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1ベクレルでも持ち出すな

2012年06月06日

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《藤田祐幸 元慶応大助教授》
■非汚染地帯へ移住を

 ――震災がれきの広域処理が問題になっています

 「非常に残念なことだが、この国は今、原発事故の汚染地帯と非汚染地帯に分かれてしまった。まだ汚染されていない九州は、将来の貴重な資源だ。放射能汚染に対する原則は、汚染は拡散させない、人は汚染された地域から距離をとるということ。だから、がれきを持ち出すのではなく、人を非汚染地帯に移住させる政策が大事だ」

 ――自然界にも放射線は存在します。今回のがれきに含まれる放射性物質は自然界よりも低く、問題ないと国は説明します

 「もちろん自然界にも放射線はあるが、自然界にあるものに対して高いか低いかの比較ではなく、足し算で考えるべきだ。また、放射線は濃淡で判断するのは危険で、できるだけ元の状態で管理することが重要。薄めたり混ぜたりして濃度が低くなったからいい、という考えは間違いだ」

 ――一般の人が浴びる人工放射線の限度量は年間1ミリシーベルトと決められていますが、がれきはその100分の1以下だから大丈夫だとも国は説明します

 「国際放射線防護委員会(ICRP)の前提は、どのような被曝(ひばく)にもリスクがあるというもの。1ミリシーベルトは安全値、許容量ではなく限界値だ。それがいつの間にか、ここまでは安全だ、いや、ここまで越えても安全だというようになってしまった。汚染地帯にある放射能は、1ベクレルでも持ち出すべきではない」

■影響分からない

 ――問題になっているのは低線量の被曝です。がれきの広域処理で、健康影響があると言い切れますか

 「低線量被曝というのは今、議論が始まった段階。将来的に健康にどう影響を及ぼすかは、まだ分からない。だからこそ今、低線量被曝が安全だと判断するのは時期尚早だ。将来予測がつかないことが起こらないようにするため、非汚染地帯を残すということ以外に選択肢はない」

 ――では、がれき処理はどのようにすべきでしょうか

 「域内処理が原則だ。横浜国立大の宮脇昭名誉教授は(津波に備えて海岸線に広葉樹を植える)『緑の防波堤』を提唱している。非常に的を射たアイデアだと思う。がれきというのは単なるごみではない。人々の暮らし、思いが込められたもの。緑の防波堤の下にがれきを埋め、将来の教訓として活用するべきだ」

■農業拠点として

 ――被爆地・長崎として、どのように被災地に寄り添うべきですか

 「汚染地帯に暮らす子どもたちを、夏休みの間だけでも海で泳がせてあげるといったことが、苦しみを知っている被爆地が取り組むべき課題。これ以上ヒバクシャを出さないという誓いを守り、汚染のない所にできるだけ早く人を移住させることが重要だ」

 「そして、九州は将来、日本の農業拠点にならなければならない。汚染地帯の農業を、九州の非汚染地帯に町ごと引き受けて、高齢化、過疎化した農業を活性化する。人を受け入れる方が、きずなになる」

 ――経済的理由や心情的に故郷を去れない人たちはどうすればいいのですか

 「1986年にチェルノブイリ原発事故が起こった。事故が起きれば愛すべき故郷を捨てなければならないということを、25年前に世界中の人が知った。それでもなお、原発にしがみついていたということが、今の問題の原因だ」(聞き手・江崎憲一)

【ふじた・ゆうこう】
 1942年、千葉市生まれ。元慶応大助教授(物理学)。79年の米スリーマイル島原発事故を契機に「原発と人類は共存できない」と訴え始め、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故による汚染地域の調査にもかかわった。2007年、「地震の想定震源域からできるだけ離れたい」と、神奈川県三浦市から本土の西端、西海市へ移り住んだ。

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