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抗精神病薬は正義か悪か

Archives of General Psychiatryの今月号に、
ちょっと衝撃的な論文が掲載されてるのに気が付いた。

Arch Gen Psychiatry. 2011 Feb;68(2):128-37.
Long-term Antipsychotic Treatment and Brain Volumes: A Longitudinal Study of First-Episode Schizophrenia.
Ho BC, Andreasen NC, Ziebell S, Pierson R, Magnotta V.

統合失調症患者では、一般的に(全員がそうとは限らないが)
罹病期間が長くなると次第に脳が萎縮してくると言われている。
この論文は、統合失調症発症直後から脳のMRI画像を撮影した211名の患者を
平均7.2年フォローアップして脳の容積の減少と相関のある因子を解析したものらしい。

その結果、最も強い相関があったのは「抗精神病薬の投与」であったという。

マジっすかΣ( ̄ロ ̄|||)

「疾患の重症度」も影響してるが「抗精神病薬」ほどではなく、
「アルコールやドラッグの乱用」は明らかな相関が認められなかったとか。

抗精神病薬による脳容積の減少は動物実験でも報告されており、
それが人間でも起こり得るということを示した論文である。

統合失調症を治療しないと、
次第に脳へのダメージが深刻化して回復しにくくなる。
実際に脳の萎縮が進行していくと言われる。
だから抗精神病薬で治療してそれを食い止めつつ社会復帰を図る。
こういう論理が崩れてしまうではないか。

ただ、ちょっと冷静になって考えてみて欲しい。

統合失調症というのは、幻聴や妄想、意欲や感情喪失などの症状により
放置すると人間の社会的能力が障害される病気である。
もし正常な社会生活が営めなくなってしまえば
それは「社会的に」死んでしまうも同然である。
その一方で、抗精神病薬による治療は症状を改善し、
社会性を取り戻すためには非常に有効であることは今さら論じるまでもない事実だ。
とすると、
抗精神病薬による脳容積減少というリスクが現れたところで
それは社会復帰という抗精神病薬のベネフィットを凌駕するものであろうか?

例えばガンになってこのままだと命を落とすだろうという時は
死ぬほどの副作用の可能性があったとしても抗ガン剤を飲むのではないだろうか。
それは抗ガン剤の副作用というリスクよりも
ガンからの回復、生還というベネフィットの方が大きいからではないだろうか。

統合失調症はそれ自体で命を落とすことは無いが
「社会的に」死ぬという可能性は高い疾患である。
ならば脳容積が減少するかもしれないとしても
抗精神病薬を使って治療した方が得るものは大きいと考えるのが普通だろう。
それに、脳容積が減少したからといって
それが何か脳の機能の喪失しているとまではこの論文は言ってない。

むしろ不必要に多剤併用、大量投与することは
このようなデメリットを招きかねないという警鐘と捉えるべきであり、
今回のような報告が上がったことを機会に
本当に適切な用量で治療が行われているのか再チェックする必要はあるだろう。

そして我々薬剤師としては患者さん個々のリスクとベネフィットをきちんと考え、
よりそれらのバランスの取れた処方や
患者さんと主治医と双方の思いを重ねられる処方を提案していきたいところだ。

ということで、
明日も外回り頑張ろう

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