細胞を皮下移植して,高用量アスコルビン酸を腹腔内投与したChen助教授らの研究では,いずれの腫瘍においても対照群に比べて明らかな腫瘍増殖抑制,腫瘍重量低下が認められており,グリア芽腫では転移も見られなくなった(図)。

 さらに同助教授らは,膵がんの第一選択薬であるゲムシタビン(GEM)と高用量アスコルビン酸の併用により,膵がん細胞に対するGEMの効果が増大することをin vitro,in vivoの検討で確認するなど,他のがん療法との併用の有用性を示す結果も得ている。

 ヒトの血中アスコルビン酸濃度も動物研究と同等の20~30mMに上昇できることから,ヒトでも同様の腫瘍抑制効果が期待できる,と同助教授は指摘した。現在米国では,膵がんなどを対象にした高用量VC点滴療法の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が少なくとも4件実施されており, その結果が待たれている。[MT誌:2010年10月14日(VOL.43 NO.41) p.30]
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薬事法改悪に反対する署名にご協力をお願いします。 [医療の相対化]

[署名サイト]反対署名を厚労省へ「ネットで薬がかえないと困る!

 リバタリアン的ポリシーからして、絶対に許せません。厚労省はあろう事か、薬害被害者まで改悪にかり出していますが、そもそも大半の薬害は、サリドマイドのようなケースを除けば、決して売薬中心でもなかったし、その販売形態としてネット販売が普及しだしてからおこってきた訳ではありません。薬害を引き起こしてきたものは医療用医薬品、すなわち病院で処方され、かつてなら院内薬局、今なら門前薬局という調剤薬局で出されたものが大半です(参照:片平冽彦『ノーモア薬害』『構造薬害』『タミフル薬害―製薬企業と薬事行政の責任と課題』・浜 六郎『薬害はなぜなくならないか』『やっぱり危ないタミフル』など)。

 例えば、小柴胡湯による薬害も、それをインターフェロンと病院で併用したが故の薬害であり、ネットで多くの女性が購入したインチキ中国製ヤセ薬とは全く別問題です。ネット薬局から購入されたものではもちろんない訳ですし、中国製なら漢方薬、という味噌も糞も一緒にした素人談義のレベルの錯覚を意図的に用いているかのようです。

 多くのインターネット薬局は問診票を購入者に記入させ、患者の状態チェックをしっかりやっています。PL法をおそれてのことかと思いますが、市井の一般薬局=ドラッグストアの類の中には、例えば、かつてはガスターをパンシロンの如き普通の胃薬のノリでワゴンセールなどやっていたところも有り、よほどいい加減に売っていました。

 一般薬局の販売指導強化も念頭にはあるかとも思いますが、結局は圧力団体としての一般薬局とそこにつとめる薬剤師どもの利権の温存の問題です。

 書籍でいえば、町の一般書店は、その品揃えの薄さ、2代目/3代目/4代目となっていくうちに書籍や文化一般への愛を失い、一家言ある品揃えなどなくなり、単なる雑誌屋と化したが故に、コンビニやAmazonに負け、廃業を余儀なくされましたが、それは自業自得というものです。消費者はネット書店から大きな利便を受けたし、読みたくなったらすぐ本が手に入る状況は、棚が確保できない、高価で部数の少ない学術書/準学術書の類を出す出版社にも恩恵をもたらしています。

 一般薬局とネット薬局の薬を巡る構図は、上とロジカルには全くイソモルフィックです。唯一の違いは、本の読み過ぎ・濫用で死人は出ない(出る場合もある。笑)が、医薬品では危険性が皆無とはいえないという一点です。しかし、それは問診票をパスした上での販売を、ネット薬局開設の際にシステムに組み込まねばならぬ点を義務化して違反を取り締まればすむことです。薬剤師がいる一般薬局でもいい加減な販売をしている店は山ほどあります。

 問診表のシステムさえあれば、むしろ、一般薬局より細かなチェックが可能です。市井の、医薬品知識もあやふやな薬剤師(老人もいれば、若いくせにパソコンと首っ引きな奴もいる。薬学部を卒業していながらp450別に競合阻害する薬剤のリストも頭に入っていないのか。飲み合わせを検索せねば分からないなら、素人と同じだろうが!)どものいる、しょうもない薬局よりは遥かにネット薬局の方が市民の役に立っています。

 ネットで薬剤師に仔細に相談した上で適薬と思われるものを購入し服用しても症状が改善しない。そうなれば、一次診療を行う医院への受療アクセスも早まるでしょう。怪しい薬剤師どものいる、訳の分からない一般薬局をはしごした上で来院するようなケースが減るだろうからです。
 
 ぜひ皆様のご署名をお願いいたします。

【100621追記】
 うちの糖尿病猫タマの血糖値測定用のチップが「医療用医薬品」(!)扱いで、最近の厚労省の指導通達により、ネット通販ができなくなりました。購入履歴のある者は経過措置でネットで購入できたのですが、それもならんという訳です。明らかに規制緩和に逆行します。
 民主党政権になり、この自民党時代の悪法は改正され元に戻るという方向だったのに、ここでも官僚どもは既得権益や癒着の故に、かえって規制を強めてきています。鳩山ー小沢を情報操作で葬って、官僚組織にメスが入らないと思ったのか、やりたい放題です。

 最安値の店から購入するのは安価だというのもありましたが、近隣になぜかニプロが扱っているフリースタイルのセンサーが一切販売されていないからだったのです。身体障害者の方々やご老人がた、多忙な主婦の方々、郡部にお住まいの方々などの便宜というものを一切考えない、弱者切り捨ての、悪法・悪施策です。

 私は結局、ネット通販で、以前本ブログでご紹介したDiabetic Promotionsから31Gのシリンジ同様、個人輸入で購入することになりました。送料を入れるとトントンなのですが、送ってくれるのですから文句は言えません。ニプロのセンサーが切れたら、つなぎに予備のアボットのPrecision Xceedを使います。これは近隣のスギ薬局でもセンサーを売っているからです。しかし、これは採血量が倍必要で、タマには侵襲的なのです。

 いずれにせよ、実質同じ事が可能なのに、これでは日本に金が落ちないので、政府は損をすることになるのですが。アホちゃうかと思います。皆さんも愚法には反対の意志を示して下さい。

 ついでに、英語圏の情報を取れる方々には承知のことと存じますが、米国・官僚・マスゴミの癒着による情報操作で、この国の官僚のしでかしてきたことを一切免罪し、消費税値上げで国民にツケ回しして誤摩化して、国富をアメリカに貢ぐという属国でいさせ続けるための圧力に屈した売国勢力には、断固反対の意志をお示し下さい。
 沖縄基地問題然り、検察の国策操作然り、郵政反国有化法案流産化然り、消費税10%導入案然り……官僚は200兆円は埋蔵金を隠しています。1割持ってくれば値上げは不要です。どうせ米国債は紙屑になります。これ以上買い支えて何の意味がありますか。しかし「無駄な延命治療」のように、体中スパゲティにしているチュープから金を流し入れてほしいのです。サウジや日本という属国から……。愛国者なら郵便貯金の限度額を上げて、そっちに金を貯えて、国外流出を少しでも防がねばなりません。





薬事法改正により、インターネットで市販薬の7割近くが購入できなくなります


近くに薬屋がなく、車もありません。インターネットで薬が買えなくなるのは大変困ります。
外出が困難な障害者にとって、通販で薬が買えなくなることは致命的です。自由に買い物に出かけられる人ばかりではないことを理解してほしい。
幼児がいるので、買い物の時間は限られます。薬の内容をじっくり検討して購入するのにインターネット通販は必要不可欠です。
薬屋があっても、自分の欲しい医薬品がないと、何軒も探しまわる羽目に。ネットで購入できるのはとても助かります。
 
2月17日 一般用医薬品の通信販売継続を求める署名が累計で50万件を突破

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十全大補湯の肝癌発症に対する防御作用はクッパー細胞由来酸化ストレスの抑制に基づく [東洋医学]


 UNC Gillings School of Global Public HealthでPostdoctoral Research Associateをなさっている土屋雅人先生と山梨大医学部第一外科の松田政徳・河野 寛の両先生は、十全大補湯(TJ-48)が肝癌発症を防御する作用機序を考察し、その肝癌発症に対する防御作用がクッパー細胞由来酸化ストレスを抑制することに基づくことを解明、論文"Protective effect of Juzen-taiho-to on hepatocarcinogenesis is mediated through the inhibition of Kupffer cell-induced oxidative stress"をInternational Journal of Cancer(123:2503-2511)に発表された。


ABSTRACT
Traditional herbal formulations, such as Juzen-taiho-to (TJ-48), are used extensively in medical practice in Asia even though their mechanism of action remains elusive. This study tested a hypothesis that TJ-48 is protective against hepatocarcinogenesis by impeding Kupffer cell-induced oxidative stress. Forty-eight patients were randomly assigned to receive TJ-48 (n = 10), or no supplementation (n = 38) for up to 6 years after surgical treatment for hepatocellular carcinoma (HCC). In addition, to investigate the mechanism of protective action of TJ-48, diethylnitrosamine-containing water was administered for 22 weeks to male mice that were fed regular chow or TJ-48-containing diet. Liver tumor incidence, cell proliferation, number of 8-hydroxy-2-deoxyguanosine- or F4/80-positive cells, and cytokine expression were evaluated. Although most of the patients experienced recurrence of HCC, a significantly longer intrahepatic recurrence-free survival was observed in the TJ-48 group. In mice, TJ-48 inhibited the development of liver tumors, reduced oxidative DNA damage, inflammatory cell infiltration and cytokine expression. Administration of TJ-48 improves intrahepatic recurrence-free survival after surgical treatment of hepatocellular carcinoma. On the basis of animal experiments, we reason that the protective mechanism of TJ-48 involves inhibition of Kupffer cells. This leads to lower levels of pro-inflammatory cytokines and oxidants in liver which may slow down the process of hepatocarcinogenesis and improves hepatic recurrence-free survival in patients with HCC.


【アブストラクト】(Catsduke訳)
 伝統的な漢方処方、例えば十全大補湯(TJ-48)は、その作用機序が十分に解明されてはいないものの、東アジアにおいては広範に治療に用いられてきた。本研究で我々は十全大補湯がクッパー細胞誘発性酸化ストレスを妨害することで肝癌形成を抑制するという仮説を検証した。肝細胞癌(HCC)術後6年以上の48人の患者が十全大補湯投与群(10人)と非投与群(38人)にランダム割り付けされた。加えて、十全大補湯の防御作用機序の解明のために、通常の固形飼料または十全大補湯含有飼料を与えたオスのマウスに肝癌誘発物質であるジエチルニトロソアミン含有水を22週間投与する動物実験も行い、肝癌発生率、細胞増殖、8-ヒドロキシ-2-デオキシグアノシン-またはF4/80-陽性細胞、サイトカイン発現量が評価された。大部分の患者は再発したが、投与群は非投与群よりも無転移生存期間が有意に長かった。またマウスにおいて、投与群は肝腫瘍の発育を抑制し、DNAの酸化による損傷、炎症性の細胞浸潤、サイトカインの発現をいずれも減少させた。十全大補湯の投与によって、肝細胞癌の術後に無転移生存期間を改善できる。動物実験に基づき、我々は十全大補湯の防御作用機序には、クッパー細胞活性化抑制が含まれると判断した。このことは肝における炎症促進性サイトカインとオキシダントを低レベルに抑え、それは肝癌形成の過程を遅らせるだろうし、肝細胞癌患者が再発なく生存できることを可能にする。

【コメント】
 山梨大学医学部第1外科は、各種の病院本でも有名な病院であるが、肝細胞癌の再発予防に漢方薬を用いた研究を医局員が積極的に行っている。松田・河野両先生は2003年に「PROGRESS IN MEDICINE」(和雑誌)(23:1556-1557)に「肝細胞癌発癌抑制を目的とした十全大補湯によるKupffer細胞の活性化抑制と抗腫瘍免疫能活性化 」を発表されている。
 翌2004年には第66回日本臨床外科学会総会で、ツムラのランチョンセミナーである第14回外科漢方研究会でも、「肝細胞癌発癌機序における活性化Kupffer細胞の関与と十全大補湯による再発抑制の試み」をこの3名の先生方を中心とした発表を行っておられる。
【目的】 Kupffer細胞(KC)の肝癌発症における関与の解明と、抗酸化と抗腫瘍免疫活性化作用を有する漢方薬である十全大補湯(TJ-48)投与による、KC活性化抑制を介した抗酸化療法による肝癌発症抑制の可能性を検討した。
【方法】C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性肝細胞癌患者(HCC群)、慢性HCV感染患者(CH群)、健常者 の血清中8-OHdG、IL-18値を検討した。また肝内のCD68(KCマーカー)、8-OHdG、HNE、IL-18発現を検討した。根治的HCC切除症例において、血清IL-18値と、肝臓の非腫瘍部での8-OHdG発現について再発との関連を検討した。さらに肝癌手術症例を対象にTJ-48を投与し末梢血中IL-18値を測定した。
【成績】血清中8-OHdG値はCH、HCC群で増加。HCV感染肝での8-OHdGとHNE発現は正常肝と比較し有意に増加していた。肝内HNEと8-OHdG発現はCD68陽性細胞と相関し局在が一致した。さらに、IL-18、8-OHdG発現とKC数との間に正相関を認めた。血清IL-18高値群と、肝臓の非腫瘍部での8-OHdG高発現群において、より早期にHCCが再発していた。血清IL-18値はTJ-48投与により2ヶ月より低下し、4ヶ月後ではほぼ正常範囲となり7ヶ月経過した後においてもその効果は持続していた。さらに今回は、これまでの臨床結果を追加報告したい。
【結果】末梢血中IL-18値がKC活性化と肝内酸化ストレスの指標となり予後と相関した。TJ-48投与により末梢血中IL-18は有意に低下した。更なる経過観察が必要であるが肝細胞癌におけるTJ-48による抗酸化療法の可能性が考えられた。


 その後、この3人の先生方は、日本消化器病学会雑誌(2005;102 : 345)に「十全大補湯(TJ-48)によるKupffer細胞活性化抑制効果と肝発癌抑制の検討」を発表されているし、翌年の第42回日本肝癌研究会では、大阪市大・肝胆膵外科学の久保正二先生を座長とした「肝癌の再発予防2」というセッションで、「十全大補湯による肝細胞癌再発予防効果の検討」の演題で発表されている。そして2007年に河野・松田両先生は「十全大補湯による肝細胞癌根治治療後の再発抑制効果」を日本消化器病学会雑誌(104 : 227)に発表している。そうした先行研究が今回の論文の研究につながった訳である。

 一般的に、漢方薬にはフラボノイド等が多く含まれる上に、本来なら土瓶で煎じること=遠赤外線による諸有効成分の重合解除により、強いスカベンジャー作用を有することが示唆されている。単一成分の足し算ではなく、相乗効果による、西洋医薬とは異なる作用機序が想定されるケースが多いが、酸化ストレスの制御により、様々な薬効をもたらすことが、本研究のように証明されていけば、生薬資源の問題はあるにせよ、患者に優しい癌治療が今後ますます可能になっていくだろう。
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ビタミンCサプリメントの服用が痛風の予防に役立つ [ビタミンC]

 米国国立衛生研究所(NIH)の協力で行われた、バンクーバー総合病院とブリティッシュコロンビア大学のHyon K. Choi, MD, DrPHらによる、ビタミンCの補充が痛風の予防に役立つ可能性があるという研究、"Vitamin C Intake and the Risk of Gout in Men: A Prospective Study"(「男性のビタミンC摂取と痛風リスク:前向き研究」)が、"Archives of Internal Medicine"[2009;169(5):502-507.]で報告された。


ABSTRACT
Background
Several metabolic studies and a recent double-blind, placebo-controlled, randomized trial have shown that higher vitamin C intake significantly reduces serum uric acid levels. Yet the relation with risk of gout is unknown.
Methods
We prospectively examined, from 1986 through 2006, relation between vitamin C intake and risk of incident gout in 46 994 male participants with no history of gout at baseline. We used a supplementary questionnaire to ascertain the American College of Rheumatology criteria for gout. Vitamin C intake was assessed every 4 years through validated questionnaires.
Results 
During the 20 years of follow-up, we documented 1317 confirmed incident cases of gout. Compared with men with vitamin C intake less than 250 mg/d, the multivariate relative risk (RR) of gout was 0.83 (95% confidence interval [CI], 0.71-0.97) for total vitamin C intake of 500 to 999 mg/d, 0.66 (0.52-0.86) for 1000 to 1499 mg/d, and 0.55 (0.38-0.80) for 1500 mg/d or greater (P < .001 for trend). The multivariate RR per 500-mg increase in total daily vitamin C intake was 0.83 (95% CI, 0.77-0.90). Compared with men who did not use supplemental vitamin C, the multivariate RR of gout was 0.66 (95% CI, 0.49-0.88) for supplemental vitamin C intake of 1000 to 1499 mg/d and 0.55 (0.36-0.86) for 1500 mg/d or greater (P < .001 for trend).



【背景】いくつかの代謝研究および最近の二重盲検プラセボ対照ランダム化試験で、ビタミンC摂取を増やせば血清尿酸レベルが有意に低下することが示されているが、痛風リスクとの関係は未知だとされている。

【方法】我々は、1986 - 2006年に、ベースライン時に痛風の既往がなかった46,994例の男性被験者のビタミンC摂取と偶発的に発生する痛風リスクとの関連の評価のために前向き研究を行った。米国リウマチ学会の痛風基準の確認に補足質問票を使用した上に、妥当性が証明された質問票を使用し、4年おきにビタミンC摂取量を調査した。

【結果】20年間にわたる追跡調査の期間中、偶発的な痛風症例が1317例確認された。ビタミンC摂取量が250mg/日未満の男性と比較して、ビタミンC総摂取量が500 - 999mg/日の男性の痛風の多変量相対リスク(RR)は0.83(95%信頼区間 [CI]・0.71 - 0.97)であった。ビタミンC摂取量が1000 - 1499mg/日の男性のRRは0.66(95% CI・0.52 - 0.86)で、1500mg/日以上の男性のRRは0.55(95% CI・0.38 - 0.80;傾向検定における有意確率 P<0.001)だった。1日あたり総ビタミンC摂取量500mgの増加に伴う、多変量RRは0.83(95% CI・0.77 - 0.90)だった。

 これらの関連は、食事に関連する痛風のリスクファクターや、他の痛風のリスクファクター(BMI・年齢・高血圧・利尿薬服用・飲酒、および慢性腎不全など)とは独立しており、BMI・飲酒・乳製品の摂取によって層化した各サブグループにおいて認められた。

 ビタミンCサプリメントを服用しなかった男性と比べて、1000 - 1499mg/日のビタミンCサプリメントを服用した男性の痛風の多変量RRは0.66(95% CI・0.49 - 0.88)で、1500mg/日以上では0.55(95% CI・0.36 - 0.86)だった(傾向検定における有意確率P<0.001)。


「ビタミンCの高摂取量と痛風の低リスクには独立した関連があり、ビタミンCサプリメントの服用が、痛風予防に有益である可能性がある」と著者らは述べている。本研究の限界には、食事の摂取について質問票によって自己報告したこと、観察研究のデザインであること、関節液中の尿酸結晶の観察によって痛風の診断を確認していないこと、および医療関係者に限定されているため、一般化の可能性が限られることが含まれる。

 米国国立衛生研究所(NIH)とTAP Pharmaceuticals社が本研究を部分的に支援したが、著者らは利害関係はないと発表している。


【コメント】
 かつては尿酸は痛風の原因物質として、単なる「悪玉」されていましたが、抗酸化物質に関する知見が一般化してきた今となっては、見方が百八十度変わったといっても過言ではありません。

 哺乳動物の血中尿酸値の高さと寿命が相関しているという知識が知られるようになりました。
 つまり、ビタミンC合成能力を失った人間は、ジャングルに暮らしていた頃は豊富な果物を利用してそれを補ってきた訳ですが、エデンであるアフリカのジャングルを出て、世界に広がってからは、のちに野菜となる植物などから摂取できない場合は、重度の場合、いわゆる壊血病という欠乏症状になります。これが船乗りに多発し、それがライム果汁やザワークラウトの摂取で予防できたことが、1932年の壊血病の原因発見につながりました。
 ただ、重度のものではないにせよ、現代人の場合、古典的な壊血病症状が発症するまでのことはないにせよ、野菜不足など食生活の偏りなどから、慢性的かつ軽度な欠乏状態にあるといえます。

 自分でビタミンC合成能力を持つ多くの動物は、ストレス環境によって、その合成量が5倍〜10倍のオーダーで変化する事が知られています。例えば、ネズミを回転車や水泳させるような高ストレス環境におくと、合成量が跳ね上がります。それはストレスホルモンであるコルチゾールの合成にもその代謝にもビタミンCが必要になるため、大量に消耗してしまうからです。このことは人間においても原理的には全く同様です。

 ストレスが過多であると、コルチゾール合成量が増えます。ナチュラルキラー細胞はコルチゾールのレセプターを持っています。従って、ストレスが過多な環境ではNK細胞が死んでしまい免疫力が低下しまうのです。新潟大の安保先生が「癌患者の多くは、近親者の死を初めとする大きなストレス環境の後で発癌することが多い」と仰るのは、そのような意味においてです。
 逆に言えば、ビタミンCを必要最低限量ではなく、オプチマルな量を摂取できていれば、発癌を抑制し、白血球の活動能や抗体産生や内因性インターフェロン合成能も活性化するので、免疫力が増強し、風邪やインフルエンザなどの感染症にも強くなるのです。

 しかるに、まだまだ古典的栄養学のパラダイムが支配している日本の一般医学の世界では、病態に応じて多めに補給するという発想に欠けています。多くの現代人が、職業的にも高ストレス環境におかれており、まだまだ喫煙者が多かったり、若者を中心に野菜不足に陥っていたりで、食餌から十分なビタミンCが得難い上に、摂取量が各自のストレス環境=個体差に応じた必要量を反映していない状況であるにも関わらずです。

 SODなどの活性酸素消去酵素を除けば、人間が自前で合成できる低分子抗酸化物質は、尿酸しかありません。人間の場合160〜450μMol/Lと、本来なら不要なはずの尿酸の値が上がっているのは、生体の合目的的な生産=適応の結果であるということが、その蓋然性から理解されるようになってきたのです。すなわち尿酸のスカベンジャー効果が比較的高かったからで、尿酸は食餌由来のビタミンC=外因性抗酸化物質が得られない際の代償性のスカベンジャー、すなわち人間が唯一自前で作りうる=内因性の低分子抗酸化物質としての役割があった訳です。

 冒頭にも書きましたように、人間の血中尿酸値は元来(針状)結晶化する限界値近くまで高いのが、他動物に比しての特徴なのです。ところで、高尿酸血症に関して言えば、ここにビタミンAが十分に摂取されていて、血中レチノール濃度が高いと結晶化が押さえられるという事実があります。従って、針状結晶化して、いわゆる痛風になっている場合には、Cの欠乏のみならず、これも「鳥目」という(ロドプシンに関わる)古典的欠乏症にまでには至っていないにせよ、オプチマルな摂取量からすればAの潜在的欠乏も疑われる訳です。
 これが中年以降の痛風患者さんの場合、そのA不足によって、免疫力の低下から風邪にかかりやすかったり、上皮細胞分裂に弱点を抱えている為に、医薬品の服用で胃が荒れやすかったり、いわゆる「魚の目」などの皮膚症状があったり、コンドロイチン硫酸合成が弱くて膝に弱みを抱えていたりといった症状が個体差によっては併存している可能性も高いでしょう。三石 巌はこのことを早くから指摘していました。師はビタミンCの不足に関わるカスケード理論を提唱していましたが、それはAにおいても全く同じ事が言えるはずだからです。

 またCが欠乏しているからには、尿酸だけではビタミンEの再生が効きにくいと思われるので、Eの潜在的欠乏がある可能性も高くなります。従って、総合的な食生活の正常化に留意しつつ、抗酸化ビタミン類のみならぬ、総合的なサプリメントの対症療法的服用が必要になってくるでしょう。農薬・除草剤を多用し、過肥料で連作される今時の野菜中のビタミン類は成分表の含有量などないことは自明だからです。

 もはや痛風・リウマチ専門医なら誰も肯定しませんが、かつては「プリン体」が尿酸の原因物質だからと、摂取を禁じ、「焼肉屋でビールなどもってのほか!」と無意味に食餌制限をしましたが、今や上の事情から、内因性で合成されるものであるが故に、肉にもビールにも原因を求めないのが常識です。  未だに普通の内科医や短大卒程度の栄養士レベルに残るような古い迷信に基づいた「プリン体カットビール」なる噴飯物で今なお商売させているのは、もはや犯罪といっても過言ではないでしょう。
 ちなみに、Dohertyが今年発表した論文「痛風の疫学的新知見」("New insights into the epidemiology of gout."[Rheumatology 2009;48 Suppl 2:ii2-ii8]




でも、「最近の研究では、食餌のリスクとしては肉食・果糖・ビールの多量摂取と痛風は相関しないとされており、コーヒー・低脂肪食・ビタミンC摂取はリスク低下と相関している」と、もはや常識として指摘されています。

ちなみに、拙ブログ過去記事「血中尿酸塩値が高いことがパーキンソン病のリスクに保護的に作用」も御覧下さい。

なお、ビタミンC一般に関しては、以下の一般書・専門書を参考にしてください。

村田 晃『新ビタミンCと健康―21世紀のヘルスケア』共立出版(1999)




ポーリング博士のビタミンC健康法』平凡社(1995)




Pauling & Cameron『Cancer and Vitamin C』(1993増補版)



木本 英治『l-アスコルビン酸カスケード』開成出版(1994)*木本 福岡大理学部名誉教授は今秋永眠されました。日本ビタミン学会の末席を汚す者として、先生のご逝去を悼み、学恩に感謝親します。

三羽信比古『ビタミンCの知られざる働き―生体への劇的な活性化メカニズム』丸善(1992)

三羽信比古『バイオ抗酸化剤プロビタミンC皮膚障害・ガン・老化の防御と実用化研究フレグランスジャーナル社(1999)



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【馬鹿騒ぎに抗うシリーズ】インフルエンザ騒ぎとタミフル問題[転載] [医療の相対化]

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版から、直近のインフルエンザ報道と、タミフル薬害と関連すると思われる分析を転載する。
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No126(09.8.18号)
 「新型」初の死者はタミフルの害では?
  腎不全で透析中ならタミフル蓄積⇒肺炎・多臓器不全併発の可能性大
    NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

 沖縄県で2009A/H1N1インフルエンザ(いわゆる新型)に感染した沖縄県宜野湾市の男性(57)が入院先の病院で死亡したとの報道があった。死者は初めてとのことである。

 報道によると、この男性は心筋梗塞の治療歴があり、慢性腎不全で人工透析を受けていた。9日午後から、のどの痛みなどの体調不良を訴えていた。10日に病院で透析を受けた際、37度台の発熱があり簡易検査を受け陰性だった。12日、透析中に39℃に上昇したため再度検査を受けたところインフルエンザA型陽性と判明。タミフルを投薬され、中部徳洲会病院(同県沖縄市)に入院したが、14日未明から容体が悪化し、15 日午前6時54分に死亡した。

 県が緊急に感染確認のための詳細(PCR)検査を行った結果、15日午後4時ごろ、新型インフルエンザに感染していたことが分かったという。

「新型インフルエンザに感染したことで肺炎を併発し、その後、敗血症を起こしたことが死因とみられ」たり、あるいは「心疾患や慢性腎不全の持病があり、免疫力が落ちている状態で新型インフルエンザに感染し、急速に容体が悪化した」との県の説明が報道されている。しかし果たして、「新型」によるといえるのか。

<厚生労働省が公表している透析患者の死亡例>
 ここで厚生労働省が公表している死亡例の1人(症例番号40)を紹介して、 タミフルが透析中の患者に使用された場合に、1回使用するだけでもいかに重大な結果が生じうるか解説する。

 54歳男性。高血圧の既往歴があり。糖尿病、糖尿病性網膜症、慢性腎不全および頚椎後縦じん帯骨化症で入院透析を行っていたが、全身状態は極めて不良であった。入院から約6週間後、インフルエンザと診断。
 翌日夕方、タミフル75mgを1回のみ服用(併用薬はアジスロマイシンとミノマイシン)。服用の数日後、下痢および全身倦怠感が出現し、肝機能障害が出現。下血を繰り返し尿毒症症状が悪化し、その後出血性十二指腸潰瘍で死亡した。

<透析患者では1日以上後に血中濃度が6倍に>
 通常の腎機能の人と透析中の人を比較すると、抗ウイルス作用を有する活性体タミフルの血中濃度の動きは著しく異なる。

 最高血中濃度に達する時間は、通常3〜4時間に対して、透析中の人は4時間以降もどんどん上昇を続け27時間かかってピークの濃度に達する。その結果、最高血中濃度は約6倍に達する。血中濃度が半分になる時間は、通常5.5時間に対して、透析中の人は159時間と極めて長い。
 透析をすれば5分の1の血中濃度に低下するのだが、透析しない場合には、もしも1日2回使用されたとすると、血中濃度は腎機能正常者の12倍の状態が持続することになる。

<活性体タミフルで腎障害、肺炎、出血、多臓器不全>
 健康人を対象にインフルエンザ予防に用いた臨床試験で、腎尿路系疾患が有意に増加しており、小児の臨床試験では使用終了後の肺炎が有意に増加していた。市販後にも肺炎や多臓器不全の例も多数報告されている。

 動物実験でも、腎障害や肺炎・出血も生じている。これは、脳を抑制した未変化体のタミフルではなく、抗ウイルス作用を有する活性体のタミフルが人のノイラミニダーゼを阻害した結果と考えられる。

<少なくともタミフルによる有害事象−徹底的に調査を>
 国は、国立感染症研究所で、死亡した男性の検体を用いてウイルスの変異の有無を確認するという。タミフルとの関係に触れている報道やコメントはないが、少なくともタミフル使用後2日以内に容態が悪化し2日余りで死亡したのであるから、死亡は、タミフルの有害事象として扱われなければならない

 さらに、上で指摘したように、因果関係についてかなり濃厚である。少なくとも、その可能性は否定できないはずである。害反応(副作用)として徹底的に検討が加えられなければならない。

元記事:http://www.npojip.org/sokuho/090818.html

『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No127(09.8.22号)
  09年型インフルエンザでタミフルによる害の兆候が続々と
   日本で2人目の死亡者も透析をしていた
  3人目は、非ステロイド解熱剤の使用につき検証が必要
   メキシコ(入院重症者)でも、米国妊婦でも死亡の危険が増大
    NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

<日本で2人目の死亡者も透析をしていた>
 沖縄県で2009A/H1N1(いわゆる「新型」)インフルエンザに感染した男性に引き続き、 神戸市で2人目の死亡者が報道されましたが、この人も透析中でした。
 厚生労働省の発表によると、この人は70歳代の男性。肺気腫(肺から空気が出て行きにくいために呼吸困難になる病気)と 糖尿病があり、糖尿病による腎不全のために透析を受けていた。
 8月16日に38℃の発熱、息苦しさがあり、 17日に医療機関に受診し、検査でインフルエンザは陰性。 午後1時ころ状態不良のため紹介され別の病院に入院。 急性気管支炎による肺気腫の悪化と診断され、 迅速検査でA型インフルエンザ陽性であったために、 タミフルや抗生物質が使用された。
 18日午前6時20分、容態急変にて死亡。 死因は急性気管支炎による肺気腫の悪化とされた。 そして市で精密検査(PCR)をしたところ「新型インフルエンザ」が陽性との判定がでたとのことである。

 この方の場合は、タミフル服用からおそらく12時間前後で死亡しています。そして、容態が急変したのが午前6時20分とされていますが、詳細は不明です。急変に気づいたのが午前6時20分ということなら、それより前に睡眠中に死亡していた可能性はないのでしょうか気になります。いずれにしても、睡眠中に呼吸が抑制されて死亡したという可能性は否定できないのではないかと思われます。

 タミフルにより呼吸が抑制され突然死した可能性を考慮して、この点での徹底的な調査が必要でしょう。

 この人は、肺気腫、糖尿病、透析中というハイリスクの要因を3つ持っていたのですが、それにしてもA型インフルエンザと確認されて24時間以内での死亡というのは、インフルエンザだけによる死亡とするには余りにも早いのではないかと思われます。タミフルが関与していなかったかどうか、かなり強く疑われます。

<3人目は、非ステロイド解熱剤が使用されていなかったか検証を>
 3人目は、名古屋市の80歳代の女性です。 もともと多発性骨髄腫(骨髄のがん)と心不全があった方です。
 厚生労働省の発表によれば、8月13日39.5℃の発熱で入院。 15日咳がひどく状態がわるいので、個室に移る。
 17日簡易検査でA型インフルエンザ陽性。翌日精密検査(PCR)により 「新型」と判明。酸素吸入など実施したが、 19日深夜1時32分死亡。死因は重症肺炎とされた。

 この方の場合は、タミフルは使われなかったようですが、多発性骨髄腫ということですから、 この病気の一般的な治療として、ステロイド剤や抗がん剤が使用されていた可能性があります。 そこへ、39.5℃の発熱があったということですから、何らかの解熱剤が使われたでしょう。
 非ステロイド解熱剤が使われたなら、80歳を超えた高齢者ではしばしば、 尿が出なくなることがあります。もともと心不全もあったのですから、 2〜3日のうちに心不全が悪化して呼吸困難で死亡したという可能性があります。
 そうした経過がなかったのか、十分な検証が必要です。

<メキシコ(入院重症者)や米国妊婦でも死亡の危険が増大>は速報128号に掲載します。

 元記事:http://www.npojip.org/sokuho/090822.html
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No128(09.8.24号)
 タミフルによる害:米国妊婦、メキシコ重症者で死亡危険が増大
 日本でも重症者の多くがタミフル服用後に悪化
  NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

 日本で、いわゆる「新型」インフルエンザで死亡した人について、前回に報告しました。今回は、メキシコや米国妊婦の重症例で、タミフルの使用で死亡の危険が増大する可能性について検討した結果を報告したいと思います。

<米国妊婦で死亡の危険が増大傾向あり>
 最新の米国CDC(疾病コントロールセンター)の調査結果がランセット誌(Jamieson DJら、Lancet. 2009 Aug 8;374(9688):451-8)に掲載されました。
 4月14日から5月18日までの約1か月あまりの間にCDCに報告されたいわゆる「新形」インフルエンザに感染した妊婦は、確定例が31人、疑い例が3人でした。このうち1人が死亡。この妊婦は、重症化後にタミフルを服用しましたが死亡しました。タミフルを服用していたのは、34人の中17人(50%)でした。

 死亡例については、さらに1か月延長した期間について報告がされています。4月15日から6月16日までの約2か月間に、「新形」インフルエンザでの死亡した人は合計45人いました。そのうち妊婦の死亡が6人でした(先の妊婦34人中の死亡1にも含まれています)。

 その妊婦の死亡者全員にタミフルが使用されていたのです。
 この2か月間で何人の妊婦がいわゆる「新形」インフルエンザにかかったのか、タミフルを服用していなかった人は何人いたのかがわかれば、死亡とタミフルとの関連が検討できるので、その数をこの報告中にないかと探したのですが、報告されていませんでした。

 しかしながら、死亡者全員がタミフルを服用していたのですから、タミフルを服用しなかった妊婦で死亡者がいなかったことは確かです
 ところが、タミフルを服用しなかった妊婦で死亡した人はいなかったということについて、このCDC調査結果の中では、全く何も触れられていないのです。そこで、いろんなデータ(文末:注)を元に、その間の妊婦数とタミフル服用者数、タミフルを服用しなかった妊婦の数を推定してみました。
 あくまで推定ですが、タミフル服用者は74人中6人死亡、タミフル非服用者37人中死亡は0と推定されました。

 タミフルの服用は相当危険であるように見えます。

<メキシコの入院重症者でもタミフルで死亡増大傾向あり>
 もうひとつの最新の調査(Perez-Padilla Rら,New England Journal of Medicine,2009 Aug 13;361(7):680-9.)は、メキシコからのいわゆる「新型インフルエンザ」による重症患者の報告です。

 メキシコにおいて初期(4月)に重症化して入院した18人の調査結果が報告されました。

 タミフル使用者は14人いて、そのうち7人が死亡し、タミフルを飲まなかった4人は、死亡は0でした。
<タミフルは有意に死亡を増加させうる>
——米国妊婦とメキシコ重症例を総合すると——
 どちらの調査でも、タミフルを飲まずに死亡した人はおらず、死亡者はタミフルを飲んだ人ばかりでしたので、タミフルが死亡に関係している可能性が疑われます。ただ、個々に検討した結果では、統計学的には有意とはいえませんでした。

 しかし、両方の調査を総合して検討すると、タミフルは死亡を5.6倍増加させる危険性がありうると計算できました(統計学的方法は文末参照)。

<使用時期の問題ではない>
 メキシコの調査でも、妊婦の調査でも、インフルエンザが発症して数日から1週間以上もしてタミフルが用いられていたことがかなり強調されているように見えます。それならば、遅れての使用方法は止めればよいはずですが、CDCでは相変わらず、遅くに使ってもよいと言っています。

 メキシコの調査では、タミフルが使われた人の方がより重症だったという可能性がなくはありませんが、メキシコで入院した患者は全て重症者でしたし、そのようなコメントは、メキシコ調査の報告書には記載されていませんでした。

 妊婦の調査報告では、そもそも、タミフルを使用しなかった妊婦は死亡が0であったということに何も触れていません

<みなさん、冷静に判断しましょう>
「新型」との恐怖がばら撒かれる中で、WHOや米国CDCをはじめ世界中でタミフルがさも特効薬であるかのように捕らえられて、一般の方まで「タミフルがなければ」、「タミフルのおかげでよくなった」などと思い込まされているようです。

 しかし、冷静に、最新のデータを分析した結果、以上のように、タミフルがインフルエンザによる死亡を増大させる可能性を示すデータが続々と出てきているのです。

 そして、ようやく、軽症の人には不要、との考え方が出てきたようです。重症の人、ハイリスク者には危険で使えない、軽症の人には不要。それならば、全くタミフルは使い道がない、と判断してよいということになります。

 冷静に考えていただきたいと思います。

 日本の重症例(人工呼吸管理や脳症)については、No129

注:タミフル服用妊婦数、非服用妊婦数を推計する元になったデータ
 4月14日〜5月18日までに報告のあった妊婦の「新形」インフルエンザ罹患数34人、この間のインフルエンザ患者数全体の増加の程度(5469人から、17855人に増加)、タミフル服用率が、4月14日から4月30日までの発症者では20人中8人(40%)であり、5月1日から5月6日までの発症者では11人中8人(73%)であったというデータ。これらを考慮して計算した。

<詳しい統計学的な検討結果を知りたい方に>
 米国妊婦の調査と、メキシコ重症者の調査結果を総合して検討する方法には、メタ解析(meta-analysis)の手法を用いています(以下は、できるだけ一般の方にもわかりやすいように、平易に解説したつもりです)。

 死亡に対するタミフルの服用の危険度(Petoオッズ比)は5.6倍と計算できました(統計学的に有意:下図参照)。

 統計学的に有意というのは、オッズ比の95%信頼区間と、p値で表します。
2つの調査結果を併合したPetoオッズ比の95%信頼区間は 1.44-22.13でした。

 95%信頼区間の下限が1を超えると有意ですが、1.44とかなり超えています。また、やはり統計用語で、p値が0.05未満なら有意とふつう考えますが、 p値は0.013でした、やはり0.05よりかなり小さい値であり、有意です。

元記事:http://www.npojip.org/sokuho/090824.html
『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No129(09.8.25号)
 タミフル:害の兆候は日本でも/重症例の多くがタミフル服用後に悪化
  NPO法人医薬ビジランスセンター(薬のチェック)  浜 六郎

 いわゆる「新型」インフルエンザで、日本で死亡した人、メキシコの重症例、米国の妊婦について、前回までに報告してきました。

 今回は、日本で重症化して人工呼吸器を装着した人や、脳症/脳炎になったために報告された人についてみてみましょう。

 いわゆる「新型インフルエンザ」にかかって入院し人工呼吸器が装着された人や、脳症/脳炎になった人は、各自治体を通じて厚生労働省(厚労省)に届けられます。そうした例について、厚労省が「新形インフルエンザに関する報道発表資料」として公表しています。その情報に基づいて検討してみました。

 8月4日から、20日までに死亡した3人以外に、いわゆる「新形」インフルエンザから重症化して人工呼吸器が装着された人や、脳症や脳炎になった人が合計11人報告されています。脳症/脳炎の2人は人工呼吸管理をすることなく経過しましたが、他の9人は人工呼吸管理されました。11人中4人がタミフルを服用したことが報告書に記載されています。その人たちについて示しておきましょう。

 まとめると、タミフルを服用したことがはっきりしている人は全員、服用後に悪化しています。このことからタミフルの関与が強く疑われます。また、タミフル服用の記載がない人では、解熱剤やけいれんを誘発する薬剤が重症化に関与していることが大いに疑われました。

<タミフル服用後,意味不明の言動、見当識障害>
8月4日発表:5歳男児。基礎疾患はなし。
>7月30日39.5℃発熱、嘔気、嘔吐、頭痛があり、31日、近くのA医院を
>受診。髄膜炎疑いで解熱剤の処方を受けたが40℃が持続し、8月1日に再
>度A医院を受診。インフルエンザA型と診断され、B病院に入院し、タミ
>フルドライシロップが使用された。CT検査では異常なかったが、夜から
>意味不明の言動、見当識障害(自分が誰か、どこにいるのか、状況の判断
>ができない状態)があり、8月3日朝、タミフルは中止。MRIで「脳炎」の
>所見が認められたが、頭痛、嘔気、嘔吐なし。精密検査(PCR法)で「新
>型インフルエンザ」の「陽性」が確定した。4日、脳炎症状は残存するも
>のの、解熱(37.2℃)し、食欲あり、回復の方向にあった。

(浜コメント)
 解熱剤使用後かえって熱が上昇し、重症化して入院しています。インフルエンザやかぜから脳症になり重症化する最大の原因はイブプロフェンなど非ステロイド抗炎症剤系の解熱剤(非ステロイド解熱剤)です(「くすりで脳症にならないために」参照)。
 以前よく用いられていたボルタレンやポンタールはさすがに最近は使われていないと思われますが、イブプロフェンはまだ医療機関では処方されることがあります。非ステロイド解熱剤が用いられていなかったか検証が必要でしょう。

 また、入院し、タミフルを使用後に、「意味不明の言動、見当識障害」など精神神経症状が出現しています。MRIで「脳炎」所見が認められたといっても、「頭痛や嘔気、嘔吐」などの症状はなかったのです。タミフルで、精神神経症状が出現した可能性が高いでしょう。非ステロイド解熱剤が使用されていたなら40℃の高熱と重症化にも関係していた可能性がありえます。

<タミフル開始後、無気肺悪化、呼吸状態悪化>
8月5日発表:6歳男児。基礎疾患はないが、乳児喘息の既往あり
>7月25日咳。26日38℃の発熱で近医(A)受診。左の無気肺を認めたた
>めA医療機関に入院。抗菌剤開始。 27日迅速検査陽性A型インフルエンザ
>タミフルを開始。無気肺により呼吸状態が悪化したため気管内挿管。人工
>呼吸、酸素吸入。B病院に転院。28日精密検査(PCR法)で「新型インフ
>ルエンザ」確定。30日抜管し、人工呼吸中止。その後回復し8月5日退院
>した。

(浜コメント)
 乳児喘息の既往があるとのこと。インフルエンザで気管支の炎症が起きて粘稠な痰がたまると、気管支の一部が閉塞して無気肺になり呼吸困難を呈することがあります。

 タミフル服用後に睡眠中に呼吸が抑制されて突然死した幼児や成人が少なくありません。その上、無気肺で呼吸の一部が障害されていれば、タミフル服用で呼吸が抑制され、より強い呼吸困難が生じて低酸素状態になり、人工呼吸管理が必要になった可能性は十分ありうると考えられます。

<タミフル開始後人工呼吸管理開始>
8月13日発表:29歳男性
基礎疾患のためにもともと気管切開がなされており、人工呼吸器の使用歴のある人である(ただし基礎疾患の詳細は不明)。8月10日、39.2℃発熱。迅速検査でA型インフルエンザが判明。タミフルが開始された。その後(時間は不明だが)、人工呼吸器の使用を開始した。11日PCR法実施し、12日「新型」と確定。38.3℃。13日37℃。人工呼吸器は使用しているが状態安定。

(浜コメント)
 もともと気管切開がなされ、人工呼吸管理がされたことがあるということですが、インフルエンザ罹患前には人工呼吸管理はされていませんでした。

 それが、タミフルが開始されてから、おそらくは半日以内に人工呼吸管理が必要となったのです。気管切開がされることになった元の病気は不明ですが、神経系あるいは筋肉疾患である可能性が高いでしょう(筋萎縮性側索硬化症など)。すると、タミフルによる呼吸中枢の抑制作用が、そうでない人よりも強く作用します。

 したがって、この人の場合も、タミフル服用後に、脳が麻痺して呼吸する力が弱くなり人工呼吸管理が必要になった可能性が高いと考えられます。

<タミフル開始翌朝、意識障害、血圧低下、呼吸障害>
8月17日発表:40歳男性
>もともと、慢性硬膜下血腫による両下肢機能全廃のため身体障害1級の人
>である。8月14日、午前中にA施設内(入所中)で40.2℃の発熱があり、
>簡易検査でA型インフルエンザ陽性であった。タミフルを服用し経過を観」
>察。翌日(15日)朝に、意識障害、血圧低下、呼吸障害のため、市内のB
>医療機関に入院。肺炎の合併があり、人工呼吸管理をし、ICUに入室。精
>密検査(PCR法)で「新型インフルエンザ」と確定。17日午後2時現在
>解熱、回復傾向あるが、なお人工呼吸管理は継続中。

(浜コメント)
14日のタミフル服用開始から、翌朝の意識障害、血圧低下、呼吸障害まで、24時間を要していません。非常に短時間の間に急変しています。タミフルは午前に1回と夜に1回服用した可能性があるでしょう。したがってその翌朝の急変は大いに関連があると考えるべきでしょう。

 通常でも夜間睡眠中は呼吸が抑制されやすいので、まして、慢性硬膜下血腫による両下肢機能全廃があるのですから、呼吸筋の機能にも障害があるかもしれません。それなら、なおさら呼吸停止は起きやすいでしょう。

 以上、タミフル使用が明瞭に記載されている重症の4人と死亡した2人は、少なくとも重症化にタミフルが関与した可能性が高いのではないかと考えられました。

 なお、14人中1人(死亡した80歳代の女性)がタミフルを使用していなかったことがはっきりしていますが、あとの7人は、タミフルの服用状況は不明でした。タミフル使用が記載されていなかった8人中6人は、非ステロイド抗炎症剤が解熱剤として用いられていたなら重症化に関与した可能性があると考えられました(このうち一人は他のけいれん誘発性の薬剤の関与もありえますが)。

 また、症状の経過から、4人(うち2人には非ステロイド解熱剤も関与か)は、もしもタミフルが用いられていれば、タミフルが関与した可能性があると思われました。

 結局、純粋にインフルエンザだけで重症化したといえる例は、ほとんどないのではないかと思われました。この点からも、十分な検証が必要です。

 再度申し上げたいと思います。「新型」との恐怖がばら撒かれる中で、WHOや米国CDCをはじめ世界中でタミフルが、さも特効薬であるかのように言われ、捕らえられて、一般の方まで「タミフルがなければ」「タミフルのおかげでよくなった」などと思い込まされているようです。

 しかし、冷静に、最新のデータを分析した結果、以上のように、タミフルが、ハイリスクの人ほど、インフルエンザによる死亡を増大させている可能性を示していますそれを示すデータが続々と出てきています。

 そして、ようやく、軽症の人には不要、との考え方が出てきたようです。しかしよく考えてみて下さい。
 重症の人、ハイリスク者には危険で使えない、軽症の人には不要。それならば、全くタミフルは使い道がない、と判断してよいということになりませんか。


みなさん、冷静に判断しましょう
追記:
 この報告を書き上げてから、4人の重症者(人工呼吸管理例)が報告されました。神奈川県からの1人と、沖縄県からの3人です。
 そのうち3人はタミフルや解熱剤の使用の有無は不明でしたが、1人にはタミフルが使用されていました。

 タミフルが使用されていたのは40歳代の女性です。39℃の発熱で近医を受診し4日後に症状が改善せず受診したところ肺炎疑いで入院、急速に悪化し、転院後人工呼吸管理がされて、その後にインフルエンザA型が判明したためにタミフルが使用されたというものです。39℃の発熱で近医を受診し4日後に急速に症状が悪化するまでには、非ステロイド解熱剤が使用された可能性が高いのではないかと疑われます。

 また、タミフルが使用されたときには、すでに人工呼吸管理がされていていましたので、たとえタミフルで呼吸抑制が起きても、影響がでることはありません。

元記事:http://www.npojip.org/sokuho/090825.html

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糖尿病ネコへのインスリン治療・関連論文 [糖尿病]

 過去記事「[拙訳]ランタス[=グラルギン]の糖尿病ネコに対する使い方」ですが、記事発表後も相変わらずアクセスが多いので、若干の訳文の変更に加えて、この翻訳文中に、私が割注して紹介した論文のアブストラクトと、ついでに関連する論文のアブストラクトもこちらに翻訳紹介しておきます。過去記事からリンクで来られた方には説明は不要でしょうが、こちらの記事にネットサーフ中にダイレクトに来られた方は、上の元記事も宜しければご参照ください。

 2005年のACVIMフォーラムで口頭発表され、翌年にこの"Use of Glargine and Lente Insulins in Cats with Diabetes Mellitus"という論文となった。タフツ大・獣医学部のKelli E. Weaver(あの「ER」のケリー・ウィーバーではないよなぁ。笑)が筆頭著者。

Journal of Veterinary Internal Medicine
"Use of Glargine and Lente Insulins in Cats with Diabetes Mellitus" (J Vet Intern Med 2006;20(2):234-238
「糖尿病ネコへのグラルギンおよびレントインスリンの使用」
ABSTRACT
 The goals of this study were to compare the efficacy of once-daily administered Glargine insulin to twice-daily administered Lente insulin in cats with diabetes mellitus and to describe the use of a high-protein, low-carbohydrate diet designed for the management of diabetes mellitus in cats. All cats with naturally occurring diabetes mellitus were eligible for inclusion. Baseline testing included a physical examination, serum biochemistry, urinalysis and urine culture, serum thyroxine concentration, and serum fructosamine concentration. All cats were fed the high-protein, low-carbohydrate diet exclusively. Cats were randomized to receive either 0.5 U/kg Lente insulin q12h or 0.5 U/kg Glargine insulin q24h. Re-evaluations were performed on all cats at weeks 1, 2, 4, 8, and 12, and included an assessment of clinical signs, physical examination, 16-hour blood glucose curve, and serum fructosamine concentrations. Thirteen cats completed the study (Lente, n = 7, Glargine, n = 6). There was significant improvement in serum fructosamine and glucose concentrations in all cats but there was no significant difference between the 2 insulin groups. Four of the 13 cats were in complete remission by the end of the study period (Lente, n = 3; Glargine, n = 1). The results of the study support the use of once-daily insulin Glargine or twice-daily Lente insulin in combination with a high-protein, low-carbohydrate diet for treatment of feline diabetes mellitus.

[アブストラクト:Catsduke訳]
 本研究の目的は、糖尿病ネコに対するグラルギンの1日1回注射とレントインスリンの1日2回注射の有効性の比較と、糖尿病の管理のためにデザインされた高タンパク+低炭水化物食について説明することであった。本研究に用いた全てのネコは自然発生糖尿病で、試験に用いるには好適であった。ベースライン調査には、身体的診察・血清生化学検査・尿検査・尿培養・血清チロキシン濃度・血清フルクトサミン濃度が含まれていた。全てのネコは高タンパク+低炭水化物食だけを与えられていた。その後、ネコたちはくじ引きで、レントインスリン0.5 U/kg・1日2回投与群か、グラルギン0.5 U/kg・1日1回投与群に割り付けられた。再評価は全てのネコに対して、1・2・4・8・12週に行われ、臨床的兆候・身体的診察・16時間血糖値曲線・血清フルクトサミン濃度が評価項目として含まれていた。試験を終了したのは13匹のネコ(レント群=7、グラルギン群=6)で、全ネコにおいて血清フルクトサミン値と血糖値の優位な改善がもたらされた。しかし使用した両インスリン間においては、統計的優位差はなかった。13匹中4匹が試験期間終了までに寛解した(レント群=3、グラルギン群=1)。本研究の結果は、糖尿病ネコの治療には、食餌を高タンパク+低炭水化物のものにした上で、グラルギンを1日1回注射することか、レントインスリンを1日2回注射することが望ましいことを支持している。

 以上を踏まえて、クイーンランド大の論文では、自分たちの知見として「グラルギンSIDはレントインスリンのBIDと同等」→「グラルギンBIDの方がよりコントロールが良好」と述べているのだと思われると過去記事でコメントした訳です。

 さて、同誌の最新号には、次の論文も掲載されているので、ついでにアブストラクトを訳出しておきます(Published Online: 26 Jun 2009)。カリフォルニア大・獣医学部のR.W. Nelsonと、IDEXXのK. HenleyとC. Coleの他は、PZIR Clinical Study Group(PZIRのネコ糖尿病治療薬としての使用承認をFDAから得るため組織された研究者=獣医師グループ)による論文です。
 
"Field Safety and Efficacy of Protamine Zinc Recombinant Human Insulin for Treatment of Diabetes Mellitus in Cats" (J Vet Intern Med 2009;23(4):787-793
「プロタミン亜鉛遺伝子組換えヒトインスリンの糖尿病ネコ治療への使用に対する市場安全性と有効性」
ABSTRACT
Background: This study describes the efficacy of a new protamine zinc recombinant human insulin (PZIR) preparation for treating diabetic cats.
Objective: To evaluate effects of PZIR on control of glycemia in cats with newly diagnosed or poorly controlled diabetes mellitus.
Animals: One hundred and thirty-three diabetic cats 120 newly diagnosed and 13 previously treated.
Methods: Prospective, uncontrolled clinical trial. Cats were treated with PZIR twice daily for 45 days. Control of glycemia was assessed on days 7, 14, 30, and 45 by evaluation of change in water consumption, frequency of urination, appetite, and body weight, serum fructosamine concentration, and blood glucose concentrations determined 1, 3, 5, 7, and 9 hours after administration of PZIR. Adjustments in dosage of PZIR were made as needed to control glycemia.
Results: PZIR administration resulted in a significant decrease in 9-hour mean blood glucose (199 ± 114 versus 417 ± 83 mg/dL, X± SD, P < .001) and serum fructosamine (375 ± 117 versus 505 ± 96 μmol/L, P < .001) concentration and a significant increase in mean body weight (5.9 ± 1.4 versus 5.4 ± 1.5 kg, P= .017) in 133 diabetic cats at day 45 compared with day 0, respectively. By day 45, polyuria and polydipsia had improved in 79% (105 of 133), 89% (118 of 133) had a good body condition, and 9-hour mean blood glucose concentration, serum fructosamine concentration, or both had improved in 84% (112 of 133) of the cats compared with day 0. Hypoglycemia (<80 mg/dL) was identified in 151 of 678, 9-hour serial blood glucose determinations and in 85 of 133 diabetic cats. Hypoglycemia causing clinical signs was confirmed in 2 diabetic cats.
Conclusions and Clinical Relevance: PZIR is effective for controlling glycemia in diabetic cats and can be used as an initial treatment or as an alternative treatment in diabetic cats that do not respond to treatment with other insulin preparations.


[アブストラクト:Cattsduke訳]
【背景】:本研究は新しいプロタミン亜鉛遺伝子組換えヒトインスリン (PZIR) 製剤の糖尿病ネコ治療に対する有効性を説明するものである。
【目的】:新たに糖尿病と診断されたネコまたはコントロール不良のネコの糖血症のコントロールに対するPZIRの効果を評価すること。
【患者】:133匹の糖尿病ネコで、うち120匹は新たに糖尿病と診断されたネコで、残り13匹はすでに治療を受けているネコであった。
【方法】:前向き・非対照臨床試験。ネコはPZIRを1日2回、45日間注射された。糖血症のコントロールは、7日め・14日め・30日め・45日めに評価され、項目は水分消費・尿回数・食欲・体重・血清フルクトサミン濃度・血糖値曲線(PZIR投与後1・3・5・7・9時間後に測定)であった。PZIR投与量の調整は糖血症のコントロールの必要に応じて行われた。
【結果】:PZIRの投与は、9時間後の血糖値の平均 (199 ± 114 versus 417 ± 83 mg/dL, X± SD, P < .001) と、血清フルクトサミン濃度 (375 ± 117 versus 505 ± 96 μmol/L, P < .001) が有意に低下しており、133匹の45日めの体重の平均値 は開始日と比べて(5.9 ± 1.4 versus 5.4 ± 1.5 kg, P= .017) 全員が有意に増加していた。45日めの時点で多尿と多飲はそれぞれ79% (105 of 133)・89% (118 of 133) と改善していた。また試験開始日と比べて、9時間後の血糖値平均、血清フルクトサミン濃度、あるいはその両方が改善したネコは84% (112 of 133) だった。低血糖 (<80 mg/dL) は、9時間後までの連続した血糖値測定回数のうち678回中に151回見られ、糖尿病ネコ133匹中では85匹に見られた。うち、低血糖の臨床的兆候を示したネコは2匹だった。
【結論と臨床的意義】:PZIRは糖尿病ネコの糖血症のコントロールに有効であり、初期治療薬として、また、他のインスリン製剤での治療に反応しない糖尿病ネコに対する代替薬として使用し得る。

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ホメオパシーの誤りーー「未科学」と「非科学」の混同 [代替療法]


 私は、代替医療関連2学会の学会員であるが、残念ながらホメオパシーの有効性を示すものは、ほとんど存在しないというシンプルな事実がある。すなわち、ホメオパシーにはプラセボ二重盲検法で効果有りとする結果は皆無に近いのだ。ということは、仮に効果があったにしても、論理的には、最高でもプラセボと同等であることになる----即ちホメオパシーは「プラセボ」に過ぎないということなのだ。
 
 ヨーロッパの医大で自然療法として扱っているにせよ、ハーブ療法のように生化学的基礎の有るものとしてより、従って、プラセボの要素が強いものとして利用されていると思われるのだ。
 例えば、英国ではヒーラーの手かざしにさえ保険が効くが、ヒーラーは国家登録制だ。怪しげな新興宗教の人間でない者による心理的癒しで治ってもらえば、長期の薬物治療より安く上がるから許可しているという現実主義を感じる。ホメオパシーの扱いもその程度のものではないのか。

 というのも、レメディも「無限小」の原則で希釈作製されれば、モル数なら分子数0=法律的には「乳糖錠」で、化学物質として、標的器官・部位に化学変化に基づく正作用を与え得ぬ以上、副作用も起こり得ず、安全だから認めているだけで、患者が治り、医療費抑制につながり得るなら「方便」として何でも使う欧州の歴史に根ざした強かさを感じるからである。

 ところで、その基本原理である「ダイナマイゼシション(振盪)で<水に薬剤の記憶を与える>ことによって希釈しても元の物質の<情報>は保存されるが、薬品としての濃度は下がるので副作用は無くなる」という主張はトンデモな戯言であり、水素結合による水のクラスター化から、水が情報を保存できるという考えは、「πウォーター」というイカサマ高価格水の論理にも通ずるが、物理学では水のクラスター理論は70年代に終わった理論だという。平熱でさえ1兆分の1秒で転位する水の分子の早さからは、いかなる情報も保存しえないのは自明だ。

 ましてや、ホメオパシーとは直接関係ないが、水の結晶に「愛」とか「健康」と言葉かけをして、綺麗な結晶になるような水を飲めば健康になるなどといった世迷い言を信じる馬鹿どもは、小学校の時に中谷宇吉郎の「雪の結晶」の話も読んだことのない理科離れ世代に決まっているのだろうが、あまりのレベルの低さに言葉もないほどである。

写真上:雪の(正確には水の)結晶の写真。
この形になるのは水素結合や「自己組織化」の問題で、なにも愛のせいではない(笑)。雪印乳業は愛が無いから古い牛乳を日向で混ぜて再利用し食中毒を出し、メグミルクになったのだ(爆)。

 ちなみに「波動」という言葉を安易に使う輩は、どうせ物理学でいう「波動」を理解してはいないのだろうが、それだけでインチキの証拠になるので、一般の方々は「波動」=眉唾という試金石として使われるとよいだろう。

 閑話休題。結局「濃度が低い方が効く」というホメオパシーの原則は、彼らの言うアロパシーたる現代医学で、医薬品一般が、中毒域以下の濃度で薬物として作用するため、濃度によって正に「毒にも薬にもなる」という事実からの、類推による原始人的なまでの拡大解釈であり、従って、実のところ、ホメオパシーは所詮アロパシーの陰画[ネガ]に過ぎないのだ。

 例えば、ヒ素は中毒を起こすが「薄めて」医薬品とすれば抗白血病薬となり得るし、中毒症状と白血病の症状に類似点が有るからといって、ヒ素のレメディが両方を治せるというような考えは単なる思いつきで、実際は大半の化合物において、こうした類似性が見られることは皆無に近い。

 そもそも、たかだか200年かそこらの歴史しか持たないホメオパシー(1790年に彼は英国の医師カレンWilliam Cullen著『Materia medica, 1789』を独訳中にヒントを得てホメオパシーを創始し学校を開いた)が、漢方やアーユルヴェーダに勝てる訳がない。その原理が正しければ、ハーネマンという一個人が発見する前に、彼が観察し得た程度の薬理現象[があったとして]と人間の反応との相関関係は数千年前から中国やインドで発見され検証され体系化されていた筈だからだ。
写真(ハーネマンの切手。1955年西ドイツ発行)

 かつて、設立当初のある代替医療系学会のサテライト会場で、ホメオパシーを用いた難治性のアレルギー治療の発表が有った。O ・S病院というホリスティック医学の有名病院に所属する若い女医であった。漢方が奏功しないからホメオパシーで治療したとのことだった。

 私は「あれっ、O先生は中西医結合を謳い文句に、難治性の癌の治療に漢方を用い、院内の道場でも気功を指導しているほどで、自身も中国に学んだはず。中国からも交換研修の医師も来ていたはず。それが漢方でアトピー程度が治せないとは? EPAなどのことも知っているはずだし、食餌のコントロールと合わせても治せるはずだが? それに<総力戦>とか統合医療というと聞こえは良いが、なぜ似て非なるホメオパシーなんか病院で始めたのかな。全く原理が相互に異なるのに、漢方薬をホメオパシー的に使って薬物資源の節約を、とかいうアホな本があったが、まさかあの馬鹿薬剤師の悪影響ではあるまいな?(笑)」という疑問を持って会場に行って発表を聞いた。

 発表はひどいものだった。すかさずフロアから質問した。「漢方で効かなかったということですが、院内で漢方治療を担当した医師の弁証論治はどうだったのですか。O・S病院でしたら中医学ですよね? 投薬の経過は? どうダメだったから、ホメオパシーの適応だとして切り替わったのですか?」会場には漢方・鍼灸の実践家ばかりが集っていたので、この質問には多くの方々がうなずいていた。

 「え〜、漢方に詳しくないので、その点で引き継ぎをしていませんからよく判りません」…会場の一部失笑。

 私は続いて「……(驚きで二の句が継げず)……え〜、通常、アメリカの自然医療系の治療では、アトピーの治療をする時には、広範なアレルゲンチェックをしますよね。それはハウスダストのチェックというレベルに留まらず、多くの食べ物のチェックは常識ですよね。嗜好品も一旦全て中断して症状が出現・増悪するかどうかで帰納的にしらみつぶしにチェックしますね。その時、大好物が意外にアレルゲンであるケースも多いですよね。この症例の女性は、偏食の傾向がありますが、嗜好品の中にチョコレートが有りますね。これは自然医療系では最も疑われるものの一つですよね。例えば、これを止めさせてチェックするといった形で検査はされましたか?」

「え〜、特にそういうチェックはやってません」…会場の相当数の苦笑。

 ホリスティックを謳い、ホメオパシーを推進しようという代表的病院でこの有り様である。本人の不勉強は明らかだが、本山でこれなら指導しているO先生のレベルもこれで知れた訳である。漢方治療も、こうなると中医学的弁証がきちんと行われていたかどうかも怪しい。日本漢方的病名処方+食餌のコントロールも無しで(ω6優位)炎症体質を放置していたようである。それは治らんわなぁ。

 しかも、ここの食養は「粗食のすすめ」の、あの御仁ではないか。確かに、日本を初めとする伝統的食生活には多くの科学的な叡智が背景にあるし、西洋的食生活中心の偏食に基づく失調には粗食も結構だろうが、代謝回転に基づくタンパク質の損失は不可避的かつ絶対的なものである。病態も考慮にせねばならないが、健常者でも完全タンパク質(人肉。笑)換算で体重の1/1000を毎日得られなければ縮小再生産に陥ってしまうのだ。
 21世紀になってさえ病院食が、病態も個体差も無視した非科学的=原始的なカロリー一元主義なのも問題だが、現代栄養学の最新の成果を無視するのは明らかに誤っている。

 ともあれ、その時はそれ以上追いつめる質問はしなかったが、ここまでの私の質問で、会場の参加者は主として東洋医学系および自然医療系の医師や実践家なので、全てを理解されたようであった。多くの出版物の割に、総本山に近いこの医師の所属する病院がネット上で意外に評判が悪いのは何となく分かるような気がした。

 コンピュータ版の「マテリア・メディカ」と首っ引きでの当てづっぽう処方を、いくら分子数ゼロで副作用もないからといって(プラセボの持つ副作用と同程度にはあるだろうが)治療に用いるのは、医学的にメリットが有るとは思えない。

 患者はこの間、不適切な治療(=無治療)を受けていた訳だから、まともな漢方クリニックであれば治っていたかも知れないし、何より、東洋医学の力を借りずとも、大学病院とまでは言わないが、まともな皮膚科でなら治っていた可能性さえある。仮にホメオパシーという怪しい代物を治療に使うというなら、西洋医学を修めている人間でありつつ、加えて、せめて海外のホメオパシーの大学や専門学校に留学・卒業したくらいの力量で初めて使うくらいの責任性があるだろうが。
 この程度のレベルで実地治療に用いるとは、東京女子医大の連中の無経験オペと変わらない無責任さではないか。良心のかけらもなく、患者をマテリアルとして用いている。医療倫理的にも問題がある。

 医師免許を持つものが、生化学的・分子医学的基礎が全く無いものを平気で用いるということは許せない。未科学と非科学とは違うのだ。

 漢方薬の多くの作用機序は、証を合わせて投与すれば経験的にはよく効く事が判っていても、かつては分析技術の未熟から不明だったものが有る。大黄が止瀉・緩下の相反する両作用を持ったり、柴胡の代謝物が多すぎてどれが薬効成分なのか同定できなかったりといったことである(もちろん今では判明している。前者は腸内細菌フローラの状態が、後者は肝での薬物代謝が関わっていたのだ)。
 その当時は西洋医学=科学的分析で科学的説明ができなかった。帰納的には治療できるという事実はあったが、演繹的には西洋医学的理論では説明の範疇外だったわけである。

 ただし、この状態は「未科学」であるが、「非科学」的ではないのである。

 というのも、投薬治療と薬効=治癒との間には明らかに因果関係は存在するからだ。ただ、それを説明する方途が未発見なだけだからで、観察・観測・測定手段が発見されれば、一挙に解決して、説明可能になる可能性が常に有る。科学者は謙虚であるべきなので、こうした場合、説明できないものを直ちに否定はしない。なぜなら、そういう態度こそがむしろ非科学的だからだ。

 ところが、水のクラスターが転移の早さ故に同位置を保ちえない=何ら情報を蓄えられないという事実は、いわば高校化学のブラウン運動と同じ原理に起因している訳だから、それが否定されることは有り得ないほどのベーシックな原理に基づいている。絶対零度以外の分子は必ず熱運動しているからだ。よって、水が液体であるという理由によって、溶けていた物質の形を10のマイナス12乗秒を超えて記憶するような性質は水には存在しないのだ。

 にもかかわらず、人体=36.5度という環境下で、さらに加えて、何か特異な状況下において構造化するとして、しかもそれがモル数ゼロにもかかわらず薬理効果を持つように、人体中の一種のレセプターおよび何らかの「翻訳機構」を通して生体秩序を回復する、というように、ここには何重にも無理が有るのだ。レセプター1つとっても、化学物質の濃度依存性なのだから。

 従って、ホメオパシーの原理を正しく有らしめるには、この原理を否定した、全く別の理論体系で、一から物理化学を組立てるしか有りえなくなる(実は、更に困難なことに生化学・免疫学を含む生体メカニズム自体もそれが作用するようなシステムに総取っ換えせねばならぬという信じ難い困難さまで生じてくる筈なのだが、本稿ではそこはネグることとする)。これを包摂した、より上位の物理学体系を作る訳にはいかないからである。
 ところが、それは残念ながら不可能だろう。熱力学の基礎がひっくり返れば、いわばこの宇宙が存在しなくなる。だがこの宇宙は歴然と存在している。それはとりもなおさずホメオパシー理論が誤っている証左である。

 つまり「ホメオパシーの原理を可能にする何かがまだ発見されていないだけだ」という理屈は成り立たない訳だ。
 ここまでの説明の論理展開が判らない者は、そもそも科学が何であるかが判っていない。科学が何であるかが判っていない者が「ホメオパシーは[現代]科学では説明できないが真実だ」と言えるはずはないのは自明だろう(笑)。
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三石 巖著作集「健康自主管理システム」ほか

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